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国境の街に生きるボクシング屋

林壮一ノンフィクションライター
撮影:筆者

 アメリカ合衆国西部、メキシコとの国境の街、カリフォルニア州サンディエゴ。南側を向けば、ティファナに住むメキシコ人たちの住居が目に入る。無論、メキシコ移民が多く住み、公立校では、アメリカの教育を受けるために毎日国境を越える生徒たちの姿も見受けられる。

撮影:筆者 ジムのオーナーであるメモ・ジレルモ
撮影:筆者 ジムのオーナーであるメモ・ジレルモ

 そんな場所にボクシング&MMAのジムを構えるメモ・ジレルモは(36)は、米国とメキシコの二重国籍者として、1985年6月23日にサンディエゴで生を享けた。父もまた二重国籍者で、米国海軍に勤務していた。母親は軍内の病院で働く看護師だった。

撮影:筆者
撮影:筆者

 「サンディエゴで生まれましたが、幼い頃は、ティファナで暮らしていた時期もあるんですよ。サッカーが好きでね。プロを目指していました。サンディエゴの私立大学を卒業する22歳までプレーしました」

撮影:筆者
撮影:筆者

 父親はエンジニアとして、海軍艦艇の製造に携わっていた。ジレルモもその影響を受け、大学ではエンジニアリングを専攻し、父と同じ職に就く。

 「大学時代サッカーのオフシーズンに、ボクシングとムエタイをやりました。20戦位したかな。その後、7年ほど子供たちにボクシングを教え、このジムを買い取ったんです。

撮影:筆者
撮影:筆者

 自分のジムとなった折、かつて指導を受けたコーチたちに声を掛け、スタッフになってもらいました。彼らの人間性、教える能力は間違いないですからね。

撮影:筆者
撮影:筆者

 エンジニアとして軍での仕事が終わってから、ジムの扉を開けます。月曜から金曜まで17時から20時半までが、営業時間です」

 スペイン語と英語が飛び交うジムは、実に活気がある。現在、自身の10歳の息子を含む、35名の選手を育成中だ。プロ選手は4名。MMAのコーナーもあり、25名の大人と10名のキッズが週に5回レッスンを受ける。

撮影:筆者 ジレルモ親子
撮影:筆者 ジレルモ親子

 「ボクシングの技術を習得すると同時に、困難に打ち勝つ"真の男"になってほしいと常々考えています。世界チャンピオンになれる選手は、ほんの一握り。努力することの尊さや、メンタルの強さ、人間性を磨くことが私の狙いですね。

撮影:筆者 右から2人目がビクトル・エフレイン・サンドバル
撮影:筆者 右から2人目がビクトル・エフレイン・サンドバル

 「今、スーパーフライ級のいい選手がいるんです。ビクトル・エフレイン・サンドバルという名の26歳で、WBCインターナショナルのシルバータイトルを手にしたこともあります。彼にチャンスを作ってやりたい。日本のリングに上がれませんかね?」

 昨今、幼少期からグローブを握るのが世界のスタンダードとなってきた。ジレルモのジムから、未来へ羽ばたく若者が出現することを期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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