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西山入管庁次長の冷酷「2歳の妹が39度の熱、病院に行けなかった」難民少女の訴えへの国会答弁が酷すぎる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
会見した難民認定申請者を親に持つ子ども達 筆者撮影

 正に「血も涙もない」とはこのことか。現在、国会で審議されている入管法改定案*1によって、強制送還の危機にある難民の子ども達が24日、都内で記者会見を行い、「日本にいたい」「人間として扱って」と訴えた。だが、関連する国会質疑の中で、出入国在留管理庁(入管)の西山卓爾次長の答弁は、日本が締約している国際条約や、子ども達の未来、命すらも何とも思っていないような、異常さが際立つものであった。

〇小学生から高校生の子ども達が会見

 政府与党が今国会で成立を目指す入管法改定案では、「送還忌避者」、つまり、強制送還を拒む外国人を減らすためとして、迫害を受ける恐れがあるところへの強制送還が国際条約等で禁止されている難民認定申請者に対しても、例外規定を設けるとしている*2。こうした中、難民として逃げてきた親と共に幼少の頃に日本に連れてこられたり、日本で生まれたりした、小学生から高校生までの9人の子ども達が、24日、参議院議員会館で会見を行い、在留が認められないが故の苦悩や、強制送還への不安を訴えた。

 この子ども達は全員、トルコ籍のクルド人で、親が難民認定申請しているものの、「難民鎖国」とも批判される日本の難民認定率の低さが壁となり、いずれも認定されておらす、強制送還の危機にある。子ども達やその親達のほとんどは、現在、入管庁によって「在留資格」が無いとされており、「仮放免」という扱いだ。つまり、入管の収容施設外での生活が一時的に許可されているかたちだが、アルバイト含め就労は許可されず経済的に困窮する上、住民票もないので、国民健康保険に加入できず、医療を受けることも困難だという。

 会見で発言した中学2年生の少女は「妹が2歳の時、39度の熱が出たのに病院につれていけなかった」「同じ人間なのに、なぜ病院にいけないのか。そのことが本当に嫌で、悔しかったです」と語った。

 同じく会見で発言した高校2年生の少女は「勉強を頑張って、成績優良者として認められた」「大学進学も希望している」と語るが、入管法改定案に大きな不安を感じていると言う。「日本でかなえられそうな夢も、トルコに行ったら、ゼロどころかマイナスから始めないといけない」(同)。

〇西山入管庁次長の人間味の無さ

西山卓爾入管庁次長 衆議院インターネット審議中継より
西山卓爾入管庁次長 衆議院インターネット審議中継より

 こうした、子ども達の状況に対し、入管庁は恐ろしいまでに冷酷だ。今月17日の国会質疑で、本村伸子衆議院議員(共産)が、上述の高熱を出した2歳の幼児が病院に行けなかったこと等を例にあげ、「明らかに(子どもの権利条約の)生命、生存、発達に対する権利が保障されていない」と追及した。これに対し、西山卓爾入管庁次長は「我が国は締約・締結している、人権諸条約を誠実に履行しており、我が国の入管制度がこれに違反するものとは考えていない」と強弁したのだった。

 また、上述の高校2年生の少女のように、日本で初等中等教育機関で相当期間で教育を受けた子どもに在留特別許可を認めるかについて、西山次長は「親の他に適切な養育者がいる場合、子どもだけに在留許可を認める」と答弁したが、これは子どもの権利条約第9条「親と引き離されない権利」に反するものだ。

 本村議員が国会質疑で「子どもの在留資格を奪ったのは入管」と強調したように、そもそも、上述の会見を行った子ども達やその親は、トルコで迫害を受けるクルド人であるが、法務省・入管は、難民条約締約後から現在までほぼ全てのトルコからの難民申請者を認定せず、昨年8月に不認定不服裁判で最高裁で勝訴した結果、難民認定された1人だけが唯一の例外である。トルコでクルド人が迫害を受けていることは国際的な常識だ。諸外国ではトルコからの難民認定申請者の認定率が非常に高く、日本での認定率と大きな差があることを、福島みずほ議員が先月9日の質疑で指摘したのだが、この時も西山次長は、質問の趣旨に全く答えなかった

 これらの西山次長の答弁が浮き彫りにするのは、自らの組織に都合の悪い事実は一切認めず、子ども達の命や健康も、日本が締約する国際条約よりも、「入管の論理」を優先しているということだ。法務省・入管庁は、入管法改定案を「保護すべき者を確実に保護する」ためのものだと主張しているが、それがいかに信用が置けないものかは、西山次長の姿勢からも明らかであろう。

〇当事者である子ども達の声を聞け

 上述の会見で、子ども達は口々に「人間扱いして欲しい」と訴え、会見を準備した「編む夢企画」の織田朝日さんも、「子ども達の声を聞いていない、当事者の声を聞いていない」「このまま(入管法改定案を)通すのはフェアではない」と力説した。政府与党が西山次長のような法務省/入管庁の言い分ばかりを聞くならば*3、国のあり方に大きな誤りをもたらすことになるのだろう。

(了)

*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。

*2 法案では、難民認定申請を3回以上、くり返して行った人に対しては、強制送還を行えるとするが、ただ、実際には複数回の申請で認められるケースもこれまでいくつもあり、国内の支援団体や弁護士会、さらには国連の人権関連の機関からも、難民認定申請者の送還は重大な人権侵害だと指摘されている。

*3 与党や立憲民主党との入管法改定案の修正協議の中で、子ども達をいわば「人質」に取り、合意を求めているが、卑劣そのものだ。法案とは関係なく、子ども達の人権に配慮した運用を行うべきである。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20230425-00347095

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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