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『東京卍リベンジャーズ』『ブルーロック』と、講談社のマンガで大ヒットが続く理由

篠田博之月刊『創』編集長
講談社『ブルーロック』と『東京卍リベンジャーズ』(筆者撮影)

『進撃の巨人』という大ヒット作品の連載終了で、講談社のコミック部門では一時、今後どうなるのだろうかという話もあったようだが、その後、2021年に『東京卍リベンジャーズ』がアニメと実写映画の成功を機に記録的な売れ行きを見せた。そして22年にはサッカーマンガ『ブルーロック』が大ヒットと、このところ毎年、人気作を生み出している。作品の層が厚くなったことと、様々な販売施策が功を奏していると言われるのだが、具体的にどうなのか。特に『ブルーロック』を中心に現状を探ってみよう。

『ブルーロック』が女性読者を大きく獲得

 この1年の推移を第三・第四事業販売部(コミック販売)の上田径部長に伺った(所属部署・肩書は取材時のもの。以下同)。

「『ブルーロック』は2022年10月から今年3月まで半年間アニメの放送がありました。放送開始直後の動きは比較的緩やかでしたが11月の終わり頃からかなりの勢いで売れるようになりました。W杯が盛り上がった時期とも重なり、中継の合間に流れた三笘選手が登場する『ブルーロック』のアプリゲームのCM効果も大きかったと思います。

 もともと『ブルーロック』は人気のキャラクターが出揃うのに少し時間がかかる作品で、原作自体が大きく売れ出したのも、ある程度巻数を重ねたタイミングからでした。ちょうどアニメで人気のキャラクターが多数登場したのも11月後半からで、W杯との相乗効果で非常に強い追い風になりました。

 その頃から店頭で品薄状態になり、年末年始は印刷所にも最大限稼働いただき製造を加速。結果的に3月までの半年間で730万部以上の重版がかかりました。3月に出た23巻の新刊効果もあり、4月にもさらに重版がかかるという展開で、この作品の映像化による重版の累計部数は970万部に達しています。『ブルーロック』の売り伸ばしは我々の昨年の最重要ミッションでしたが、予想以上の増売が叶いました」

 その前に大ヒットした『東京卍リベンジャーズ』も、この春に映画の続編が公開。映像化が大きな武器になることを証明している。

「『東京卍リベンジャーズ』は2021年に爆発的に売れ、この年の実売部数は2400万部以上を記録しました。それまで20万部だった1巻が映像化を機に100万部まで一気に部数を伸ばしました。ちなみに『ブルーロック』の1巻はアニメ直前に50万部になっており、その後、半年で100万部近くまで積み上がりました」(上田部長)

『ブルーロック』に関しては、W杯の効果も大きかったわけだが、大会が終了して以降も売れ続けているという。

「3月までアニメ放送が続いたこともありますが、年末年始に一気に若年層まで取り込むことができました。男性読者が中心になることが多いサッカーマンガの中でもこの作品は魅力的なキャラクターが揃っていることもあり、多くの女性層が手に取ってくださいました。

 ゴールデンウイーク中に池袋サンシャインシティで開催された『ブルーロック展』には多くの女性ファンにご来場いただきました。女性読者の拡大はヒットの条件として非常に重要な要素で『東京卍リベンジャーズ』に続いて『ブルーロック』でも女性ファンを大きく獲得できています。

 2023年3月に発売になった23巻は、初版33万部で、すぐに16万部の重版を決定しました。昨年末発売の22巻は初版22.2万部のスタートでしたが、5月現在、61.2万部になっています。24巻は5月発売で、初版45万部で刊行しました」(同)

実写映画続編好調で『東京卍リベンジャーズ』も

『東京卍リベンジャーズ』は2022年11月に連載が終了しているが、4月に公開された実写映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』が好調だ。このシリーズ2自体が『運命』と『決戦』の二部作で、6月末にはいよいよ『決戦』が公開される。作品自体に再度注目が集まっている。

「現在『マガジンポケット』で『東京卍リベンジャーズ~場地圭介からの手紙~』というスピンオフ作品を連載しています。この作品も人気が高く、昨年刊行したコミックス第1巻は初版18万部と大部数でスタートできました。順調に重版がかかり、5月には27万部に到達しています。第2巻は初版25万部、5月に発売の3巻は22万部で刊行しました。スピンオフ作品の中でも非常に売れています。

『東京卍リベンジャーズ』は映画化を含め話題が続いているためコミックスも継続して売れ続けています。今年1月に発売の最終31巻は現在95.5万部まで伸びています」(同)

 2022年度の講談社の実売部数での順位はどうなっているのか。

「出荷ベースでの実績は『東京卍リベンジャーズ』が1位になります。新刊・既刊合わせて1110万部の実売でした。2位は『ブルーロック』で、売れ行きに火がついてからの1カ月分ほどしか計上されていないため22年度では441万部。その後、現在までに970万部の重版がかかっています。第3位は『転生したらスライムだった件』で210万部となっています。

 第4位の『可愛いだけじゃない式守さん』は102万部。同じく『週刊少年マガジン』連載の『カッコウの許嫁』が第5位で92万部。次にマガポケにて連載中のヤンキー漫画『WIND BREAKER』が90万部で続きます。『モーニング』発で大ヒットした『ちいかわ』も同規模の90万部と非常に売れています」(同)

まだ売れ続ける講談社『五等分の花嫁』(筆者撮影)
まだ売れ続ける講談社『五等分の花嫁』(筆者撮影)

