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死刑廃止求める集会で披露された「死刑囚表現展」作品で植松聖死刑囚が描いた「死刑」「再審」

篠田博之月刊『創』編集長
植松聖死刑囚の出品作品(c:大道寺幸子・赤堀政夫基金)

10月9日、死刑廃止を求める集会開催

 さる10月9日、都内で死刑廃止を求める「フォーラム90」主催の集会「響かせあおう死刑廃止の声2023」が開催された。10月10日の世界死刑廃止デー前後に毎年開かれている集会で、私は毎年参加している。祭日の午後いっぱいを使った盛沢山の集会で、今年も、「袴田再審から死刑廃止へ」と題するジャーナリスト金平茂紀さんと袴田事件弁護団の小川秀世弁護士の対談や、福島泰樹さんの絶叫コンサートなどの後、「死刑囚の表現をめぐって」という死刑囚の作品についての講評が行われた。

 死刑囚の作品は、11月3~5日に松本治一郎記念館で開催される「死刑囚表現展2023」に出品されるもので、選考委員らが選んだものを映して講評が行われる。今回、登壇して講評を行った委員には月刊『創』(つくる)執筆者の香山リカさんも含まれた。

「死刑囚表現展」は今年が19年目の開催だが、この何年か、多くのお客が訪れるようになった。相模原障害者殺傷事件の植松聖死刑囚や、昨年までは秋葉原事件の加藤智大死刑囚(昨年7月、刑執行)も出品しており、新聞などで報道される機会が増えたからだろう。死刑囚が描いた絵画などの現物が見られるとあって興味を抱く人が増えているらしい。

『年報・死刑廃止2023』(筆者撮影)
『年報・死刑廃止2023』(筆者撮影)

 ちなみに10月9日の集会にあわせて出版された『年報・死刑廃止2023』(インパクト出版会)には、その日に講評された「死刑囚表現展2023」の作品が、絵画などはカラーで掲載されている。この「年報」も毎年この時期に刊行されているもので、この1年間の死刑をめぐる状況や、死刑囚アンケートなどがまとめられている貴重な本だ。

「死刑囚表現展」出品の植松死刑囚らの作品

 さて、「死刑囚表現展」そのものはぜひ11月初めに会場に足を運んでほしいし、毎年、月刊『創』12月号にも主な作品が掲載されるが、ここでは一足早く、出品された作品のいくつかを紹介しよう。『創』は死刑問題を一貫して取り上げており、特に相模原事件の植松死刑囚や、寝屋川中学生殺害事件の溝上(旧姓・山田)浩二死刑囚など、なじみの深い死刑囚が毎年、作品を出品している。

10・9集会で死刑囚の作品を講評する選考委員(主催者提供)
10・9集会で死刑囚の作品を講評する選考委員(主催者提供)

 毎年、いろいろな意味で話題になる植松死刑囚の今年の作品の一部はこの記事の冒頭に掲げた。色紙に描かれた5点の作品で、冒頭に掲げたのはそのうちの2点。左が「弐 即時抗告」、右が「伍 死刑制度」とタイトルがつけられている。植松死刑囚の作品は『創』でもいろいろ紹介しているが、彼は「死刑囚表現展」にはメッセージ性をこめた作品をこれまでも出品している。

 特に今回の「即時抗告」は、昨年行った植松死刑囚の再審請求が今年、横浜地裁で棄却され、即時抗告を行ったことが報道されたが、それをテーマにした作品だ。そもそも死刑を自ら確定させながらなぜ再審請求を行ったのか、と彼はさんざん指摘されてきたが、自ら作品の中で、その問いに答えたものだ。

 自分の主張をただ並べるのでなく、色紙に手形をつけたりカラフルに彩色するなどして、表現作品として成立させようとしている。色紙の文字も、よく見ると鉛筆で下書きした跡が残っており、文字の配置のバランスやデザイン要素などを考えて描いていることがわかる。

 植松死刑囚については、今年の夏、彼の描いたマンガをめぐって拘置所側ともめ、二度の懲罰を受けたことを前回のヤフーニュースの記事で紹介した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bdfa4cacfe3ef6193de819f11583b0f6d4dbf0b3

相模原障害者殺傷事件・植松死刑囚が獄中で猿之助さん心中事件を描いて懲罰?彼が着眼した点とは…

 この時点では彼が何をテーマに描いてもめたのかよくわからなかったので「猿之助さん心中事件を描いて懲罰?」と見出しをつけたが、その後聞いてみると、どうやら問題になったのは、彼が自身の事件を描いたマンガだったらしい。結果的に、彼はマンガやイラストを外部に送ることを禁止されてしまったため、今年の「死刑囚表現展」には出品できないのではと思われたが、どうやらここで紹介したこれらの作品は、拘置所側の許可が得られたらしい。確かに障害者殺傷事件そのものを描いたマンガに比べると、一見おとなしい作品と言えるかもしれない。

 死刑そのものについてのメッセージなど興味深い。

寝屋川事件・溝上死刑囚の出品作品(c:大道寺幸子・赤堀政夫基金)
寝屋川事件・溝上死刑囚の出品作品(c:大道寺幸子・赤堀政夫基金)

寝屋川事件・溝上浩二死刑囚の作品

 もうひとつここで紹介するのは寝屋川中学生殺害事件・溝上(山田)死刑囚だ。何年か前から死刑執行のイラストが多いのは、彼自身、いつ執行されるかわからないという恐怖を感じている現れなのだろう。その刑執行のイラストについては「死刑囚表現展」本番を見ていただくとして、ここでは『創』をテ―マにした作品を紹介しよう。

 彼は今も『創』を毎号愛読している。その『創』をテーマにしたものがここに掲げたものだ。死刑確定後は接見禁止がついて面会もできなくなってしまったが、今でも愛読しているという私へのメッセージなのかもしれない。

「死刑囚表現展」のポスター(主催者提供)
「死刑囚表現展」のポスター(主催者提供)

 そのほか「死刑囚表現展」には、数多くの死刑囚の作品が展示される。そのポスターの一部をここに掲げたが、この猫とクリスマスツリーを描いたイラストも出品作品だ。「死刑囚表現展」は、毎年出品する死刑囚も多いのだが、毎年独特の作品を出品していた秋葉原事件の加藤死刑囚が執行されて今年は作品が見られないように、毎年、今回はこの死刑囚がいなくなったという報告がなされる。今年は刑執行だけでなく、獄中で病死した死刑囚の名前も報告された。

 また昨年まで選考委員を務めた作家の加賀乙彦さんも、今年1月に他界して今回の集会には登壇できなかった。死刑囚表現展は、死刑をめぐるその1年間の流れをいろいろな形で思い起こさせる機会でもある。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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