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ガッツ石松と戦った世界ライト級の名チャンプ、安らかに…

林壮一ノンフィクションライター
ZUMA Press/アフロ 1975年2月27日のガッツ石松戦

 4月1日、元ライト級世界王者のケン・ブキャナンが永眠した。享年77。スコットランド出身のスタイリッシュな選手で、国際ボクシング殿堂入りも果たしていた。

 デビュー以来33連勝して頭角を現したブキャナンは、1970年1月29日に空位のヨーロッパタイトル戦を判定で落として初黒星。が、8カ月後にイスマエル・ラグナを下してWBAライト級王座を獲得した。

 やがてWBCのベルトも腰に巻いたが、WBAタイトル3度目の防衛戦でロベルト・デュランに13回KO負けして王座から転落。その後、英国タイトル、ヨーロッパタイトルを手にしたが、世界王座には返り咲けなかった。

 ブキャナンにとって最後の世界タイトルマッチは、1975年2月27日のガッツ石松戦になった(15回判定負け)。

 ブキャナンの息子は、昨年、元チャンピオンが認知症を患い、老人ホームで生活していることを明かしていた。

 2000年代前半、筆者は国際ボクシング殿堂のフェスティバルを取材し続けていた。一見、スカートに見えるスコットランドの民族衣装であるキルトを纏い、いつも陽気にファンと交流していたブキャナンの姿を思い出す。

 インタビューした際、ブキャナンは語った。

 「私はデュランには負けていない。あれは間違いなくローブローだった。政治力でベルトを奪われたのだ」

 朗らかな人が見せた、怒りだったように感じる。映像を見直すと、確かにローブローだ。デュランはブキャナンを踏み台にして、スターダムにのし上がっていった……。再戦の機会も与えられなかった。

 「イシマツと戦った時は、もう全盛期の自分じゃなかったな…」

 悔しさを垣間見せながらも、歌を歌いながら、サンドウィッチを頬張っていた笑顔が蘇る。R.I.P、偉大なるチャンピオン。ブキャナンの故郷であるエジンバラには、昨年、彼の銅像が建てられたそうだ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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