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僅か1試合で世界ヘビー級10位となった男

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 WBCヘビー級10位にランクされるカメルーン人ファイター、フランシス・ガヌーと、元WBA/IBF/WBOヘビー級チャンピオンのアンソニー・ジョシュアが3月8日に対戦する。

 総合格闘技UFCのスター選手としてキャリアを重ねてきたガヌーだが、それ以前にボクシングジムに通った経験があると伝えられている。実際、ボクシングデビューとなった2023年10月28日には、現WBCヘビー級王者のタイソン・フューリーとノンタイトルで戦い、3回に左フックでダウンを奪った。

 結果的にはスプリットディシジョンで敗者となったが、一人のジャッジがガヌーの勝ちとしたように、大金星を挙げていてもおかしくない内容だった。

写真:ロイター/アフロ

 一方、27勝(24KO)3敗のジョシュアは2019年6月1日に、安牌として選んだ筈のアンディ・ルイス・ジュニアにKO負けして3冠王座から転落。再戦で雪辱を果たすも、クルーザーから転向したオレクサンドル・ウシクにベルトを奪われ、リターンマッチでも黒星を喫した。もはや黄昏時である。

写真:ロイター/アフロ

 ガヌーはジョシュアの顎を狙うと宣言しており、フューリーからダウンを奪ったパフォーマンスがフロックではなかったと証明するつもりだ。ジョシュア戦が正式に決まった際の記者会見で、彼は次のように述べた。

 「私はボクシング界では初心者で、劣勢が囁かれている。が、一生懸命トレーニングして、試合に勝つよ。タイソン・フューリー戦は上手く戦えたし、素晴らしい内容だったという自負もあるが、もう過去のこと。今、私の目の前には新たな挑戦がある」

写真:ロイター/アフロ

 ガヌーは相手をKOすることこそ、ファンが熱狂することを理解している。

 「以前よりも真剣にボクシングに取り組んでいる。なぜなら、大きな成功を目指しているから。ジョシュアは顎が弱いとも聞くが、本当かどうか分からない。我がチームは、それを解明するつもりだ。試す機会があればいいのだが…。試合では、顎だけでなく、殴れるところならどこでも殴るよ。

 おそらく、私はこれまでに誰も出来なかったことを成し遂げるだろう。自分が成功を手にする要素を備えていると確信している。ジョシュア戦の勝利が、そのきっかけになるんじゃないか」

写真:ロイター/アフロ

 ジョシュアは昨年の4月、8月、12月、そして今回とハイペースでリングに上がり、タイトル奪還への強い意欲を見せている。

 元3冠王者は言う。

 「試合は必ず何かに繋がる。このファイトは今の僕のすべてだ。ガヌー戦が自分をどこへ導くかを感じたい。今のところ、チャンピオンベルトのことは考えていない。ガヌーに集中し、厳しいトレーニングキャンプを乗り切らねばならない」

写真:ロイター/アフロ

 UFCでの扱われ方に納得出来ず、37歳にしてボクサーデビューを果たしたガヌー。フューリーは単なる咬ませ犬として彼を選んだが、そのチャンスを、ある程度生かせた。WBCも世界10位として認めた。

 ガヌーは、第2戦となるジョシュアとのファイトで更にステップアップを果たせるか。昨今のお寒いヘビー級において、辛口スパイスとなりつつある。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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