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スーパーミドル級vs.スーパーウエルター級、4冠統一王者同士の対戦

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 WBA/WBC/IBF/WBOスーパーミドル級チャンピオンのサウル・”カネロ”・アルバレスと、2階級下のスーパーウエルター級4冠統一王者、ジャーメル・チャーロとの一戦が9月30日に催されることとなり、チケットが売り出された。

 当初、カネロの相手はチャーロの双子の兄で、現WBCミドル級チャンプであるジャーモールと囁かれたが、メンタルに支障をきたしており、まだ調整が必要らしい。ジャーモールは、2021年6月19日にファン・マシアス・モンティエルを判定で下して以来、リングに上がっていない。兄の代わりに、弟のジャーメルがカネロに挑むことが正式に決まった。

 会場はラスベガスのTモバイルアリーナ。SHOWTIMEがPPVで放送する。米国西時間、8月10日の午前10時より前売りが開始され、売れ行きは上々とのことだ。

写真:ロイター/アフロ

 カネロのマネージャー兼トレーナーであるエディ・レイノソは、自信たっぷりに話した。

 「我がチームはこの試合に向け、高いモチベーションで高地トレーニングを重ねている。偉大なチャンピオンであるチャーロを迎えるわけだから、周到に準備し、素晴らしいファイトにしたい」

エディ・レイノソ
エディ・レイノソ写真:ロイター/アフロ

 59勝(39KO)2敗2分けのカネロもコメントした。

 「2名の統一王者によるメガ・ファイトが実現する。心から幸せを感じているよ。ジャーメル・チャーロも私も、自分の階級のベストファイターだ。9月30日はファンが喜ぶ、世界レベルの戦いを披露出来るだろう」

 思い起こせば、かつてはカネロも154パウンドのベルトを巻いていた。メキシコの国民的スターとなった彼が、最初に手にした世界タイトルはWBCスーパーウエルター級だった。その後、4階級を制して栄光の座に就いていた彼が、今更154パウンドの王者と戦うのかーーーといった疑問を持たざるを得ない。

Stephanie Trapp/SHOWTIME
Stephanie Trapp/SHOWTIME

 一方のチャーロ弟には、失うものが無い。2021年7月17日、WBA/WBC/IBF3冠王者だった彼は、WBOチャンプのブライアン・カルロス・カスターノと戦い、ドローに終わる。2022年5月14日のリターンマッチでは、10ラウンドにカスターノを仕留めて、4本のベルトを束ねた。

 スーパーウエルター級では、やるべきことが無くなったジャーメル・チャーロには、1階級上げる選択肢もあった。しかし、双子の兄と拳を交える訳にもいかない。そこで一気に2階級上げての挑戦となったのだ。

 35勝(19KO)1敗1分けのジャーメルは言った。

 「9月30日、また新たな歴史を築くことが楽しみでならない。ボクシング界にとって、最大の試合だ。自分の全てを出し尽くして、リングを降りるよ。自分の存在と、この競技において俺が何を成したかを、しっかりと見せる。この俺が、ボクシング界のベストファイターであるってことを証明するぜ」

Amanda Westcott/SHOWTIME 154P統一戦前のジャーメル
Amanda Westcott/SHOWTIME 154P統一戦前のジャーメル

 チャーロは、アメリカボクシング記者協会が、2022年の最優秀トレーナーとしたデリック・ジェームズと二人三脚で進んできた。そのジェームズが抱えるエロール・スペンス・ジュニアは、先日の統一ウエルター級タイトルマッチでテレンス・クロフォードに敗れた。

 リングサイドからスペンスvs.クロフォードを見守ったジャーメル・チャーロは、期するものがあるだろう。

Ryan Hafey
Ryan Hafey

 2階級差の統一王者を戦わせてしまうマッチメイクに、オスカー・デラホーヤvs.マニー・パッキャオが蘇る。デラホーヤは、ライト級までの試合経験しかなかったパッキャオをウエルターに増量させ、自らは154パウンドから1階級落として試合を成立させた。サイズの違いで有利と踏んだのである。実に狡猾なやり方だった。

 が、パッキャオはゴールデンボーイを完膚なきまでに叩きのめし、引導を渡した。

デラホーヤのラストマッチ、パッキャオ戦。ゴールデンボーイは、8ラウンド終了後に棄権した
デラホーヤのラストマッチ、パッキャオ戦。ゴールデンボーイは、8ラウンド終了後に棄権した写真:ロイター/アフロ

 9月30日のファイトは、ジャーメル・チャーロがパッキャオのような戦いを見せられるか。あるいはフレームの違いでカネロが防衛するかーーー。手放しでこのマッチメイクを称賛するのは難しいが、気になるのも確かである。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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