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職場の20代が仕事中に動画を見ながら「リサーチ中です」と言ったら

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「今、ちょっと仕事中で手が離せませーん」(写真:アフロ)

■ハードの急速な変化は改めて考えると驚異的

今では70代ぐらいの団塊の世代の方々でも、スマートフォンを使いこなす人は少なくありませんが、日本でiPhoneが発売されたのは2008年7月と、なんとたった10年ちょっと前。それまでは日本人のほとんどはいわゆる「ガラケー」と呼ばれる日本独自規格の携帯を持っていたものです。

昔のドラマなどで折りたたみ式の携帯が出てきて、ものすごい時代感を持ったりしますが、実はそんなに遠い昔ではありません。それだけ急速にハードは進化、普及したわけです。

■メディアの世界も並行して進化

そしてもちろんソフトウェア、特にメディアもそれに応じて変化してきました。SNSの代表格であるFacebookが日本語対応したのもiPhoneと同じく2008年です。それからあれよあれよと普及して、現在では日本人のアクティブユーザー数は2600万人で、4人に1人が使っていることになります。Instagramが若者を中心に3000万人を超えています。

LINEなどは、もっとすごくてアクティブユーザー数が8000万人以上とのことで、我々中高年世代でも名刺交換代わりにLINEを交換する姿を見かけるようになりました。どれもこれも10年前後での実績と考えると驚嘆せざるをえません。

■おじさんの知らないところで大盛り上がり

と、ここまでなら中高年世代も「そうそう知ってる」と安心感を持って読んでいただいていると思うのですが、例えば動画SNSのTikTokやSHOWROOMなどはどうでしょうか。一部のメディアリテラシーの高い方を除けば、あまり知らないかもしれません。

しかし、これらのアプリは若い世代にかなり浸透してきており、日常的に見ている人も多いようです。ほかにも、いくらでも中高年世代の知らないところで大盛り上がりを見せているメディアはたくさんあります(ということで、中高年の私も当然あまり知りません)。

■若者から火がついて、おじさんが鎮火させる

しかし、上述のFacebookやLINE、YouTubeなども最初はすべて若者から火がついて広がっていったものであり、今は若者向けメディアとされているものが、そのうちおじさんだらけになるかもしれません。

実際、元々ハーバード大学の学生達から始まったFacebookは日本では既に「おじさんのSNS」扱いされており、大学生などはアカウントも持っていない人も多いです。事実、Facebookの最も多い日本人ユーザー層は40代です(まあ、団塊ジュニア世代で人口も多いのですが)。Facebookから若者が離れているのかどうか実態は不明ですが、中高年が増えるとうざくて逃げていく気持ちはわかります。

■動画での情報収集は「ふつうのこと」

さて、このようにメディアは栄枯盛衰を繰り返して進化しており、現時点では上記TikTokのような短い動画がどんどん盛り上がってきています。これを踏まえれば、中高年世代から見るとわけのわからない動画も、若者にとっては主な情報収集源になっていると考えるべきなのでしょう。

今までメディアの主役であった新聞や雑誌の多くは、購読者の平均年齢が50歳以上になっているように、もう「紙」の「テキスト」から情報を得る時代は徐々に終わっていっていると見るべきです。

ところが人は、メディアというものにおいては、一度はまったものをずっと使い続けるという性質もありますので、若者が火をつけたメディアになかなか乗らないで一生よくわからないという中高年世代も多いと思います。そうすると、自分の世代の価値観が残存し、「テキスト=フォーマルなもの=仕事」、「動画=インフォーマルなもの=遊び」と考えても仕方ありません。

■わからないものをすぐ批判しない

ただ、LINEやFacebookのように、少し経てば自分たちでも使うようになって「ふつうのこと」になるくせに、最初はすぐに批判的な目で見るのはそろそろやめたほうが良いでしょう。

「本は手触り感のある紙がいいに決まっている」と言っていた人が、きっかけさえあれば知らぬ間に「Kindle版が出ないと本は買いたくない」などと言っていたり、「会議中にスマホをいじるな」と叱っていた上司が、今ではスマホをいじりながら部下の報告を聞くようになったりと、中高年世代の「最初はわからないから批判して、その後、知らぬ間にしたり顔で使っている」というメディアに対する姿勢はとても格好悪いのではないかと思います。

そういう方々は「知らないこと、自分にとって違和感のあることをむやみに批判しない」と念じておくのが良いと思います。大昔は我々中高年世代も「いい成人がマンガなんて読んで」と先行世代に眉をひそめられたではないですか。今ではもうマンガは子どもの読み物なんて誰も言いませんよね。「老いては子に従え」と、昔の人はよく言ったものです。

OCEANSにて、若者のマネジメントについての連載をしています。ぜひこちらもご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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