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アルゼンチン人コーチが見詰める少年世代の問題点

林壮一ノンフィクションライター
Roku FCジュニアユースの監督に就任したエスクデロ

「アルゼンチンでは小学生の頃から厳しい競争があります。プロクラブのジュニアチームには、セレクションに合格した子じゃなければ入れません。でも、不合格だった子は全員諦めなさいという訳じゃない。誰でも入れるスクールがあって、そこで力をつければ認められます。ジュニアチームもスクールも、きちんとAFAのライセンスを持ったコーチが指導します。そこに日本との差があるんです。

日本の少年チームは、サッカーを知らないボランティアのパパコーチが多いでしょう。間違った指導法なのに、子供たちに優劣をつけてしまうことが多々見受けられますよね。非常に大きな問題です」

今日、小学生の男子児童に「将来なりたい職業は?」と訊いた折、最も多い回答が「プロサッカー選手」であるそうだ。サッカー界にとっては実に喜ばしい事だが、セルシオ・エスクデロが語るように、指導者として適任ではない無知なボランティアに潰されてしまう子も少なくない。

エスクデロをインタビューしながら、私はある母子を思い出していた。

現在、小学3年生のA君は幼稚園のころにサッカーを始め、小学校入学と同時に少年団に入った。1年生の後期からは一学年飛び級して練習した。この判断を下したのは監督である。やがて、自分の学年のキャプテンに任命される。すると、あるボランティアコーチの父親が「何故、うちの息子がキャプテンじゃないんだ!」と怒りだし、保護者を巻き込んで「A君を無視する動き」を始めた。

あまりの次元の低さに呆れ、言葉も出ないが、A君は神経性胃炎で学校に通えない状態になってしまう。心配した保護者が監督に質問に行くと、「それも少年団の一面ですから」という対応で、打開策は見出してくれない。A君は結局、サッカーへの情熱を失ってしまった…。

A君を追い出したパパは、キャプテンマークを巻く息子の姿にニンマリしながら、嬉しそうに“コーチ”として毎週末グラウンドに立っているそうだ。果たして、この人物は「指導者」に相応しいと言えるだろうか? 休日に無償で子供の面倒を見てくれるなら、それも良し、とするのが日本の現状といえまいか。哀しいかな、我が国において、こんな話は珍しくも何ともない。

「アルゼンチンで、そんなことはあり得ません。きちんとしたコーチの下で、ボールを蹴る、止める、運ぶ技術を身につけていきます。レベルの違いがあっても、徹底的に基本を身に付けさせます。次の段階でポジション別の動き、闘う姿勢、勝負への拘り等に移っていきますが、第一に伝えるのはサッカーの楽しさです。それはどんな子に対してもブレないですね。

日本のサッカーが南米やヨーロッパの強豪国に追いつくためには、きちんとしたコーチを育成し、誇りを持った人がグラウンドで子供達と向き合えるようにしていかなければいけない。それが第一歩だと私は考えています」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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