Yahoo!ニュース

そのエントリーシートは本当に必要ですか?〜採用時のエントリーシート不要論〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
やっぱり手書きでないと熱意がないと思われるのかなあ(写真:maroke/イメージマート)

■エントリーシートは学生の大切な時間を奪っている

新卒採用において、多くの会社で最初の入り口としてエントリーシートが導入されています。就活学生はそのため多大な時間を奪われています。聞けば、平均して2~3時間程度、志望度の高い企業向けなら、人に読んでもらいアドバイスを受けるなどして、数日かけている例も少なくありません。もし、これを20社~30社やるとすれば、平気で数十時間から100時間かかるわけです。

大手企業の平均的な合格率は1%前後(100社受けて1社受かる期待値)と言われていますので、大手に行こうと頑張っている学生さんは、極端な場合、数百時間もの長い時間をエントリーシートにかけることになります。デジタルで提出するエントリーシートならコピペもできるのでましですが、手書きのエントリーシートの負荷は大変なものです。採用活動が学業を妨げているとの批判がある昨今、これこそ学業の妨げではないでしょうか。

■実は導入理由が謎の会社が多い

ではなぜ、多くの会社でエントリーシートが導入されているのでしょうか。いろいろな会社の方に質問をすると、「『ふつう』提出させるものなのでは?」「『いい加減な』気持ちで応募してくる学生なんてダメなのでは?」程度の返答しか返ってこないことも多々あります。

しかし、エントリーシートがない会社はたくさんあります。私が採用マネジャーをしていた頃のリクルートもそうです。いきなり選考を受けていただいていました。また、エントリーシートのような面倒なものを出さないのは「いい加減な人」などでなく、単に「それほど志望度が高くない人」です。自社のファンしか採りたくないなら別ですが、引く手あまたな優秀な人が自社のファンである可能性は低い。もっと言えば、そういう志望度は低いが優秀な人材を口説いて入社してもらうのが採用担当者の仕事のはずです。エントリーシートをなくすことができれば、そういう志望度は低いが優秀な人材の応募を促すことができます。

■選考手法としても難しいエントリーシート

「面接を担当する役員がエントリーシートなどを参考にしたいと言うのです」「エントリーシートを書いてくる『筆跡』で、その人の性格が分かるから」等、「選考」もしくは「選考のための資料」として使いたいというところもあります。しかし、私の個人的な意見ですが、エントリーシートで選考をするのは結構難しいのではないでしょうか。作文の採点をするようなもので、精緻にこれは何十何点とつけるのは至難の業だと思います。

しかも、多くの学生はエントリーシートの目的や選考基準がわからず(企業側が明確でないのですから当然なのですが)、戸惑いながら半ば当てずっぽうでいろいろなことを書いてきます。そこに本当に評価したい情報、学生の人となりがわかるようなエピソードがきちんと含まれているかどうかはわかりません。つまり、エントリーシートの中身がNGだからといって、実際の本人が自社にとってNGな人かどうかはわからないということです。

■そもそも設問がいけてない

「いや、エントリーシートの設問の意図がわかっているかどうかも判断材料なのでは?」という方もいます。確かにそれは一理あります。しかし、「設問が適切であれば」という条件がつきます。これまでかなりたくさんのエントリーシートのフォーマットを見てきましたが、そこで最も多く含まれているのは「志望動機」と「自己PR」です。

直截的に言えば、「志望動機」は最初の入り口であるエントリーシートの設問としては不適切だと思っています。エントリーシートを書く段階での多くの学生の本音は「まだそれほど志望していない」です。そういう人に無理やり「なぜ志望しているのか」を書かせても、あまり意味はありません。採用サイトの文章をコピペしたような「事業説明」をされるのがオチです。どうせ設問を作るなら、「なぜ自社に志望しているのか(していないのに)」ではなく、「会社や仕事を選ぶ基準」=「選社基準」を聞くべきです。

「自己PR」は、自由度が高い分不適切とまでは言いませんが、学生の傾向として、主観的な美辞麗句(「私は○○だけは誰にも負けません」等)が並んで、欲しい事実情報が書かれてないことが多い。学生を評価するには、主観的な考え(どう思っているか)よりも、客観的事実(実際何をしてきたか)を聞かないといけないのに、「自己PR」ではそれが出てこない。面接なら突っ込みの質問をすればよいのですが、エントリーシートはできない。だから「自己PR」のような曖昧な設問ではなく、「長期間に渡って、試行錯誤しながら、何か成し遂げたエピソード」「逆境の中、苦労しながら、継続して努力をしてきたこと」等々、制約条件をつけて「具体的な過去のエピソード」をたくさん集める方が良いと思います。

■どうしてもエントリーシートを導入したいなら

それでもエントリーシートを導入したい、もしくは社内事情等でやらねばならいのであればどうすればよいか。その場合、「簡略で(選択式アンケート等)」「その場で書かせて(準備させない。「書いて持って来て」よりも格段に歩留まりが向上します)」「手書きでなく、デジタルデータで(コピペも許容)」などの工夫がお勧めです。ただ、これらは次善の策に過ぎず、あくまでもシンプルにエントリーシートを止めてしまうのが私のお勧めです。学生の時間保護と、皆さんの会社の採用力強化のためにも、是非ご検討いただけましたら幸いです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

曽和利光の最近の記事