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35歳のマルセロが率いるフルミネンセが南米チャンピオンに!

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 現地時間4日にリオデジャネイロで行われたリベルタドーレス杯決勝は、フルミネンセが延長でボカ・ジュニアーズを2-1で下してチャンピオンとなった。ブラジルvs.アルゼンチンの名門チーム同士の対決は、文字通り手に汗握る死闘となった。

写真:ロイター/アフロ

 キャプテンマークを巻いていた訳ではないが、フルミネンセでリーダーシップを発揮していたのが35歳の元セレソン、マルセロだ。先発でピッチに立ちながらも、ハーフタイムでベンチに下がったものの、後半から試合終了まで、仲間を鼓舞し続けた。

 背番号12の左サイドバックは、16シーズンのレアル・マドリード在籍中に、チャンピオンズリーグとスペイン・スーパーカップで5度ずつ、6度のラ・リーガ、4度のクラブワールドカップ、3度のヨーロピアン・スーパーカップ、そして2度のコパ・デル・レイで優勝したキャリアを誇る。

写真:ロイター/アフロ

 フルミネンセの下部組織で育ち、2005年にトップチームに引き上げられたマルセロ。レアル・マドリードに移籍したのは2007年だが、自身の原点に戻ってのVは万感の思いだったようだ。

 試合後、マルセロはESPNに語った。

 「レアル・マドリーも理解してくれるだろうね。クラブレベルで、これは自分にとって最も重要なタイトルだ。なぜなら私を育ててくれたチームだからだ。心から愛するクラブ、キャリアを築くためのすべてを与えてくれたクラブ。自分の成長を見守ってくれた従業員と共に、重要なタイトルを獲得した。これ以上にやりがいのあることはない。かけがえのないものだ」。

写真:ロイター/アフロ

 ブラジル代表の暫定監督でもあるフェルナンド・ディニス率いるフルミネンセは、日本のファンにもお馴染みだが、コンメボル(南米)クラブ大会でのタイトル獲得は初である。

写真:ロイター/アフロ

 既にベテランとなったマルセロはポチャっとした体躯で、腹回りが気になるのも事実だ。が、その技術と戦術眼は、流石はワールドクラスと見る者を唸らせる。

 今回の決勝で先制点を挙げたフルミネンセのFW、ヘルマン・カノはアルゼンチン人である。母国で最も人気のあるチームを奈落の底に突き落とすーー大きな仕事をやってのけたカノは言った。

 「今、僕は息子のロレンソに、リベルタドーレスのチャンピオンであると伝えられる。このタイトルを家族、チーム、監督、そしてファンに捧げたい。僕らがずっと夢見ていたことなんだ」

ヘルマン・カノ
ヘルマン・カノ写真:ロイター/アフロ

 現在、アルゼンチンは大不況に見舞われており、あちらこちらで暴動が起こっている。さらにアルゼンチンの通貨ペソは、インフレの影響でドルに対する大幅な下落が続く。

 元々アルゼンチンやブラジルの選手は、若くしてヨーロッパを目指すが、給料の未払いに泣くアルゼンチンの実力派は、ブラジルやウルグアイなどのライバル国にも喜んで移籍する。カノもその一人だ。

写真:ロイター/アフロ

 敗れながらも胸を熱くさせるサッカーを見せたボカは、リベルタドーレス杯7度目の優勝を目指していた。2012年、2018年に続き、3度ファイナルで涙を呑んだ。

 ボカのGK、セルヒオ・ロメロは話した。

 「今日は多くのチャンスがあったが、結局、交代選手を活かせられなかった。ただ、素晴らしい戦いをしたとは思う。私たちは周囲の人々に感謝している。その反面、今日、彼らに喜びを与えられなかったことを悔いている」

写真:ロイター/アフロ

 苦しい生活を送る人こそ、サッカーに夢を感じるのが南米だ。2023年のリベルタドーレス杯決勝は、国民に生きる事への活力と、喜びをもたらすのに申し分の無いゲームだった。

写真:ロイター/アフロ

 感涙に咽ぶマルセロの姿もまた、美しかった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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