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敵チームのルーキーが脱帽し、ユニフォーム交換を願い出た大ベテラン「快刀乱麻」の活躍

林壮一ノンフィクションライター
まさに「超絶技巧」(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 試合終了後、19歳のルーキー、ラメロ・ボールは脱帽といった表情で敵陣の大ベテランに近付き、ユニフォームの交換を頼んだ。

 ボールは高校卒業後、オーストラリアのプロリーグを経て、鳴り物入りでNBA入りしたポイントガードである。ルーキーながら年俸780万ドル強と、シャーロット・ホーネッツで4番目の高給取りだ。

30得点6リバウンド8アシストと将来性を感じさせたボール
30得点6リバウンド8アシストと将来性を感じさせたボール写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 若者に声を掛けられたカーメロ・アンソニーは快く承諾し、二人はユニフォームを脱いで差し出した後、コート中央で抱擁を交わした。新型コロナウイルスの影響で、この日の会場であるモダセンターは無観客だったが、一人でも多くのNBAファンに見てもらいたい光景であった。

健闘を称え合うアンソニーとボール。
健闘を称え合うアンソニーとボール。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 2月11日のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦に続き、カーメロ・アンソニーが最終Qで爆発した。3ポイント5本を含む17得点を挙げ、チームの連敗を4でストップ。現地時間の3月1日、ポートランド・トレイルブレイザーズは123-111でホーネッツを下した。

 エースであるデイミアン・リラードの23得点を上回るトータル29得点は、チーム最多である。そして、セブンティシクサーズ戦での24得点を塗り替え、今季におけるアンソニーのハイ得点をマークした。4Qで放った5本の3ポイントを全て決めた様は、まさに圧巻だった。

「経験が武器」要所要所で確実な仕事をする
「経験が武器」要所要所で確実な仕事をする写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 昨シーズン途中の2019年11月19日、ニューオーリンズ・ペリカンズ戦にて、アンソニーは初めてトレイルブレイザーズのユニフォームを身に纏ってコートに立った。24分間の出場で10得点を挙げたが、「歳には勝てない」「もはや過去の選手」と酷評されたものだ。

 ところがベテランの意地を見せ、アンソニーはスタメンを奪う。彼の働きもあって、ブレイザーズはプレイオフ進出をもぎ取った。

 しかしながら今シーズンのアンソニーの役割は、シックスマン。高校時代からのライバルであるレブロン・ジェームズが今日もKINGとして君臨し、同世代のジョアキム・ノアが引退をアナウンスするなか、アンソニーは自身の立ち位置を受け入れ、与えられたプレー時間で最高のパフォーマンスを心掛けている。

そのシュートフォームは華麗だ
そのシュートフォームは華麗だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 とはいえ、右手首を骨折したセンターのユスフ・ヌルキッチ、左足を複雑骨折したシューティングガードのCJ・マッカラムと、2名のスターティングメンバーを欠くブレイザーズの戦力ダウンは深刻だ。2月20日から2月26日までの4試合は、その台所事情を物語るように弱々しく黒星を重ねた。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ホーネッツ戦で32分7秒コートに立ったアンソニーの鬼気迫るプレーは、チームの血を滾らせるものであった。

 ボールとアンソニーの抱擁後、ブレイザーズのメンバーはコート上で円になり、肩を組んだ。そして各々が拳を突き上げ、勝利の美酒に酔った。

 試合後のオンライン会見でアンソニーは語った。

 「若手の要求には応じたいと思っている。今夜のボールとのプレーは楽しかった。彼が高校生の頃から目にしていたよ。ゲーム中は、どんな子なのかなと思いながら間近で彼を見ていた」

昨シーズン、テイタムとマッチアップするアンソニー
昨シーズン、テイタムとマッチアップするアンソニー写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 昨シーズンのボストン・セルティックス戦でも、アンソニーは既にオールスター選手となっていたジェイソン・テイタムからユニフォームの交換を依頼されている。

 若手がいつまでも憧れる選手であり、敵として大きな存在であってほしい。ブレイザーズの背番号00は、改めてNBAの魅力を感じさせた。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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