ウクライナ情勢に便乗した改憲論が、主に自民党の政治家から、繰り返し主張されている。「攻め込まれたらどうする?」と危機感を煽り、現在の日本国憲法では、侵略行為に対処できないかのような主張であるが、事実と異なる。むしろ、現在の自民党の主張に沿って改憲するのであれば、日本が戦争に巻き込まれる危険性が高くなるのだ。今、日本が行うべきことは、侵略戦争を禁じた国連憲章の精神に立ち返る国際世論を盛り上げていくことだ。また、そのためにも、ロシアによるウクライナ侵攻に強く抗議し続けると同時に、同じく国連憲章に反するものであったイラク戦争で、米国を支持した日本政府のスタンスを見直すことが必要だ。

〇ウクライナ危機に便乗した火事場泥棒的な改憲論

 ロシアによるウクライナ侵攻で、日本の人々の間にも、安全保障に関する関心の高まりがあることは、報道各社の世論調査でも、見て取れる。今年5月3日、NHKが行った世論調査によれば、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、憲法が定める「戦争の放棄」について、「意識するようになった」は、回答者の7割にも上ったという。こうした状況を「好機」ととらえたのか、安倍晋三元首相など自民党の政治家達から、改憲を求める主張が相次いでいる。こうした改憲派の主張は、自民党の佐藤正久外交部会長が今月31日、「国破れて憲法9条だけが残っても意味なし」と発言するなど、あたかも、現状の日本国憲法では、他国の侵略戦争に対し対応できないかのような言いぶりだが、これらの主張は、これまでの政府与党の憲法解釈とも異なる。すなわち、自衛隊は「戦力」ではなく、必要最低限の防衛力であり、日本が他国から侵略された場合、自衛のための実力行使を否定するものではない、というものだ。ロシアによるウクライナ侵攻で人々の不安が増している中で、事実と異なる主張で恐怖を煽り、改憲へと世論を誘導していくことは「火事場泥棒」的だと言えよう。

〇憲法に自衛隊を明記することの危険性

 改憲をめぐる議論では、安倍元首相などが、「自衛隊をしっかりと憲法に明記し、その正当性を確定することこそ安全保障・防衛の根幹」等と主張している。だが、憲法9条に自衛隊を明記することは、同条の「交戦権を認めない」「戦力の不所持」を無効化させる恐れがあることが、護憲派の弁護士達から指摘されている。「明日の自由を守る若手弁護士の会」は、そのウェブサイト(該当リンク)で、

法律の世界には「後法は前法を破る」というルールがあります。過去に作った法律と矛盾する内容の新しい法律ができた場合、新しい法律が優先して、これまであった法律のうち矛盾する部分は無効になる(死文化する)、というルールです(中略)「武力の行使ができる」自衛隊を明記するということは、それに反する憲法の内容を否定する(死文化する)ことを意味します。「一切の戦争を放棄する」「武力の威嚇を行わない」「戦力を保持しない」など、いまの憲法9条の内容が、死文化してしまう可能性があるのです。

と解説。憲法で自衛隊を明記することの危険性を訴えている。

 9条が無効化されるならば、現在の憲法解釈では違憲とされる集団的自衛権の行使も容認されるようになる。つまり、米軍と自衛隊がより一体化し、米国の戦争に日本も巻き込まれ、協力させられるようになり得るということだ。それは同時に、中国やロシア、北朝鮮等が、より日本を潜在的な脅威と認識することにもつながるだろう。そうなれば、むしろ日本が直面するリスクはより高まることになる。今回、ウクライナ侵攻の口実としてプーチン大統領があげたのが、「NATOの東方拡大」だ。欧州と北米といった西側の軍事同盟が冷戦後も拡大されてきたことは、ロシアにとって容認できない脅威だというものである。自衛隊の憲法明記および、それによる米軍と自衛隊の一体化によって、ロシアのウクライナ侵攻のロジックが日本周辺にも当てはまることになる。米国との安全保障上の関係の強化は、それによる「抑止力」も高まるのであろうが、同時にリスクも高まる「諸刃の剣」であることに着目すべきであろう。

〇国連憲章と憲法9条の親和性