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日本代表GK、シュミット・ダニエル独占インタビュー#2「参考とするGK」~シント=ロイデンより~

林壮一ノンフィクションライター
メキシコ戦でAキャップ7となった。(写真:ロイター/アフロ)

 シント=ロイデンVV(STVV)の練習を終えたシュミット・ダニエル(28)へのオンラインインタビューがスタートしたのは、日本時間11月25日の22時30分。川崎フロンターレがリーグ優勝を決めた数時間後だった。

 ダニエルは、中央大学1年次の8月から3年次まで、フロンターレの特別指定選手であった。週2回のペースでブラジル人コーチ、イッカの指導を受けている。当時を知る中大関係者は、フロンターレでの日々がダニエルを大きく成長させたと語る。

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 そんな思い出深いチームの優勝について、ダニエルは話した。

 「圧倒的な強さでしたね。一人一人のクオリティーが高く、層も厚かったです」

 今シーズン限りで引退を表明している中村憲剛は、大学の先輩でもある。

 「一つのクラブにあそこまで貢献できる選手というのは、そうそういません。選手としての完成度だけでなく、人間としても非常に尊敬しています。会話の中身までは記憶していませんが、気さくに声を掛けて頂きました。大学時代の話を聞いて、あぁ今もありますよ、なんて言ったんじゃなかったかな。

 フロンターレの歴史は、中村憲剛さん無しでは語れないレベルですよね。そういう存在感を見せながら、チームを常勝軍団に持って行った訳です。どの世代からも愛され、若い世代でもコミュニケーションが取りやすい人です。周囲からの人望を集める方ですね。で、必要な時にはチームをまとめるというメリハリをつけた振る舞いができます。是非、近い将来、中大サッカー部の監督をやって頂きたいです」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 さて、11月17日に催された国際親善試合のメキシコ戦で、ダニエルのA代表キャップは7となった。日本代表は試合開始から45分はペースを握ったが、後半に2失点し、0-2で敗れた。世界との壁を突き付けられた。

 「前半は日本がボールを握り、鎌田大地選手がいい形でチャンスメイクをして、ほぼ攻めていました。大したピンチも無かったです。でも、いい流れがあったのに決め切れなかったのは事実です」

 後半、メキシコ代表を率いるアルゼンチン人監督のヘラルド・ダニエル・マルティーノは、背番号4のエドソン・アルバレスを投入。ダブルボランチにして日本のリズムを崩した。

 「メキシコは後半から、鎌田選手のところに人数を掛けるようにしましたね。それからは、ボールが収まり難くなりました。確かに4番が入ったのが効いたと思います」

 メキシコ代表のGKであるギジェルモ・オチョアは、原口元気、伊東純也のシュートをセーブし、Aキャップ106の貫録を見せた。

 「前半、日本のペースだったのに、オチョアは持ち堪えました。それに比べ、相手がピッチを支配するようになって狙い通りに決められてしまったのは、自分の力不足だったと思います。悔しかったですね」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 2014年ブラジル、2018年ロシアとワールドカップにも出場したオチョアは、日本のチャンスを冷静に処理した。

 「オチョアは2014年のワールドカップでもブラジルを相手に好セーブを連発しました。リーダーシップがありましたよね。勝負強く、チームから頼られる存在だなというイメージを持っていましたが、実際、止めてほしい時に止められるGKです。対戦してみて改めて、彼の実力が分かりました。指示も出していましたし、フィールドの選手もちゃんとそれを聞いていました。

 オチョアもフランス、スペインを経て2シーズン、ベルギーリーグのスタンダール・リエージュでプレーしています。歴史があって、ファンが熱くて、他以上にGKの責任が大きなクラブです。重圧を感じながらやれる力があって、厳しい経験も重ねて来たんだろうなという印象をプレーから感じました」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 それでもダニエルの理想とするGK像は、オチョアよりも守備範囲の広い選手だ。彼は参考にするGKとして5名を挙げた。

 まずは、マンチェスター・シティ所属でブラジル代表でもあるエデルソン・モラレス(27)。代表キャップは9。パントキックで75.3メートルをマークし、ギネス記録を持っている。

エデルソン 写真:なかしまだいすけ/アフロ
エデルソン 写真:なかしまだいすけ/アフロ

 「エデルソンに対する一般的なイメージは、足元が上手く、キックの精度が高く、視野も広くて、普通のGKじゃ出せないところにパスを通せる、という感じでしょうか。僕はそれに加えてボールにアタックする迫力に惹かれます。他のGKがエデルソンのようなアタッキングをしたら、相当大きなケガに繋がってしまうのですが、彼はまったく臆さず、常にそういうプレーをしているんですよ。

