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元日本ライト級1位が守る秘伝の味

林壮一ノンフィクションライター
[居酒屋くらんど]のオーナーである田中光吉は、日本ライト級1位まで上った

「味は僕が保障しますから、是非、食べてみて下さい」

元10回戦ボクサーのカメラマン、山口裕朗に薦められて食べてみたホルモンは、お世辞抜きに旨かった。

JR山手線「五反田」駅から徒歩3分の場所にある「居酒屋 くらんど」(03-3446-8215)。オーナーは元日本ライト級1位のプロボクサー、田中光吉である。カメラマン山口のラストファイトの相手だ。

2005年6月13日、空位となっていた日本ライト級タイトル決定戦で判定負けを喫したファイトを最後に、田中はリングを去った。1994年2月のデビューから11年強戦い続け、戦績は23勝(11KO)9敗2分けだった。

田中のファイトスタイルには、その真面目な性格が出ていた。

1993年春。高校卒業と同時に故郷・熊本県球磨郡錦町から上京。当時、板橋区常盤台にあった沖ジムの門を叩いた。後にWBA世界ミドル級王者となる竹原慎二の背中を見ながら、一歩一歩、プロボクサーとして成長していった。

2001年8月4日日本タイトルに挑戦した田中  ※撮影 山口裕朗
2001年8月4日日本タイトルに挑戦した田中 ※撮影 山口裕朗

「今振り返って思うのは、ボクシングをやっていなければ、今のような人との繋がりを築けなかったということです。周囲の人に支えられて、色々学ばせて頂きました。様々な交流において、人間の大切さを感じましたね」

引退後、地元後援会の伝手を辿り、熊本県熊本県球磨郡錦町の有名店「くらんど」から味を伝授してもらった。そして、2007年6月25日に「くらんど」をオープンする。

「僕は接客担当です。人と関わるのが好きですから。お客さんに『ここに来て良かったな』『また、あいつと会いたいな』と思って頂けたら嬉しいです」

臭みがなく、他にない柔らかさが「くらんど」のホルモンだ。それを秘伝のタレで味付けする。

「ここでしか食べられないホルモンです。そこがこの店の売りです」

現役時代と変わらない実直さで、黙々と店内を動き回る田中の姿が印象的だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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