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10ラウンド終了時点までイーブンだったWBCフライ級タイトルマッチ

林壮一ノンフィクションライター
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 試合開始時点で20勝(15KO)3敗だったWBCフライ級チャンピオン、フリオ・セサール・マルティネスが、18勝(12KO)1分けのアンジェリーノ・コルドバを下して同タイトル7度目の防衛に成功した。スコアは114-112が2名、残る1名は113-113だった。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 ジャブの差し合い、そして接近戦と非常に見応えのある、まさに「toe to toe」ファイトだった。メキシコ人チャンピオンも、ベネズエラ人挑戦者も、強いハートを持っていた。

 マルティネスは同ベルトを保持したまま、2022年3月5日に1階級上のWBCダイヤモンドタイトルを懸けてローマン・ゴンザレスと戦い、敗れている。しかし、これで3連勝となった。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 4冠統一スーパーミドル級王者、サウル・"カネロ"・アルバレスの参謀として有名なエディ・レイノソの指導を受けるマルティネスは、第3ラウンドで2度のダウンを奪う。どちらもハードジャブでコルドバのバランスを崩し、そしてキャンバスに沈めた。

 序盤にリードを奪われながら、コルドバも意地を見せる。フットワークを駆使してチャンピオンに食らいつく。クロスレンジでの展開が多く、マルティネスは両目の周りに切り傷を負った。そのなかには、左目の上の傷も含まれており、ラウンド間にドクターチェックが必要となるケースもあった。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 興味深いデータがある。10ラウンド終了時点での採点だ。ジャッジ3名がそれぞれ、94-94でイーブンとしていた。こうした均衡したファイトで、明暗を分けるのは、最後の集中力である。

デラホーヤを下したトリニダード
デラホーヤを下したトリニダード写真:ロイター/アフロ

 1999年9月に行われたWBC/IBF統一ウエルター級タイトルマッチ、オスカー・デラホーヤvs.フェリックス・トリニダード戦もそうだった。勝利を確信し、最後の3ラウンドを逃げたデラホーヤに対し、試合終了のゴングまで獲物を狙い続けたトリニダードが僅差で勝利を手にした。

 この夜のマルティネスは、デラホーヤ戦のトリニダードを彷彿とさせた。最終の2ラウンド、消耗しながらもギアを上げる。繰り出したパワーパンチの数が18と、13の挑戦者を上回り、キャリアの差を見せ付けた。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 挑戦者のコルドバは、マルティネスよりも 200 発以上多くのパンチを放った。Compuboxの記録によれば777発。マルティネスのそれは、567。しかし、パンチをヒットしたパーセンテージは、チャンピオンが33%、チャレンジャーは25と、正確性でマルティネスに分があった。

 ただ、コルドバも次に繋がる黒星である。28歳のベネズエラ人は、敗北を肥やしにしてほしい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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