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注意! SNSやYouTubeなどで大麻使用を勧めると処罰される可能性があります!

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(提供:Mono_tadanoe/イメージマート)

■はじめに

 最近、SNSやYouTubeなどで、外国に行ったときの大麻体験を公言している人をみかけます。もちろん、娯楽用大麻を解禁している国や地域(カナダやアメリカの一部など)で、そこでの条件を守っている限り、大麻吸引などの行為は合法であり、現地では何も問題は生じません。

 また、日本では大麻の栽培や譲受、所持などを処罰する規定は存在しますが、現時点では〈大麻使用〉を処罰する条文が存在しませんので、国外犯を処罰する規定(第24条の8)があるにもかかわらず、海外での〈大麻使用〉じたいを処罰することはできません。

 ところが麻薬特例法(正式名称:国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律)第9条は、日本国内で大麻使用をあおったり、唆(そそのか)したりする行為を処罰しているのです。

第9条 薬物犯罪(前条及びこの条の罪を除く。)、第6条の罪若しくは第7条の罪を実行すること又は規制薬物を濫用することを、公然、あおり、又は唆した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 麻薬特例法とは、日本が1992年6月に批准した麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約、いわゆる麻薬新条約を補完徹底するために、国内法を整備することを目的とした法律です。この条約は、特に薬物不正取引から生じる収益の剥奪を目的としています。

 麻薬新条約第3条1(c)iiiは、締約国が自国の憲法上の原則及び法制の基本的概念に従うことを条件として、「この条に従って定められる犯罪を実行し又は麻薬若しくは向精神薬を不正に使用することを方法のいかんを問わず公然とあおり又は唆すこと」を「犯罪とするため、必要な措置をとる」ことを求めており、麻薬特例法はこの条約上の要請に応えるものとして制定されました(太字筆者)。

■第9条の具体的な内容(解釈)

 第9条の罪は、薬物犯罪等(第2条2項=麻向法違反、覚醒剤取締法、あへん法、大麻取締法違反など)を実行すること又は規制薬物を濫用することを「あおり、又は唆す」ことによって成立します。

 「公然」とは、不特定又は多数の人が知ることができる状況のことです。

 「あおり」とは、一般には違法行為をさせる目的で文書や絵、動作などでその行為を実行する気を起こさせること、あるいはすでに決意している者をさらに焚きつけるような行為です。「唆し」とは、人に対して違法行為の実行を決意させるようにすることですが、実際に相手が決意したことまでは必要ありません。感情に訴えるような場合が「あおり」であり、理性に訴え、説得するような場合が「唆し」です。

 たとえば、大勢の人が集まっているところで、そこにいる人に対し、規制薬物を使用する気にさせるようなことを演説したり、そのビラを配ったりする行為、あるいはテレビ、ラジオ等を使って同じようなことを言ったりする行為などです。

 ツイッターやFacebookなどのSNS、YouTubeなどの動画配信などは、不特定多数の者が見聞きする可能性がありますので、まさにこれに当たります。したがって、たとえば大麻解禁国に旅行に行って、そこでの大麻経験を得意げに報告し、視聴者に勧めるような行為は、本条に該当する可能性があります。

■疑問点

 大麻に関していえば、現在は〈大麻使用〉そのものを処罰する規定は存在せず、したがって犯罪ではありません(所持罪や栽培罪、譲受罪などが適用されます)。そうすると、大麻の使用それじたいをあおったり、唆したりすることがなぜ本条に該当するのかという疑問が出てきます(向精神薬の使用も処罰規定が存在しないので同じです)。

この点について、法務省関係者は次のように説明しています。

「これらの規制薬物を濫用することをあおり、唆す行為は、単に自分一人が使用するのとは異なり、これらの規制薬物を濫用することの危険性に関する人の認識を誤らせ、規制薬物の濫用をまん延させ、ひいては薬物犯罪を助長するおそれのある行為であり、その違法性は、単なる使用より強いものがあることから、これを処罰することとしたものである。」(太字は筆者)(本田守弘「麻薬新法における犯罪規定」ジュリスト1991年12月号(992号)83頁(他に『大コンメンタールI 薬物五法(麻薬等特例法)』(1994年)50頁以下)

 現在、大麻に関しては、その身体的有害性はアルコールやタバコに比較してかなり低いという研究結果が報告されています。たとえばアメリカの「マリファナと薬物乱用に関する国家委員会」の最終報告書(1972年)や、薬物の専門家からなる薬物政策国際委員会による「薬物有害性の加重スコア」(2019年)などが有名です。これらの報告書が提起している問題を科学的に議論することが喫緊の課題であり、「規制薬物を濫用することの危険性」の中身が今まさに問われているのだと思います。

 もしも大麻の身体的有害性が、他に規制されている有害物質に比べてそれほどのものではないとすると、その使用を肯定的に訴えることがなぜ犯罪とされなければならないのかということです

 なお、人類と大麻の関係には何千年もの歴史があり、大麻を犯罪として取り締まってからはまだ100年ほどの時間しか経っていません。したがって、この条文が安易に適用されることは表現の自由の観点からも問題ですが、たんに大麻の無害性やその有用性を主張し、大麻取締法の問題点を指摘し、規制じたいの廃止を求めるような言論は、なんら制限を受けるような言論ではなく、当然本条で処罰されるようなものではありません。(了)

*麻薬特例法第9条は、当初第12条にあった規定ですが、平成11年のいわゆる組織犯罪処罰法の整理に伴う改正によって現在のように変更になりました。

【参考】

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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