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オスカー・デラホーヤ(プロモーター)vs.ライアン・ガルシア(現役世界ランカー)

林壮一ノンフィクションライター
Tom HoganGolden Boy

 4月22日にジャーボンテイ・デービスとの全勝対決で完敗を喫したライアン・ガルシア(24)。2017年11月から彼を売り出してきたゴールデン・プロモーションズの代表、オスカー・デラホーヤとの関係が悪化しているそうだ。

 両者が公の場で険悪な空気を流してから久しいが、ガルシアが2019年9月にゴールデンボーイ・プロモーションズとの契約を延長した折、問題は解決されたかに見えた。

 その際、ガルシアは「行動は言葉よりも雄弁。自分は、ゴールデンボーイ・プロモーションズを家族だと思っている。夢を叶える為に共に歩んでいくことを示すよ。俺がスターになる能力を備えているように、ゴールデンボーイ・プロモーションズは自分をそこに連れて行く全てのツールを持っている」とコメントした。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 とはいえガルシアは、真の実力者との対戦が無いままデービスとのファイトを迎え、完膚なきまでに叩きのめされた。同ファイトはチケット収入だけで2280万ドルを売り上げ、興行的に大成功を収めた。しかし、数年前にデラホーヤは「ガルシアはデービスに対応できるレベルに無い」と発言していた。

 五輪金メダリストとしてプロ入りし、6階級を制したデラホーヤの言葉は的を得たものだった。また、デービス戦後の記者会見に、デラホーヤ、ゴールデンボーイ社の副社長であるバーナード・ホープキンス、ガルシアのトレーナーを務めたジョー・グーセンは姿を現さなかった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions  入場時は一緒だったグーセン(右)
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions  入場時は一緒だったグーセン(右)

 その現実が、ガルシアに不信感を抱かせたようだ。初黒星を喫した24歳は語った。

 「試合後、自分の傍に誰一人いなかった。チームは記者会見にさえ来なかった。自分のチームよりも、デービスのメンバーが俺を気にかけてくれた。俺は裏切られたんだ」

写真:REX/アフロ

 ガルシアはグーセンを解雇し、デリック・ジェームズを新たな指導者とし、4冠統一戦に向かうエロール・スペンス・ジュニアのキャンプに参加した。それだけでなく、デービス戦で「水分補給は10パウンドまで」という契約事項を呑んだ件でもデラホーヤを非難している。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions エロール・スペンス・ジュニアの公開練習にやってきたガルシア
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions エロール・スペンス・ジュニアの公開練習にやってきたガルシア

 思い起こせば、デラホーヤも現役時代に黒星を喫するとトレーナーを変えたものだ。が、プロモーターと有名選手がSNSで互いを攻撃し合う時代ではなかった。

アンソニー・ジョシュア(写真)やエロール・スペンスのトレーナーでもあるデリック・ジェームズ
アンソニー・ジョシュア(写真)やエロール・スペンスのトレーナーでもあるデリック・ジェームズ写真:ロイター/アフロ

 黙っていられなくなったデラホーヤも、136パウンドでの対戦、10パウンドの水分補給条項に同意したのはガルシアと、彼のマネージャーであるルーペ・バレンシアスだと、数週間前にTwitterで反論した。

 デラホーヤは綴った。

 「ライアン・ガルシアよ、試合後2カ月近くが経過するのに、まだ記者会見のことで泣いているのか? 敗因は、自分自身とお前さんのアドバイザーであるルーペにある。異常な水分補給条項を受け入れるように迫ったのはルーペだけじゃないか。それが敗因だよ。しっかりしてくれ。事実を認めろ」

写真:REX/アフロ

 ガルシアは階級を上げ、WBAスーパーライト級王者、ローランド・ロメロへの挑戦を望んでいる。そして勝利を積み重ね、デービスとのリマッチを目指すらしい。

 「次のファイトは適正体重の140パウンドで、水分補給条項は無し。デービス戦は周囲の人々の為にやったけど、戻ったら自分の為に戦うよ」。

 ガルシアはそう話すが、彼とデービスではモノが違う。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions 7回でデービスにKO負けしたガルシア
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions 7回でデービスにKO負けしたガルシア

 連勝街道を突っ走れたのは、デラホーヤの巧妙なマッチメイクがあったからだと気付かないのか。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions スペンスを指導中のデリック・ジェームズ
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions スペンスを指導中のデリック・ジェームズ

 ガルシアは黒星を糧にできるだろうか。デリック・ジェームズのコーチを受け、成長を見せられるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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