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新シーズン開幕のNBA。デトロイト・ピストンズのオーナー、億万長者のトム・ゴレスを巡って

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 12月20日、『ニューヨークタイムズ』にフルページの意見広告が掲載された。「デトロイト・ピストンズのオーナーであるトム・ゴレスをNBAから追い出すな」という内容の手紙が、ゴレスを擁護するグループからNBA宛に出された。

 その手紙が、広告としてメジャー紙の1頁を飾るところがアメリカらしい。

 これによると、NBAはゴレスに対し、ピストンズを売れと迫っている。ゴレスが刑務所内で利用される通信機のオーナーであるところが、チームの経営者として相応しくないとの理由からだ。

 意見広告となった手紙を綴ったビアンカ・タイレクは、

"If Black Lives Matter, what are you doing about Detroit Pistons owner Tom Gores?(黒人の人権を見詰めるBlack Lives Matter運動に触れる折、あなたはデトロイト・ピストンズのオーナーであるトム・ゴレスに対して、どんな行動をとりますか?)"と投げ掛けた。

ゴレス
ゴレス写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ゴレスはイスラエル出身の56歳。6人きょうだいの5番目として誕生した。5歳の時、祖国を離れ、一家でアメリカに渡る。

 暮らし始めたミシガン州で、高校卒業までバスケットボール部に所属していた。その後、ミシガン州立大学を卒業し、電話会社に勤務。建設管理で学位を取得した彼は、ソフトウェア開発に才覚を発揮し、億万長者となる。

 2011年より、同州にフランチャイズを置くデトロイト・ピストンズのオーナーとなった。

 現在、刑務所から各地に繋がる電話回線はゴレスの経営する社の製品で、数百の国と話すことが出来る。

 ただ、15分間の通話で14ドルを超えることもあり、金額が問題視されている部分もある。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 今日、合衆国人口の13%を占めるのが黒い肌を持つ人々だ。そのうち230万人が刑務所、及び拘置所で暮らしているという数字をマサチューセッツ州の団体である「Prison Policy Initiative」が弾き出した。

 罪を犯した人々に、電話線を通じて、僅かでも幸福を与えるように努めて来たのがゴレスであり、黒や茶色い肌の貧しい層に、15分で15ドルの金額で電話使用を可能とし、2020年は自身が経営する社から300万ドルを募金をする等、社会に計り知れない貢献をしてきた点を理解するべきだ。ゴレスはBlack Lives Matterを了知し、マイノリティーを支えている、とタイレクは主張する。

ピストンズの顔といえば、デリク・ローズだ
ピストンズの顔といえば、デリク・ローズだ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 米国を代表する新聞である『ニューヨークタイムズ』に載った意見広告のインパクトは強烈で、掲載直後から様々なメディアが取り上げている。

22日に新シーズンが始まるNBA。
22日に新シーズンが始まるNBA。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 1つの意見広告がいかなる効果をもたらすか。NBAにどんな影響を及ぼすか。

 今後のBlack Lives Matterの動向も含めて目が離せない。

 NBAの新シーズンは今日、始まる。コロナ禍を吹き飛ばすゲーム、プレーを期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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