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組織の問題解決を、安易に「制度」に頼ってはいけない〜個別に真正面から対応をするのが嫌なだけ〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「はい!あなたルールを侵しましたねー。では罰金です」(写真:Paylessimages/イメージマート)

■「制度化」ニーズはとても多い

私は人事コンサルタントという職業柄、様々な組織の方々から、社員の低パフォーマンスや退職、メンタルヘルスの不調など、その組織の問題について相談をされるのですが、それとセットで「だから、評価・報酬制度を整備したい」というように、何らかの「制度」によってそれを解決したいというお話をされることが多々あります。

■制度化すれば楽になる

経営者や人事の方が、すぐ「制度化」を口にするのも、気持ちはよく分かるような気がします。制度にしてしまえば、後はそれに従って組織を動かしていけばよく、効率的な組織運営ができる、そう思えるからでしょうし、実際、制度化のメリットはそこにあります。組織で起こるいろいろな物事を個別に考え、判断するのは大変です。公平性も維持できるかどうかわかりませんし、その結果、従業員の納得感も担保できるかわかりません。制度にしておけば、制度の出来不出来はあっても、明確な基準であることには変わらないので、従業員はグウの音も出ず従ってくれるかもしれません。言わば、「楽」なわけです。

■それでも制度化はできるだけ引き延ばすべき

しかし、それでも私は、「できる限り制度を導入するのは、引き延ばした方がよいのではないか」とご提案することが多いです。大企業であれば、既に制度が張り巡らされており、その制度を踏まえた解決策を模索しなければいけないとは思います。ところが、まだほとんど制度らしい制度がないベンチャー企業や成長企業(規模を問いません)であっても、制度での解決を望む声が(当初は)多いのですが、私は「慎重に行きましょう」とよく申し上げます。それにはいくつかの理由があるのですが、以下に述べます。

■制度化すると変えにくくなる

まず、そもそも制度とは、人の行動を制約するルールであり、経営層や人事が従業員の皆さんと約束をすることで、自分で自分の行動の自由を奪うようなものだということです。人事制度は、報酬や配置などにも関わり、人の人生に大きく影響するので、一旦導入、つまり従業員と約束してしまったら、簡単に反故にすることはできません。

ところが、今は変化の激しい時代です。昨日までやっていた事業が、明日も継続できるかどうかはわかりません。「組織は戦略に従う」ですから、事業戦略が変われば、組織の作り方や従業員に求める行動も変わります。そしてそれに適した制度も変わるわけです。そう考えると、できるだけ自社の「勝ちパターン」が見えてこない限りは、制度という固定的なルールを作るのは、なるべく待った方がよいということです。自由を自ら捨てることはありません。

■制度化すると例外対応が難しくなる

次に、制度とは、「最大公約数的」なものでしかない、ということです。「例外の無いルールはない」ではありませんが、どこかに線引きすれば、必ずそれには当てはまらないケースが出てくるものです。

例えば、報酬制度で、「このグレードは、基準給が年俸500万円」とすれば、中途採用の際、前職で510万円の人に入社してもらう時、「すまないけども、当社規定により10万ダウンでお願いします」としなければなりません。「10万ダウン」には特に意味がありません。評価が低いわけではなく、単に「制度で決まっているから」です。昇格の規定を決めたら、すごい人材が現れて超法規的な特進昇格をさせたくても、なかなか勝手にはできません(まあ、本当は例外処理をすればよいのですが、あまりたくさん例外を認めると示しがつかなくなっていきます)。すべてのケースを想定した制度を作ることは不可能です。

■制度がなくても個別対応で解決できることは多い

最後に、私が「制度化はできるだけ引き延ばすべき」と思う最も大きな理由を述べますと、それは、上述のようなデメリットのある制度化をせずとも、経営や人事の「個別対応」でできることが本当はとても多いからということです。

例えばの話をします。何らかの事業場の理由でリストラをしようとする際、ふつうは退職金の上乗せなどの何らかの制度を導入します。しかし、制度によってリストラをすると、よくある現象が「いい人から辞めていく」というものです。制度を一旦リリースすれば、それを使うか使わないかの判断は個人に移り、アンコントローラブルになります。そうすると、本来は本意ではない優秀層の流出につながるというわけです(もちろん、優秀層をロックするような制度の工夫もありますが限界があります)。

■個別対応はかなり辛いこと。どこまでできるか

ところが、私が昔在籍した会社は、リストラを制度によってではなく、個別対応でやっていました。「勤続○年以上の人は、いつまでに退職を決めれば、こういう追加の退職金パッケージがあります」とするのではなく、人事担当者がダイレクトにローパフォーマーの方々に連絡し、面談をし、ミスマッチを起こしていることを語り、納得してもらい、新しい道を歩んだ方がよいと説得し、結局、合意の上での退職へと導いていました。制度ではなく、個別に対応していたのです。

もちろんこれはかなり大変なことで、担当者は頭に10円ハゲを作っていたぐらいです。この例は最も過酷な極端な例で、人事担当者のメンタルヘルスを悪化させてまでやるべきとは言いませんが、要は「制度」ではなく「個別対応」でやることにより、組織にとって最も目的にかなった状況が実現できたということです。

■制度化は「最終手段」

少し違うかもしれませんが、昔、伊丹敬之先生が「プロセス下手の構造好き」と呼んでいたものにも似ているような気がします。要は、ミクロな個別対応を細やかにすれば解決できることを構造やルールを作る(制度化する)ということでやってしまうと、過剰に負荷もかかれば、いろいろな副作用も出てしまう。だから、個別対応でできることであれば、まずは担当者が目の前の人々に対峙して、そこで踏ん張るということが先決ではないかということです。それでもダメなら、最終手段としての制度化に進むしかない。それが人事として、組織問題の解決の順序ではないでしょうか。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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