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世界ヘビー級チャンプも期待する「井上尚弥の輝かしい未来」

林壮一ノンフィクションライター
撮影:山口裕朗

 WBC、WBAと2度世界ヘビー級王座に就いたティム・ウィザスプーン(63)。一流の技術を持ちながらも、プロモーターにファイトマネーを搾取され続けた過去を持つ。現在は13人の孫に囲まれる好々爺だが、彼との付き合いで忘れられないのが次の一言だ。 「俺たちは競走馬のように扱われた。倒れるまで走らされ、用済みになったら捨てられる。世界チャンピオンと言っても、俺は奴隷に過ぎなかった」。※ティムについて興味のある方は、拙著『マイノリティーの拳』(光文社電子書籍)をご覧ください。

 そんな元世界ヘビー級王者が、井上尚弥vs.マイケル・ダスマリナス戦の映像を改めて目にした。フィラデルフィアに住むティムに、国際電話で印象を聞いた。

撮影:著者
撮影:著者

 「バンタム級の世界チャンプが、1試合で$1ミリオン稼ぐのか。俺よりずっと多いな(笑)。でも、イノウエは国籍に関係なく客を呼べるよ。非常に美しいファイターだ。バランスがいいね。攻守一体でスピードもある。

 今回の試合は相手との差があり過ぎたが、ファーストラウンドからKOを狙っていたな。素晴らしい左フックだったし、相手が警戒する同じパンチで3度も倒したところが圧巻だね。精神面の強さも見せた」

撮影:著者
撮影:著者

 「モンスターっていうニックネームらしいが、俺の印象はBeastだね。それも獰猛な野獣だ。バンタム級で相手はいないと思う。4つのベルトを束ねるのは間違いないね。KOで勝つだろうな。

 全盛期のパーネル・ウィティカーや、メルドリック・テイラーの域に達している。フィラデルフィアから生まれたバンタム級世界チャンプでは、ジェフ・チャンドラーが思い出されるが、イノウエは彼以上のインパクトを残したんじゃないか。

 このところボクシングメディアは、パウンド・フォー・パウンドのランキング付けが好きだが、カネロを超える日も遠くないだろう。イノウエにはどんどんビッグマッチが組まれ、勝ち続けてこれからピークを迎える。カネロは既にピークを過ぎようとしているからね。無敵だった時期のジョージ・フォアマンみたいな怖さがあるよ。イノウエの方が華麗な技術もあるよな」

写真:REX/アフロ

「バンタム統一後、イノウエは階級を上げるだろうから、より大きく重い選手を相手にするよな。俺が敢えて彼に助言するとしたら、あの鋭いステップインをどこで見せるか、かな。

 まずは相手の動きを見て、序盤はややゆっくりと相手を観察して、一気に攻めるタイミングを計る。それをマスターすれば、スーパーバンタムでも敵がいなくなるだろう。ジャパニーズBeastがアメリカで暴れまくる姿を期待しているよ。本当に素晴らしい選手だと思う」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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