フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた木村花さんの急死をめぐり、生前の彼女に対する非難が問題視されている。番組での言動によって、Twitterなどで炎上状態が続いていたからだ。死因は不明だが、こうしたSNSでのバッシングが関連していると見る向きが強い。

 インターネットにおける非難・中傷は、日本だけでなくさまざまな国で問題となっている。概してそれは多くの匿名者が、特定の人物を集団で追い込む状況だ。つまり「炎上」だ。

 そこで注視すべきは、加害者と被害者の関係はもちろんだが、TwitterやInstagramなどのSNSがバッシングを誘発しやすいことだ。より具体的には、SNSがひとびとの「怒り」などのネガティブな感情を増幅させることにある。哀しさに打ちひしがれる被害者は、正義の名のもとに「怒り」を噴出させている加害者が生んでしまった可能性がある。

“危ない場所”になったTwitter

 ここ数年、韓国ではKARAのク・ハラさんなど、日本でも人気のK-POPスターが急死するケースが相次いでいる。こうした極端な事例だけでなく、韓国では芸能人がネットでの誹謗中傷に苦しんでいる事態がかねてから問題視されてきた。ニュースサイトで悪質なコメントが止まらないからだ。それもあって複数の大手ポータルサイトは、ハラさんの死後に芸能ニュースのコメント機能の廃止をしたほどだ(※1)。とはいえ、それで問題が解決するわけではない。悪質コメントの中心はSNSだからだ。

 日本においても、排外主義者による在日韓国・朝鮮人などに対する差別の問題は、2016年にヘイトスピーチ対策法が施行されるまでにいたった。いまだにこの差別を大きく駆動しているのは、SNSにおける排外主義者の言動にある。

 ただ、こうしたネットでの非難や差別は、かならずしも芸能人や外国人だけが被害を受けているわけではない。未成年者においてはいじめと関連し、一般の社会人であってもバッシングされるリスクは常にある。しかもこうした状況は、日本や韓国だけでなく世界中のひとびとに共通するものとなった。

 なかでも、Twitterがとくに“危ない場所”になったのは、最近のことではない。そこは、常にだれかを非難することにエネルギーを費やすユーザーが大勢待機する空間だ。

 おそらく、彼らの多くは他者への非難に強い自覚を持っていない。有名人、なかでも芸能人に対してはとくにそうだろう。その多くは、テレビを観ながら自宅でひとりごとを発するかのようにツイートをしているにしかすぎない。たとえそれが有名人のアカウントへのリプライというかたちであっても、その場合に相手に伝える意識は希薄なケースが多い。とくにバズったツイートに対しては、リプライとして束ねられることを意識しているケースが珍しくない。その場合、相手は「他者」として自覚されず、単なるTwitter上の記号としてしか認識されていない。

無自覚な「公共性なき正義」

 その一方で、自覚的になされる非難もあるだろう。みずからの良心や正義に従って、他者に対して強いことばを投げつけるケースはしばしば見受けられるからだ。実際、『テラスハウス』での言動をめぐって、木村花さんに直接非難をぶつけていたひとたちのなかにも、そうしたタイプは少なくないかもしれない。みずからの“良心”として、あるいは非難ではなく“批判”としてツイートしているケースだ。

 こうしたタイプには、インターネットでオピニオンリーダー(インフルエンサー)として自覚的に活動しているケースも少なくない。Twitterには、過激な投稿で多くのフォロワーを抱えた有名無名のひとびとが多く確認できる。それは、Instagramやはてなブックマークでも同様だ。

 その多くは、みずからの良心や正義に疑いを持つ様子はうかがえず、瑕疵のある相手を徹底的に糾弾することを善きこととしている。加えて、インターネットでは限りなく自由な言説が許容されるべきであるとする、リバタリアン(自由至上主義者)的志向も見て取れる。

 しかし、そのほとんどはみずからの言動が近視眼的であることには気づいていない。糾弾後に残る惨状のリスクへの想定が見られないからだ。その惨状によって生じやすくなった非難の矛先が、こんどは自分や自分が愛するひとへ向けられることへの想像力は乏しい。これは端的に公共性に対する意識の欠如でしかない。

 Twitterでこうした「公共性なき正義」を振り回すユーザーには、文化人や政治家が目立つが、一般人も多く含まれる。多くのフォロワーを抱える彼らは、「ツイッター総会屋」と呼ぶに相応しい言動でときに「炎上」などの状況もリードする。

 そうした人物の多くは、今回は木村さんを誹謗中傷してきたTwitterユーザーを非難している。たしかにそのときの「正義」意識は、社会通念上は間違ったものだと認識されないが、そこで非難Aに対する非難Bが生まれていることもたしかだ。

 つまり、そこでは状況的に負のスパイラルが生じている。しかも当人は「正義」の御旗のもとに、さらなる非難を生じさせていることに気づいている様子も見られない。意識(「正義」)は正しくても、行為(非難)は誤っている状況に無自覚だ。このようにして、Twitterは日に日に惨状の度合いを増している。

