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【コラム】ウクライナ叩きに夢中の「サヨク」に未来はあるか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ロシア軍の侵攻で母親を失ったボバ君(10歳) ウクライナ中北部ブチャにて筆者撮影

 今年2月にロシア軍のウクライナ侵攻から半年あまりが経つ。ロシア軍の蛮行は、この間の報道で誰もが知るところとなり、それが決して容認できないものであることは、世間のマジョリティ―の意見であろう。ただ、それにもかかわらず、リベラルや護憲派の一部(であると信じたい)は、ロシア軍の非道よりも、ウクライナ側を叩くことにご執心だ。ウクライナ侵攻に便乗するかたちで、自民党などから「国を護るためには改憲すべき」との主張が声高に行われるようになったため(もっとも、当の自民党は今、旧統一教会との癒着の問題でそれどころではないかもしれないが)、これに対する反作用として、リベラルや護憲派の一部が、「徹底抗戦」を呼びかけるウクライナ側を批判するという構図になっているようだ。だが、そうしたウクライナ叩きは、結局のところ、平和憲法を護っていこうという彼らの願いとは逆の方向に働くのではないか。

〇護憲派としてあえて苦言

 最初に断っておくが、筆者は護憲派である。憲法9条の改憲にも、集団的自衛権の行使にも反対の立場だ。ただ、同時に命や人権、国際法を重んじる立場でもある。この二つの立場は本来、矛盾しないはずなのだが、ロシアのウクライナ侵攻以来、上述のような、おかしなことになっていると言えよう。問題なのは、単に個々のリベラルや護憲派の人々(の一部)が自身のSNSで、ウクライナ叩きに夢中になっているだけでなく、国内最大のリベラル系クオリティ・ペーパーである朝日新聞の論調も、ウクライナ問題をめぐっては迷走している感が否めないことだ。これについては、日刊SPA!に別途寄稿したが、ウクライナ現地で取材する朝日新聞の記者達は優れたルポを配信している一方で、国内の識者にウクライナ侵攻について意見を聞くかたちの記事では、ロシアの侵略よりも、ウクライナ側の徹底抗戦の姿勢を批判するようなものが、少なからずある。

 無論、ウクライナ側、ゼレンスキー政権を一切批判するなという訳ではないし、戦闘可能年齢の男性の国外への避難を禁じている国民総動員令に対しては、筆者も個人の人権と選択を奪うという点で、批判的だ。ただ、上述の日刊SPA!への寄稿でも書いた通り、この間の朝日新聞に掲載された識者の意見は、そもそも、ウクライナで何が起きているかについて認識が浅い、あるいは間違っており、そうした誤った前提で、物事を語っても、結局、混乱を招くだけなのである。言論の自由、報道の自由は保障されるべきなのであるが、ウクライナでの戦争を論ずるのであれば、まず、現地で何が起きているのか、事実に対して誠実であるべきだろう。報道機関がそれを発信するならば、なおのことだ。より、根本的な問題として、こうした識者達が本当に語りたいのは、そしてこの種の主張に賛同する読者達が求めているのは、「ウクライナで何が起きているか」ではないということだ。上述の日刊SPA!の記事でも取り上げた、「(寄稿)ウクライナ、戦争と人権 政治学者・豊永郁子」(朝日新聞 8月12付)で、豊永氏は明け透けに、こう述べている。

「私はむしろウクライナ戦争を通じて、多くの日本人が憲法9条の下に奉じてきた平和主義の意義がわかった気がした。ああそうか、それはウクライナで今起こっていることが日本に起こることを拒否していたのだ」

 つまりは、こうした識者達、その支持者達が本当に語りたいのは、ウクライナではなく、憲法9条や日本の平和主義をいかに護るかという思想・信条や、過去の日本の戦争を批判することなのだろう。そうなのであれば、今、正に命や人権が脅かされている人々への誠実さを欠くかたちでのウクライナに関する見解を、自身の主張に混ぜるべきではないのでは、と筆者は感じる。確かに、ウクライナ危機に乗じる形で、政府与党などで「改憲すべき」との主張が活発になっていて、それを懸念し批判しようとすることは理解できる。だが、それはそれで、正々堂々と正面からその欺瞞を批判すれば良いのである。そうするのではなく、一部の護憲派やリベラルが、戦争被害国をダシに仲間内で盛り上がっている様を、世間の人々はどう観るか。それで、改憲の動きは止まるのか。むしろ、逆効果であろう。

 「ロシアだけが絶対悪にされるのはおかしい」と、上述したような一部の護憲派やリベラルは、よく主張するのであるが、それは護憲という点では、むしろ自分の首を絞めるものだ。9条の様に、戦力に頼らないで平和を維持しようという場合、国際社会の秩序、国際法遵守がカギとなる。それらを蔑ろにするロシアの暴挙を強く批判し、侵略戦争を許さない気運を国際社会の中で高めていくことなくして、いかに戦力に頼らないで、日本の平和と安全を護っていくというのであろうか。ロシアの暴挙を許し、国際社会が弱肉強食のモラルハザードに陥った時こそ、日本の人々の安全も、平和主義も危うくなるのである。憲法上の制約から、筆者は日本はウクライナへ兵器の供与などはするべきではないとの考えであるが、では、いかに非暴力でロシアの暴挙を食い止めるのか、筆者含め護憲派やリベラルは、今後の課題として、真剣に考えていくべきなのだろう。

〇ロシアの「ハイブリッド戦争」にやられた?

 一部の護憲派やリベラルの、よくある主張としては、「ロシアだけを悪魔化するのは、自らの勢力圏を拡大しようとする米国の謀略に加担することだ」というものもある。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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