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メッシが無双するアメリカで

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 MLSデビュー以来、4試合連続7得点中のリオネル・メッシ(36)。7月21日のアメリカデビュー戦では、アディショナルタイムに直接FKを決めてチームを勝利に導いた。勝負強さがファンの度肝を抜いたが、その後の3試合でも2度ずつネットを揺らし、まさしく無双している。

写真:ロイター/アフロ

 メッシが加入したインテル・マイアミは、MLS東地区15チーム中の15位。目下、リーグは小休止中で、メキシコ、カナダのチームを交えての「リーグスカップ」が行われている。アルゼンチン代表背番号10は最下位に沈むチームを、早くもそのカップ戦でベスト8に導いた。

写真:ロイター/アフロ

 元イングランド代表のキャプテンのデイビッド・ベッカムが共同オーナーを務めるインテル・マイアミだが、MLSに加入したのは2020年。まだ産声を上げたばかりである。

 米国のサッカー界には入れ替え戦が無い。MLSに入りたければ、リーグに加盟金をいくら払うか、何人収容のスタディアムを持つか等の審査によって合否が決まる。2025年にはカリフォルニア州サンディエゴにも、MLS入りする新チームが誕生し、全30チームとなる予定だ。

撮影:筆者
撮影:筆者

 現在、サンディエゴには米国2部に値するUSLに属するサンディエゴ・ロイヤルというチームがある。USLはトップ選手の年俸が7万ドル、最安値の選手が2万ドルと言われているが、寮と食事込みならルーキーでも何とかやっていけそうだ。

 ロイヤルのメンバーは、新たに誕生するMLSのチームに入りたい、と考えるのが自然であろう。あるいは、MLSのBチームのみで行われているリーグにスカウトされる日を待っているか。

撮影:筆者
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 そんなギラギラした若者たちを目にしようと、USLの会場に足を運んだ。MLSは縦に速く、ほとんどボールがタッチを割らないことが特徴である。DFがボールを奪っても、可能な限り繋ぐ。スピーディーなサッカーは見ていて楽しい。

 しかし、USLはボールを大きく蹴り、簡単にスローインとなってしまう。また、トラップ、枠へ飛ばすシュート、そしてクロスの精度にMLSとの大きな差が見られた。

撮影:筆者
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 USLとMLSが似通っているのは、アメリカ国籍以外の選手の多さだ。ロイヤルはタヒチ、イスラエル、コンゴ、ニュージーランド、タンザニアといった国からやってきた選手がスターティングに名を連ねていた。対戦相手のラウドンFCで目を引いたのは、コートジボアール出身のヒュースン・ランドリー(22)という名のMFだった。

 泥臭く、武骨なファイターだ。荒削りながらも、闘志を前面に出して走り、イエローカードをもらいながらもスライディングを繰り返す。この日は2-1でロイヤルが勝利したが、最も印象に残る選手だった。

撮影:筆者
撮影:筆者

 USLはMLSと違ってミックスゾーンが無い。試合後、ピッチを去ろうとするランドリーに声を掛けると「俺、英語ダメ。フランス語しか話せないんだ」と、通訳を脇に立たせた。

 ランドリーは言った。

 「今日は残念な結果に終わってしまったけれど、チャンスを掴むためにアメリカに来た。祖国ではナショナルアカデミーに選ばれていたんだけど、危険なことが色々と起きる国じゃん。サッカーに打ち込める環境を求めていたら、アメリカ行きの話が来たんだ。

 ここでステップアップして、ヨーロッパのビッグクラブに入るのが夢だね。もちろん、ナショナルチームに入ってワールドカップにも出場できたらと思っている。アメリカは安全で、生活に不安を感じずにサッカーに集中できる。そこが素晴らしいよ。きっとメッシも、この国の暮らしやすさがプラスに働いているんじゃないかな」

 移民の国のサッカーは、やはり多国籍だ。MLSとレベルは違えど、コートジボアールからやって来た選手のハングリーさは、十二分に見る価値があった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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