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元男子バスケ日本代表監督の喝!「一刻も早く改革をしなければ、日本に未来は無い!!」

林壮一ノンフィクションライター
アジア7枠を目指す日本代表だが…(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 バスケットボール男子日本代表は、『FIBAワールドカップ アジア1次予選』として、明日、台湾戦を迎える。

 現在0勝2敗。「目を覆いたくなる」と現状を嘆く、元全日本監督の吉田正彦氏をインタビューした。

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 撮影:著者

 2019年の8月に北京で行われるW杯のアジア第一次予選は、現在16チームが4ブロックに分かれてリーグ戦を行っており、各ブロックの最下位が振り落とされて、12チームとなります。2次予選では更に絞って、12チームから7チームになります。W杯出場国はトータルで32。アジアは7国の枠があるのに、日本は7枠に入れそうもないです。

 W杯出場を逃すと、開催国でありながら東京五輪に出られなくなる可能性が高い。ロンドン五輪には、開催国であった英国代表が出場しました。これは実力があったからではなく、FIBAからナショナルチームの育成法が認められたからです。

 現日本代表のポイントガードである富樫勇樹は身長167cmですから、日本国内ではいい選手でも、国際試合ではまったく通用しません。相手ディフェンスにしてみれば、まるで怖くないプレーヤーです。シュートを打っても、まず入りません。彼のプレーは「シュート打つ」のではなく、「打たされている」のです。NBA選手は、あんなにシュートを外さないでしょう? 

 韓国代表にだって身長2メートルのガードがいます。今やそういう時代なんですよ。富樫には日本代表選手は務まりません。ディフェンス時の計算がまったくできませんから。悔しいですが、仮に日本代表が東京五輪に出場できても、ダントツのビリでしょうね…。

 我が国が抱える問題点は、まず3つあります。FIBAも首を傾げざるを得ない点です。

 A 日本のバスケットボールは小学校、中学校、高校と、公式戦に使用するボールのサイズが変わる。小学校は5号、中学校が6号、高校以上が7号でやっている。

 B リングの高さを2m75cmと3m05cmで使い分けている。

 C 小学生がやっている“ミニバスケットボール”と中学生の公式戦でゾーンディフェンスを否定している。

 「ボールのサイズ」「リングの高さ」「ゾーンディフェンス禁止」の3点は、日本バスケット界が、充分に検討しなければならないことです。言ってみれば、こういうやり方を続けて来たからこそ、アジアで勝てなくなったのです。手前味噌ですが、私が全日本の選手、及び監督だった時代も、韓国は外角のシュートが巧みでしたし、フィリピンには個人技がありました。それでも、日本代表は俊敏性を活かし、ディフェンスを磨いて速攻で得点していました。そういった特色で、アジア王者になっていたのです。

 現在の日本では環境が変わる度に、子供たちが新しいやり方でバスケットボールをしなければならない。指導者の教え方が異なるのだから、戸惑うのは当然です。技術的な方向性は均一でなければならない。一つのものをきちんと定めて、そこからブレてはいけません。

アメリカは小さい頃から7号でやるし、3m05cmのゴールを採用する小学生の大会も多い。私には、日本の小学生にゾーンディフェンスを禁止する根拠が理解できませんね。一人の選手を一人で守ることをマンツーマンと呼びますが、1対1と併行して、ボールにチームで対応すればゾーンになります。それを否定されたら、マンツーマンの技術が成り立ちません。ゾーンプレスを敷かれて、ボールが運べないのは、運べないチームの準備不足です。

 「あれをやってはいけない」「これをやってはいけない」と技術を制限するのは、育て方が間違っています。競争そのものを禁じているようにしか感じられません。「競争」の意味を誤って理解してしまった結果でしょう。今の日本の教え方は、個々のバスケットボールIQを伸ばさないやり方なのです。小中学校でそんなバスケをやっていたら、高校以降の選手の技術は真っ暗闇ですよ。

 私が全日本の監督時代、強化合宿でNBAのポートランド・トレイル・ブレーザーズとの合同練習、練習試合を数多くやってもらいました。1度も勝てませんでした。また、アンカレッジを皮切りに、アメリカ西海岸の20都市で、約50日間、40試合をこなしましたが、やはり勝てなかった。しかし日本の選手は、この遠征で、自己のテーマを肌で感じ取り、メンタル面も成長を遂げました。本場でボコボコニやられたからこそ、常勝アジアの地位を築けたのです。

 アメリカの選手たちは、バスケットボールの楽しさを理解していますよね。まず楽しさがあって、色々な技術を身に着けていく。楽しいから、教わった事柄を熟練できる。そのステップが日本は混乱しています。

 

 ビギナーである小学生の時点で、選手を間違った方向に進めてしまっていることも、現在の男子日本代表の低迷に繋がっているでしょうね。指導者たちは、選手の現状を把握できているのか? できていないのに、自分の知識を押し付けている。その繰り返しなのです。指導者に言われた課題がマスターできていないのに、更に新しいテーマを与えられる。前の課題と、今日の課題に関連性がない。だから子供たちは迷う。迷うから、頭に入り辛い。熟練しない。そういう負の連鎖に陥っているんですよ。

 

 そんなことだから、インターハイ常連高のキャプテンが自殺に追い込まれたりするんですね…。個を伸ばすには、出来るだけ早い段階で本場に行く必要があるのかもしれません。が、そんな簡単に海外に行ける筈もない。

 そこで、日本代表のOBを中心に日本バスケットボール推進協議会を発足しました。「体系的に、これはやらなきゃダメだよ」というものを作ったんです。ビギナーには何を教えたいかを告知し、具体的に見せたいんですね。<教える>と言っても、1回教えてできる訳じゃない。繰り返し、繰り返しやって、熟練度を積み重ねていかねばなりません。

 日本のバスケットボール改革の第一歩は、そこから始まります。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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