 2~3年前にアメリカで行われたプレシーズンマッチで、相手の裏を取ったアグエロに、ゴールキックでロングボールを通したシーンを覚えています。アグエロのシュートはポストに当たって入らなかったのですが、その1本のパスでキーパーと1対1になりました。今のマンチェスター・シティが、フィールドを広く使えるのは、エデルソンのキックの飛距離があってこそです。それを象徴するシーンでした。

自分も、ああいうプレーが出来たらな、と思いながら見ています。僕は大学2年次の総理大臣杯決勝で、相手のペナルティーライン近くまでゴールキックで飛ばしたのですが、70メートル近くあったかな…」

 2人目はマンチェスター・ユナイテッド所属で、スペイン代表のダビド・デ・ヘア(30)。

 「手が長い、という印象を持たれるようなセービングが特徴です。その理由としては、手を伸ばし切るのが速い。これは、参考にしているGK全員に言えることですが、シュートを打たれる際の無駄な動作が少ないですね。

 リバプール戦で、クロスからかなり至近距離のシュートに足を出して止めたシーンを覚えています。デ・ヘアはシュートに対する反応が速いんです。それはつまり、予備動作の段階で無駄が無いからなんですね」

 3人目は、リバプール所属でブラジル代表のアリソン・ベッカー(28)。

アリソン 写真:ロイター/アフロ
アリソン 写真:ロイター/アフロ

 「アリソンもシュートに対する準備が優れているのと、飛ぶ時の力の出し方が巧みです。結構、厳しいボールも、簡単に止めているように見えます。どのセーブも体が伸び切っていない状態で触れちゃっているみたいな。横っ飛びも上手いし、ボールにアタックする過程がスムーズです。

 代表で、南野拓実選手にアリソンについて訊いても『マジで、全然シュートが入らないです』って言っていました。

チャンピオンズリーグでもプレミアリーグでも優勝していますから、タイトルを獲れる選手には憧れます。僕がタイトルに縁が無いのは、自分に責任があるようにも思ったりするんで……チームにあれだけの貢献をしていますし、現役のGKでナンバーワンと言ってもいいんじゃないですかね」

 4人目は、アヤックス所属でカメルーン代表のアンドレ・オナナ(24)。

 「足元のテクニックがあります。バルサの下部組織で育っていますから、足元の技術も培って来たのでしょう。パワーも十分ですが、体を伸ばし切るのが速いですね。その状態でキャッチするのは難しいのですが、体がしなやかだから、それが出来ています。そして、落ち着いています。シュートが来る時の体動が、完全に準備できたうえでなのです。慌ててシュートを止めるシーンがほとんどありません。

それはチームにとって頼もしいし、相手には『こいつ、全然、動じねえな』という印象を与えるでしょう。メンタル的な圧力を掛けられますね。そういう身のこなしにも注目しています。

 チャンピオンズリーグのチェルシー戦で、ベルギー代表のミシー・バチュアイが近距離から打ったシュートを、自分の左側に倒れながら片手で止めたのを覚えています。こんなキャッチが出来るGKって世界に何人いるだろう? というレベルのプレーでした」

 5人目は、バルサ所属で、ドイツ代表のマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン。ダニエルと同じ、1992年生まれの28歳である。

 「GKには、これくらい寄せたら、こういった形で止める、とか、ボールにどれだけ近付き、反応するのか、体を大きく見せて止めるのか、とか、場面場面で求められる事柄があります。シュテーゲンは、シーンごとに使い分ける技術が高いんですね。ですから、きちんと育てられてきたんだな、と思います。

 マヌエル・ノイアーは能力型で、シュテーゲンはドイツの育成が最も成功した例のように語られます。教えられた技術をモノにして、試合で発揮しているイメージがあります。勿論、反射神経など生まれ持った才能も高いでしょうが、一つ一つのプレーが整理されていて、自分の中に迷いが無い感じですね」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 世界のトップGKたちから学び、日々、一歩でも成長しようと汗を流すダニエル。その彼は身長197センチと、先に挙げたどのワールドクラスの選手よりも高さがある。

 「身長が高いに越したことはないのかもしれませんが、僕自身はあまり関係ないと思っています。この5人は、物凄く高さがある訳ではないですが、補うだけのものを備えています。そういう意味では、身長が低いGKがやれていることを僕が吸収出来たら、上に行けるんじゃないかな、と」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 右足裏の筋膜炎や腓骨の疲労骨折で今シーズンは出遅れたダニエルだが、10月26日以降、4試合連続でSTVVのゴールマウスを守っている。

 「順位を一つでも上げる事と、自分が試合に出続けることが、今シーズンの目標です。そして、2021年はワールドカップ予選にスタメンとして出ることを目指していきます」

 注視する5人のGKにどこまで近付けるか。シュミット・ダニエルの戦いを見守りたい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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