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「再びシリアとイラクに行く」杉本祐一さん新潟で会見、渡航先追加を申請

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
会見する杉本さん(左)。筆者撮影。

 シリアでの取材を予定していた新潟県在住のフリーカメラマン、杉本祐一さんが2015年2月、外務省によってパスポートを強制返納させられた上(関連記事)、同年4月に新たに発給されたパスポートがシリアおよびイラクへの渡航が制限されたものであった問題で、新たな動きがあった。杉本さんは、今月14日、地元新潟市で会見を開き、旅券法9条1項にもとづく渡航先追加申請を行ったと発表。今後、シリアおよびイラクでの取材を行う意志を明らかにした。

 旅券法9条1項とは、渡航制限のあるパスポートで行けない地域に行きたい場合に、渡航先の追加申請を行うという規定。杉本さんのパスポートは現在、シリアとイラクへの渡航制限がかけられているが、犯罪者でもない上、報道関係者であるのに、渡航制限がかけられていることが、前代未聞のことだ。だが、今回の申請が認められると、杉本さんはシリアおよびイラクに取材に行けるようになる。今後の取材予定について、杉本さんは「クルド人部隊により制圧され、安全が確保されているシリア北部コバニ、IS(いわゆる「イスラム国」)から解放されたイラク北部モスルでの取材を考えています。時間を区切り、護衛をつけるなど、安全第一の取材態勢で臨みたいと思います」と語った。

新潟県政記者クラブでの杉本さんの会見。筆者撮影
新潟県政記者クラブでの杉本さんの会見。筆者撮影

 杉本さんのパスポート強制返納以降、民放報道番組のキャスターがシリア首都ダマスカスに入り、同国のアサド大統領にインタビューしたり、イラクのモスル解放後、現地に多くの日本人記者が入っている。このような状況の中で、杉本さんだけがシリアおよびイラクへの渡航制限がかけられていることは、日本国憲法14条での「法の下での平等」に反する。杉本さんの代理人である中川亮弁護士は「外務省が杉本さんの申請を却下するなら、明らかに不当。不服申し立ての裁判になるでしょう」と筆者に語った。

 杉本さんは、パスポート強制返納と渡航制限の取り消しを求める行政訴訟で係争中(関連記事)。14日付けで最高裁に上告した。この裁判と、渡航先追加申請は同時並行で行っていくという。「(権力の介入で取材活動が妨げられることは)僕だけの問題ではないと思います。日本の報道の自由のため、徹底的にたたかいます」と杉本さんは宣言した。

 安倍政権の報道への弾圧として、海外大手メディア各社も報じた本件、今後も注目していく必要があるだろう。

(了)

【参考】第九条1項 

「第五条第二項から第五項までの規定に基づいて渡航先が個別に特定して記載された一般旅券の名義人は、当該一般旅券を使用して当該記載された渡航先以外の地域に渡航しようとする場合には、外務省令で定めるところにより、当該一般旅券及び次に掲げる書類を、国内においては都道府県に出頭の上都道府県知事を経由して外務大臣に、国外においては最寄りの領事館に出頭の上領事官に提出して、渡航先の追加を申請しなければならない」

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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