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世界チャンピオンの復帰ロード

林壮一ノンフィクションライター
撮影:筆者

 2023年1月6日に、WBOミニマム級王座から陥落した谷口将隆。昨年8月5日にライトフライ級で再起した。5ラウンドに顎を2カ所骨折しながら勝者となった。

 谷口は振り返る。

撮影:筆者
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 「試合当日に入院し、翌日に手術しました」

 担当医は「スパーリングが出来るまでに半年かかる」と告げたが、8月15日より、ジムワークを再開した。

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 「術後、痛みや違和感が無かったので練習していたのですが、1カ月後検診で『少し、治りが遅い』と言われ、2カ月後、3カ月後もやはり同じ状況でした。なので、再手術を受けたんです。骨折したラインの上に歯の根元があったんですね。犬歯を除去したんですよ。

 スパーリングの許可は今年の2月に出て、3月頭からやっています。スーパーフライ級の選手にガッツリ一発もらった時も大丈夫でしたよ(笑)」

撮影:筆者
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 復帰を目指す谷口は、8月からこれまで、フィジカルの強化、特に下半身を鍛えた。

 「とにかく、土台作りをやりました。ミット打ちをしていても、サンドバッグを叩いていても、自分の最大限の馬力を出せていないと感じ、パンチが当たる瞬間のインパクトを課題としてやってきました。

 自分は何故KO出来ないのか? タイミングが悪いんですね。ズレもあります。攻と守が分離していましたし、体重を拳に、それこそ一点集中しなければいけないと、心底感じます。まだ、自分のイメージからは程遠いですが、距離感やタイミングが掴めてきたんですよ。今、ボクシングが楽しくて仕方ないです」

撮影:筆者
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 理論派の谷口は、後輩の面倒見もいい。ちょっとしたアドバイスが、若い選手たちに気付きを与える。ボクシング番組で解説を務めても、その語り口は、実に的を射ている。

 「デビューしたての若手を見ていても、“こういうところを意識しているんだな”とか“自分には出来るかな”って立ち返ることが多いですね。見ることもボクシングの勉強に繋がります。頭をいかに使うか。考えて戦えるか。神経に水を入れていく作業を重ねたので、僕は、キャリアの中で今が一番強いと感じます。

撮影:筆者
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 とにかく考えてボクシングをして、引き出しを増やしたいです。経験したことと、していないことの差は計り知れないですし。疑問が生じたら、人に訊くようにしています。第三者の目って大事じゃないですか。一人でやっていると、どうしても頭でっかちになってしまいます。自分の考えと動きにズレを無くしていきたいんです」

 傷が癒えた谷口は、次に何を見せるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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