ビリー・アイリッシュが描く孤独感

 このように惨状と化したSNSがひとびとのメンタルヘルスに与える影響は、この5年ほど日本に限らず世界的に注目されている。とくにアメリカでは、さまざまな調査から若者の変化が確認されている。

 心理学者のジーン・トゥウェンジ(サンディエゴ大学)は、それを率先して警告してきたひとりだ。彼女は、著書“iGen”(2017年/未邦訳)において、さまざまなオープンデータを用いて2012年以降に10代の若者が極端な変化をしていることを指摘している(※2)。

 その内容は多岐に渡る。デートや性交経験年齢の上昇、運転免許取得率やアルバイトの低下などもあるが、そうしたことよりも彼女が憂慮しているのは、うつ病と自殺率の割合が急増していることだ。それはデータからしっかりと確認できる。

 図にあるように、過去12ヵ月間にうつ病の症状を有した12~17歳と18~25歳の若者の割合は、2011年から5%も高まっている。自殺率や自殺念慮も同様の右肩上がりとなっており、とくに女性はその傾向が強いとトゥウェンジは指摘する(※3)。そして、その要因をSNSとスマートフォンに見る。

Twenge, J.M., 2019より(※4)。
Twenge, J.M., 2019より(※4)。

 こうしたアメリカの若者の変化は他にも多く指摘されているが(※5)、ポップカルチャーでもそうした兆候は多く見られる。なかでも日本でも人気のNetflixドラマ『13の理由』(2017年~現在)や、歌手のビリー・アイリッシュの人気はそれを示唆するものだろう。

 ビリー・アイリッシュの場合、日本でもよく知られる’bad guy’はポップな曲調だが(歌詞は暗いが)、他は陰鬱な雰囲気の曲ばかりだ。たとえば’bury a friend’(「友達を埋葬しろ」)は、自身のなかにいるモンスター(友達)との葛藤を描いたものだ。現在は、こうしたあまりにも暗い表現をするミュージシャンが、世界的に大ヒットしている時代だ。

 トゥウェンジはスマホとSNSによって若者に変化が生じたことを指摘したが、そこで注視するのは孤独感の高まりだ。複数の調査をもとに彼女は、SNSの使用が孤独感を強めると分析する。ビリー・アイリッシュが描いているのは、まさにそうした若者の感性だ。

 孤独感は、心理学においては重要な概念だ。たとえばナチスを生んだ権威主義的パーソナリティには、その背景に強い孤独感があるとされる。実際2年前、イギリスのメイ首相(当時)は孤独担当大臣のポストを新設したが、そこには社会関係資本が社会的・経済的に大きなマイナス要因となる認識があったからだ。

Twitterで壊れるひと

 SNSとメンタルヘルスについての関連を示唆する調査結果は、テレビや新聞などを対象とした従来のマスメディア研究ではなかなか見られないものだった。さまざまな調査から導き出されてきたのは、マスメディアが直接ひとに与える影響は限定的だとする結果だ。選挙における投票行動だけでなく、メディアの暴力や性表現がひとに強い影響を与える調査結果はほとんどない。

 それよりもメディア研究の歴史で定説とされてきたのは、影響は「コミュニケーション2段階の流れ」で確認されることだ。具体的には、メディアの情報を先駆的なオピニオンリーダー(インフルエンサー)が摂取し(1段階)、その人物が周囲のひとびとに影響を与えていく(2段階)というものだ。つまり、多くのひとびとはメディアの情報を鵜呑みにすることはあまりないが、自分が信頼するひとの意見ならば受け入れるというものだ。

 しかしトゥウェンジや、あるいは社会学者の辻大介によるネット右翼の調査など(※6)では、ネットメディアがひとびとの意識に直接的に影響を与えるという結果が出ている。これらは、従来の(マス)メディア研究では見られなかったものだ。ネットは、ひとの人格を強く変えてしまう可能性がある。

 こうした調査結果を踏まえて思い起こすのは、Twitterで「怒り」の感情をむき出しにするひとびとの姿だ(それがたとえ「正義」を理由に発せられていたとしても、その「怒り」に公共性が乏しいことはすでに指摘した)。またそうした「正義」発の「怒り」でなくとも、ネガティブなツイートばかりするひともいる。

 加えて「怒り」の感情を噴出するひとには、そのツイート内容がどんどん過激になっていく傾向も見受けられる。フォロワーの視線を意識していることもままあるのかもしれないが、Twitterによって感情が壊れているようにしか見えないケースもある。極端に神経質となり、怒りっぽくなるひとだ。

  

「怒り」スパイラルへの対策

 状況的にいえることとしては、インターネット以前と以後で大きく変化したのは、コミュニケーションの質と量だ。ネット以前は限られていた非対面型コミュニケーションを多くするようになり、おそらくコミュニケーション総量も格段に増えた。以前と比べてパーソナリティ(人格)を社会に曝露する機会が増え、しかもその対象には多くの見ず知らずのひとも含まれる。むかしなら芸能人など一部のひとの特権だった有名性を、大なり小なりだれでも体験できるようになった。

