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国家主権を差し出す亡国の岸田政権―問われる日本の「平和力」

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
岸田首相が欧米歴訪 日米首脳会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 戦争を禁じた日本国憲法第9条の形骸化が一層進み、日本が戦争に巻き込まれるリスクが大幅に上がりつつある。昨年末、岸田政権が安保三文書の改定を行い、敵基地攻撃能力の保有を認めたこと、また、近年、ますます米軍と自衛隊の一体化が進み、台湾有事を想定した訓練を行っていることは、これまでの安全保障政策とは、レベルの違う危険な領域に踏み込んだものと言える。習近平政権の下で野心的な軍拡を進める中国への警戒感、そしてロシアのウクライナ侵攻のショックに便乗している岸田政権であるが、これに対し、平和を求める市民側はどう対抗していくべきか。先日、都内で行われた集会の内容や筆者のアイディアをもとに、戦争を未然に防ぎ、或いは現在進行している危機にいかに対応するかを探ってみたい。

〇国家主権を差し出す岸田政権

 端的に言えば、敵基地攻撃能力の保有は、戦争する/しないという国家にとって最も重大な主権の一つを米国に差し出すものだ。敵基地攻撃能力とは、「敵国」が攻撃を行う動きがあった際に、未然にその攻撃を潰すために、日本側から先制攻撃を行うというものだ。これは個別的自衛権を認める立場からも、自衛の範囲を逸脱し、戦争を禁じた日本国憲法9条に反する。しかも、より深刻なのは、この敵基地攻撃能力は、純粋に日本の防衛のためというだけではなく、米国のために使われることだ。岸田首相は、国会答弁や野党の質問主意書に対し、「限定的な集団的自衛権の行使も含め、(安保関連法における)3要件の下で行われる自衛の措置としての武力の行使にもそのまま当てはまる」と述べている(関連情報)。つまり、日本が直接攻撃を受けていなくても、米軍が攻撃されそうな場合に、日本側が敵基地攻撃能力を行使し、「敵国」を攻撃するという訳である。そもそも、集団的自衛権の行使自体が、違憲なのであるが、敵基地攻撃能力の行使とのセットで行われる、いわば違憲のダブルセットとなるだけではなく、それは日本を戦争に巻き込むことになる。また、敵基地攻撃能力を実際に使う「必要性」は、米国の情報に頼ることになる。これらを鑑みるに、上述のように、岸田政権は日本国民の命運を米国に差し出していると観るべきであろう。

首相官邸前での軍拡反対デモ 右は筆者
首相官邸前での軍拡反対デモ 右は筆者

〇台湾有事で日本が戦争に巻き込まれるリスクに現実味

 武力を行使してでも中国は台湾の独立を阻止する―いわゆる台湾有事が発生した場合、日本は単に偶発的に巻き添えになるだけではなく、積極的に台湾有事に関わり、その結果として、日本の全国各地が中国からのミサイル攻撃を被る事態に発展する恐れがある。安倍元首相ら、自民党の政治家達は「台湾有事は日本有事」だと主張してきたが、そうした主張に沿うように、近年、自衛隊は米軍との共同演習を行い、それは台湾有事を想定したものだ。例えば、昨年11月10~19日に行われた日米共同統合演習「キーン・ソード23」は、明らかに台湾有事を想定し、鹿児島、沖縄両県で実施。日米合わせて約3万6千人、艦艇約30隻、航空機約270機が参加した(関連情報)。

 つまり、上述の敵基地攻撃能力も、中国をターゲットにしたものであり、中国本土に日本がミサイルを撃ち込めば、当然、中国も日本へミサイル攻撃をしてくる可能性が極めて高い。敵基地攻撃能力として使用されるミサイル等は、全国の自衛隊基地に分散して配置されることが予想される。すなわち、日本全国に中国のミサイルが降り注ぐということもあり得るということだ。

〇台湾有事を回避せよ―市民側からの提言

 後先を考えず台湾有事へ前のめりになる岸田政権。これに対し、護憲派の市民団体やNGO、有識者などからは、台湾有事を回避するための提言がされている。今月23日、安保関連法の廃止を求め、野党共闘を働きかけてきた市民団体「市民連合」が都内で勉強会を行い、そこでは、軍事力ではなく外交で台湾有事を回避するための対案が提起された。

市民連合による勉強会 左端が猿田さん 筆者撮影
市民連合による勉強会 左端が猿田さん 筆者撮影

 この勉強会でのスピーカーの一人で、民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」の代表を務める猿田佐世さんは、「戦争の動機を無くす『安心供与』が不可欠だ」と訴える。具体的には「米国に対しては、在日米軍出撃の事前協議を梃に、台湾有事に必ずしもYESではない事を伝える」「台湾に対しては、過度な分離独立運動を行わないことを説得する」「中国に対しては、台湾への安易な武力行使は国際社会の反発を招き、中国を窮地に追い込むことを諭し、他方で台湾の一方的な独立を支持しないことを示し、自制を求める」等を日本の外交として行うべきだと言う。

 確かに、米中共に全面戦争は望まないだろう。米中は経済的に不可分であるし、両国が全面衝突すれば、核戦争にも発展しかねない。台湾の人々も大多数は今すぐの独立を求めていない。台北中央社によれば、世論調査で「できるだけ早く独立を宣言したい」は、わずか6.4%。これに対し「現状維持」が86.1%を占めた(関連情報)。

 つまり、台湾にとっても米中にとっても、そして日本にとっても「現状維持」が最適解であり、そのためにも、猿田さんの主張するような外交を日本がしていくことが重要なのだ。猿田さんは「ASEAN(東南アジア諸国連合)や韓国も米中の対立を望んでいない。これらの国々と共に、戦争を避けなくてはいけないという国際世論を強固にすることもできるはずだ」と訴える。筆者としても、猿田さんが述べた「新外交イニシアティブ」の提言に賛同したい。

〇ウクライナ危機を非軍事で解決するには

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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