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アルゼンチン人コーチが語る「2試合の代表戦で浮き彫りになった日本サッカーの問題点」

林壮一ノンフィクションライター
コロンビア戦を善戦と評していいのか…(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 実兄はディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は現在、京都サンガ所属のエスクデロ競飛王。自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。今日、エスクデロは、埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執っている。

 彼に、直近のサムライブルーから感じた日本サッカーの問題点ついて語ってもらった。

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 3月22日に0-1で敗れたコロンビア戦も、26日に1-0で辛勝したボリビア戦も、途中からピッチに入った選手が活躍しましたね。でも、それ以上に印象的だったのは、大迫勇也がいないと攻撃が機能しない点です。

 森保JAPANになって中島翔哉などイキのいい若手が抜擢され、溌溂としたサッカーを見せて来ましたが、今回のキリンチャレンジカップは、あまりにもセイフティーな戦い方でした。それは、各々の選手がミスを恐れているからです。

 

写真:本人提供
写真:本人提供

 日本の子供たちは「ミスをしてしまうと、試合に出られなくなる」「シュートを外すと怒られる」と、怯えながらサッカーをしています。そんな悪しき日本の伝統を象徴するかのようなA代表でした。心底、ガッカリしましたね。

 僕は日本に来て、幼児から大人までを指導していますが、「足裏を使ったら怒鳴られる」「股抜きしたら怒られる」「試合中にラボーナをやったらベンチに下げられる」という風潮に、つくづく失望しています。そういう日本サッカー界の土壌が、今の代表にファンタジスタがいない現状を作っていますね。また、今回の「勝負しない代表選手」を作ったのだと感じます。

 かつてアルゼンチンに留学した10代の日本人選手が、現地の監督に褒められたロングシュートを練習試合で打ち、僕の目の前でベンチに下げられたことがありました。そのシーンを見て、本当に哀しくなりました。チャレンジする精神を否定し、型に嵌めよう嵌めようとする指導だったからです。

 日本サッカー界全体に言えることですが、国内でS級ライセンスを取ったことで、満足している指導者があまりにも多い。「そのくらいで満足せずに、強豪国からもっと学んで来い。世界トップの国でS級を取って来い」と思います。今回のコロンビア戦、ボリビア戦で強烈に感じたのは、そこなんですよ。

 アルゼンチンでS級ライセンスを取得する際には、心理学も勉強します。試合に出る選手だけでなく、メンバーから漏れた選手への接し方、モチベーションの上げ方、効果的な競争の仕方などをしっかり学習するんです。日本の指導者で、そこまで考えている人が何人いるでしょうか。

 森保監督が、代表に呼んだ選手を一人でも多くプレーさせる采配は素晴らしいです。彼やFC東京の長谷川健太監督は、選手を腐らせない手法を分かっています。でも、そういう人が少な過ぎますね。

 日本にサッカーが根付いて、四半世紀が過ぎました。ワールドカップにも6回連続で出場し、ヨーロッパに渡る選手も増えています。でもワールドカップで優勝したいなら、もっともっと努力しないと。アジアの他の国だって伸びてきていますから、追いつかれてしまいますよ。日本がワールドカップを制するには100年かかると感じさせる代表戦でした。

 

 6月に挑むコパ・アメリカで日本代表にはいい結果を出してもらいたいです。それには、もっと勝負する選手が必要です。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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