 しかし、その有名性はかならずしも快楽に結びつくとは限らない。Twitterが惨状と化しているのはここまで見てきたとおりだ。よって、それは(エゴサーチも含めて)四六時中みずからの悪口を耳元で囁かれるような状況だ。それで人格に変化が起きないことのほうが考えにくい。すでに「怒り」に覆われているTwitterは、ユーザーをどんどん「怒り」のスパイラルに巻き込んでいく。

 そして、もしそうした負の感情が、トゥウェンジの指摘するように孤独感によってもたらされているのならば、それは完全に悪循環だと言える。[孤独感→「怒り」→孤独感……]のエンドレスだからだ。「怒り」の放出を続けるひとにはだれも近寄らなくなり、孤独感がさらに強まることは容易に想像できる。実際、そうした悪循環にはまった知り合いがいるひとも、けっして少なくないはずだ──。

 こうした状況に対して、可能な対策は限られている。

 ひとつは、TwitterなどSNSの運営側がしっかりとした策を練ることだ。

 すでにフェイスブックが運営するInstagramでは、他ユーザーの「いいね!」数が表示されない仕様となった。これは、他者との比較がメンタルに与える影響を考慮したからだと考えられる。

 また、Twitterも数日前からリプライの制限オプションのテストを始めた。これはツイートへの返信を「全体/フォロー相手のみ/返信相手のみ」の3つから選択できるものだ。悪質なコメントやいわゆる「クソリプ」を排除するための機能だといえる。

 もうひとつは、法的措置のハードルを下げることだ。誹謗中傷についての裁判等は、まだコスト的にハードルが高い。芸能人に対する事実無根のバッシングや在日朝鮮人に対するヘイトスピーチでは、多額の損害賠償が認められた前例もあるが、裁判費用や時間、労力などを考えると二の足を踏む人が多いのも当然の状況だ。とくに運営会社に対する情報開示請求の手続きは面倒なものだ。こうした点を法的に改善していくことが、ひとびとの「怒り」の噴出を抑止することにもつながるかもしれない。

 ただ、なにより言えることはTwitterをはじめとするSNSとの関係を、個々人それぞれ見直していくことが肝要だろう。ほとんどのひとにとって暇つぶしでしかないと想像されるが、SNSでのコミュニケーションは自分や他者、そして社会にとってどれほど有益か考えることが求められる。サービスの仕様や法律に頼るまえに、個人で判断できることも決して少なくないはずだ。

■註釈

※1:最大手の『NAVERニュース』と、準大手の『DAUMニュース』だが、廃止されたのは芸能ニュースのコメント欄のみだ。また『NAVERニュース』は読者が感想を表現する絵文字機能にも改良を加えた。

※2:彼女は、こうした変化を見せた若者を“iGen”=「i世代」と名付けた。その定義は、1995年以降に生まれ、携帯電話とともに育ち、高校入学前にInstagramのページを持ち、インターネット以前の時代を知らないことだ(Jean M. Twenge "iGen: Why Today's Super-Connected Kids Are Growing Up Less Rebellious, More Tolerant, Less Happy--and Completely Unprepared for Adulthood--and What That Means for the Rest of Us", 2017, Atria Books)。

※3:あえて本文では書かないが、昨年日本では19歳以下の自殺率が1978年以降では過去最悪となった。自殺者の総数は近年かなり抑えられてきたが(それでもOECDではワースト3位圏内だが)、それに反して10代が増えている事態は重大な問題を示唆している可能性がある。詳しくは、高橋暁子「10代の自殺率は過去最悪に、LINEでも相談できない男子生徒を見守る必要性は高い」(2020年1月18日/『Yahoo!ニュース個人』)

※4:Jean M. Twenge, A. Bell Cooper, Thomas E. Joiner and Mary E. Duffy, Sarah G. Binau'Age, Period, and Cohort Trends in Mood Disorder Indicators and SuicideRelated Outcomes in a Nationally Representative Dataset, 2005-2017', 2019, "Journal of Abnormal Psychology" Vol. 128, No. 3, 185-199 (→PDF)。なお、こうしたトゥウェンジによる問題提起は日本ではまだあまり紹介されていないが、日本語で解説した数少ない記事のひとつとして、satomi「iGen(スマホ世代)の生態が違いすぎて怖い。米ティーンの自殺率が40年で最悪に」(2017年/『GIZMODO』)がある。

※5:たとえば、Nancy Jo Sales "American Girls: Social Media and the Secret Lives of Teenagers" (2016、Vintage、未邦訳)や、Greg Lukianoff, Jonathan Haidt ’’The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure’’ (2018年、Penguin Books、未邦訳)がある。前者はジャーナリストによるルポルタージュ、後者は心理学者による専門書だ。

※6:辻大介、齋藤僚介「ネットは日本社会に排外主義を広げるか──計量調査による実証分析」(2018年/「電気通信普及財団研究調査助成 成果報告書 第33号」/→PDF)。ネット利用が排外主義的意識を高める効果があるとする結果が出ている。