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「4月入社」と「10月入社」、転職ではどちらを狙うべきか〜入社後活躍の観点から〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「ボーナスももらったし、そろそろ転職活動始めようかな」(写真:アフロ)

■企業の中途採用活動には、そもそも山がある

社会人の人生のなかで、一社一生はむしろリスクだ、という考え方をする人は年々増えています。「転職」を考えるとき、真っ先に悩むのは「時期」でしょう。私は、そのベストシーズンは「6月」だと思います。なぜそう考えるのかについてお話ししたいと思います。

新卒採用と違い、中途採用は通年での受け入れが基本です。しかし、企業の事業年度は、4月から始まり3月で終わるところが多く、事業や要員の計画もこの年度に合わせて行われるのが一般的です。ですから、「採用活動」が最も活発になるのは4月入社を対象としたものです。

内定後、現職のある人は引き継ぎに最低でも1カ月はかかるため、実質12月ぐらいから2月が、企業も転職希望者も勝負所と言ってよいでしょう。

同様の理由で、4月期初の会社であれば、下半期がスタートする10月に向けての採用活動も活発です。

転職活動の時期も同じように考えれば、6月から8月ぐらいがピークです。また、6月、12月がボーナス支給月になっている会社も多いことから、ボーナスをちゃんともらってから転職しようといういわゆる「ボーナス転職」も多く、これらの時期は転職希望者も増える時期でもあります。

10月入社を目指す「6月スタートの転職活動」は、4月入社とは違った側面があります。もちろん、「10月=下期の始まり」ということで、会社にとっても4月入社と同じく「求職人数枠」を追う(埋める)部分はあります。ただ、あくまで「中間目標」であり、4月入社の採用よりは、人事担当側に「埋めなければ」という逼迫(ひっぱく)感はありません。

10月は、新卒採用の結果も見えていません。そのため、10月入社の採用は「新しいプロジェクトが発足してスペシャリティを持った人材が必要」とか、「重要ポストに何らかの理由で穴が空いた。できるだけ早く優秀な人材を確保したい」とか、特別な背景のあるものが相対的に多くなります。

つまり、転職者にとっては「面白い求人が増える季節」だということです。「頭数」ではなく、「唯一無二の人材」としての転職。それが10月入社です。

その転職活動のための最適な時期が、6月〜8月ということになります。

■大切に扱ってもらいやすい「10月入社」

このように10月入社者は、企業のピンチを救う人材という側面があります。ですから、受け入れ先からも歓迎してもらいやすい可能性があります。

4月入社者は、同じタイミングでかわいい新卒の新人達が一斉に大量に入ってきます。そこへの研修やら受け入れにマンパワーを取られてしまい、中途採用の人材へのフォローが手薄になることもあります。

ところが10月入社者の場合は、同じタイミングでは新卒は入ってきません。そういう意味でも、中途採用での入社者の導入サポートに受け入れ側が手をかけることができます。つまり、総じて10月入社の転職者は、(もちろん企業によりますが)4月入社よりも大切に扱ってもらいやすい、という傾向があると言えます。

■中途採用者のオンボーディングは手薄?

ただし、「大切に扱ってくれる」などとことさら指摘するのは、今の日本においてはまだ「中途採用者に対してのオンボーディングが手薄だ」という裏返しでもあります。

オンボーディング(on-boarding)とは、直訳すると「飛行機や船に乗り込む」という意味。転じて、「採用した人材が早く組織に定着して活躍してくれるためのサポートをする諸施策」を表す人事用語です。

新卒採用を「ポテンシャル採用」、中途採用を「即戦力採用」と呼んだり、考えたりする企業が多いため、オンボーディング施策は主に新卒に対して用意され、中途採用には特別なものが用意されない場合さえあります。

これが4月入社の場合は、助長されてしまう可能性がある……人事担当者なら、多少なりと思い当たるフシがあるはずです。

■多くの人が間違う「中途」=「即戦力」という非常識

ただ、様々な会社で人事コンサルティングをさせていただいて思うのは、どんなにキャリアのある中途採用者でも、パフォーマンスを発揮しだすまでに半年や1年はかかる場合も多いということです。

決して、「中途」=「即戦力」ではありません。

むしろ、真っ白な状態でやってくる新卒社員と比べれば、中途社員は前職での考え方や行動パターンを「アンラーニング」(一度学習したことを忘却すること)して変える必要がある場合もあります。むしろ、新しい環境に定着するのに労力を要するとも言えます。

これをわかっていない企業は、中途社員の入社後低迷や早期退職に苦しむことになります。入る側からしても、心機一転飛び込んだ新天地で、受け入れ側が「お手並み拝見」と冷たく眺めているような状況では、どれだけ持てる能力を発揮できるでしょうか。

■中途採用者への「お手並み拝見」といった冷たい対応は会社への馴染みを遅くする

中途採用、転職というのは、人間に例えれば、「離婚と再婚を同時に行うようなもの」。本来とても大変な出来事です。ところがこれだけ転職が珍しくなくなってくると、そのことが忘れられているような気がします。

転職者にとって、「転職成功」するために新しい環境でうまくスタートを切れるような準備は、できるだけやっておくべきです。

例えば、転職の際のタイトル(肩書き)です。肩書きにこだわる人は結構いますが、意外なことに「少し下のグレード」から入社した方が、その後のスピード出世までうまくいく人は多いと感じます。「少し下」から入ることで期待値がほどほどなため、成果が上げやすいからです。

ところがいきなり「上」から中途入社すると、逆のことが起きます。受け入れ側も「お手並み拝見」で冷たい対応になりやすくなってしまうのではないでしょうか。

■人材エージェントの「上手な使い方」

もう1つ、転職者の方に持ってもらいたい重要な視点があります。転職の成功は「内定」ではなく、「入社後の活躍」だということです。

ですから、入った後に自分が思い描く成果を出すための「条件交渉」や「環境要望」は是非しておくべきです。

人材エージェントを通じた転職なら、エージェントを通じて担当者にそういうサポートを打診してもらっても良いでしょう。

■結論

最後に改めて、本稿のテーマである「時期」です。

結論を言うなら、その後の受け入れ側のサポートなどを考えると、6月にボーナスをもらってから転職活動をスタートして、10月入社を目指す。これは、金銭的メリットを最大化する意味でも良い時期です。

もちろん、転職は時期だけではありません。

ただ、入社後の動き方までイメージして、少しでも自分が活躍できる確率を上げることは、転職の成功に確実につながります。ご参考になりましたら幸いです。

BUSINESS INSIDERより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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