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井上尚弥のスパーリングパートナーを初回でKOした37歳

林壮一ノンフィクションライター
撮影:山口 裕朗

 「こんなに早く試合が終わるとは思っていなかった。我々は12ラウンド、フルに戦う準備をしていたからね」

 10月末日に後楽園ホールで行われたWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級タイトルマッチで、初回KO勝ちで王座を防衛したTJ・ドヘニーのサブセコンドは、試合直後の控室でそう話した。

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 元IBFスーパーバンタム級チャンピオン、岩佐亮佑のラストマッチの相手を務め、井上尚弥や中谷潤人のスパーリングパートナーとして日本でも名が知られるようになったジェフ・ラミドは、同タイトルとIBF4位であるドヘニーを踏み台として弾みをつけたかった。

 11戦全勝(4KO)と怖いもの知らずのラミドは、この8月にLAでインタビューした折、「成長して、2年後に井上尚弥に挑戦したい」と語っていた。

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 サウスポー同士の戦いとなったファイトは、序盤からラミドがスピードに乗って上、下、とジャブを放つ。

 WBOアジアパシフィック王者は、そんなラミドの動きを観察していた。1分52秒。世界4位がジャブ・ワンツーの左ストレートをクリーンヒットし、早くもダウンを奪う。

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 この時、ドヘニーにコーナーからは「Hunt!」「Hunt!!」の声が挙がっていた。試合続行の意思を見せる23歳だが、足元が定まらない。その後も連続して左ストレートを浴び、レフェリーが試合を止めた。

 御存知のように「Hunt」は直訳すれば「狩る」だが、文字通り、王者は13歳下の若者を仕留めた。

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 試合の2日後に37歳のバースディを迎えるドヘニーと23歳のフィリピン系アメリカンでは、潜り抜けてきた修羅場の数も、底力も大きく違った。

 この勝利でドヘニーのランキングは上がることだろう。WBO王座に就いているのは、井上尚弥である。若手を捻じ伏せたベテランの挑戦は、具体化するか…。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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