一方で『五等分の花嫁』が驚異的なロングセラー

 驚異的なロングセラーとしては『五等分の花嫁』が挙げられる。2020年に『週刊少年マガジン』の連載は終了しているのだが、まだ人気が続いている。

「先ほどお伝えした22年度の実売部数でいうと、『五等分の花嫁』は『ちいかわ』『WIND BREAKER』に続く86万部です。連載が終了したにもかかわらず昨年夏に劇場版アニメが公開されるなど話題が続いており、継続的に売れ続けている作品です。フルカラー版などの新規商材も発売し、驚くほどのロングセラーになっています」(同)

 ロングセラーという点では『月刊少年シリウス』ですでに連載が終了している『はたらく細胞』もそうだ。

「テレビの『世界一受けたい授業』などで複数回取り上げられたり、コロナを題材にした読み切りをウェブ上で発表したりと常に読者の目に触れているような状況です。全6巻とまとめて買いやすい巻数ということもあり、こちらもずっと売れ続けています。親御さんが勉強のためにと、まとめて買ってお子さんに渡したり、夏休みの自由研究用にと、その購買動機は普通のマンガとは異なります。

 こういった需要がこれから先もずっと続いてくれるんじゃないかと期待しています」(同)

 講談社はライツ部門にアニメ・ゲーム事業部を作るなど、アニメやゲームへの目配りが強まっているが、ゲームを題材にした作品も増えつつあるようだ。

「『週刊少年マガジン』連載の『シャングリラ・フロンティア』という、異世界ファンタジーとゲームを組み合わせた作品が今年10月からアニメ放送開始となります。同誌の若年層に対するアンケートでは、連載が始まってから常にトップクラスの人気を誇っています」(同)

ヤングマガジン編集部が2022年度に過去最高益

 そんな中、特筆すべきことは、2022年度にヤングマガジン編集部が過去最高益を記録したことだ。

「ウェブやアプリとの連動はどの部署でも意識していますが、ヤングマガジンは『ヤンマガWeb』というウェブ媒体に注力して飛躍的に刊行点数を増やしています。昨期は、2~3年前に始めた連載が一気に花開いたり、新連載攻勢をかけ続けるなど、戦略的に作品を生み出してきた結果だと思います。全体の実売部数でもトップ10に入る『ザ・ファブル』が収入を牽引しながら、若い作品群でもしっかり売上を作る体制ができています」(同)

 その「ヤンマガWeb」の話の前に、講談社のデジタルコミック全体について見ておこう。デジタル第一営業部の山端剛部長に聞いた。

「昨年度もデジタル市場の伸びは大きかったです。ただ出版科学研究所などが指摘しているように、業界全体としてコロナ禍での巣ごもり需要が一段落したこともあり、一時期ほど急激な伸び率ではなくなってきています。

 紙の本で売れている作品はデジタルでも売れています。昨年で言えば、やはり『ブルーロック』です。アニメ化されてからデジタル売上全体を牽引するくらいの勢いで売れました。

 講談社のデジタルコミックでは『マガジンポケット』『コミックDAYS』『パルシィ』『ヤンマガWeb』という4媒体を主に運営しています。各媒体では話単位で連載、販売がされていますが、まとまるとコミックスになるという点では紙と同じです。デジタル媒体では、新しいオリジナル作品が次々と発表され、読者との接点を増やしています。雑誌に代わる発表媒体として、大きな役割を果たしていると考えています」

「マガジンポケット」は『週刊少年マガジン』編集部が運営し、当初は少年向けだったが、今は幅広いジャンルの作品が配信されている。「コミックDAYS」は単行本や話毎の販売に加えて、雑誌の定期購読サービスも行っている。「パルシィ」は女性コミック誌の連載作がサイマルで配信されている。それぞれの特徴はあるが、雑誌のように厳密なジャンル分けをしていないのもデジタルの特性だ。この3つはアプリを配信しているが、「ヤンマガWeb」は『ヤングマガジン』編集部の中で運営され、ウェブだけでの展開となっている。

「4媒体のうち『ヤンマガWeb』はアプリでなくウェブのみの展開で、マンガだけでなくグラビアも扱うなどの特色があります。紙と同様、人気作品は『ザ・ファブル』ですが、異世界作品も人気ですね。

 異世界ものは各編集部がトライしていますが、発表媒体にデジタルを使うことが多くなっています。また、女性向けの作品群を『異世界ヒロインファンタジー』というレーベル名で打ち出しています。いろいろな作品を編集部の垣根を越えた一つのレーベル名で発表できるのはデジタルの強みですね。

 講談社では夏電書、冬電書というデジタルコミックの大型キャンペーンを毎年展開していますが、その中で『異世界ヒロインファンタジー』を特集するといった試みも行っています」(山端部長)

 講談社ではこの5月から「k MANGA」というデジタルコミックのアメリカ配信も始めた。これも同社らしい取り組みなのだが、これについては下記記事で詳細を書いたので割愛しよう。マンガ界の大手3社と言われる集英社、講談社、小学館のうちでは、やはりジャンプブランドを擁する集英社が底力を発揮しているのだが、講談社の大健闘も特筆すべきものだ。

 以上、講談社マンガ部門の最近の動向を報告したが、ヤフーニュースに最近アップした関連記事も紹介しよう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230618-00354279

マンガ・アニメ市場拡大を象徴する講談社の米国向けマンガ配信とTBSのアニメへの取り組み

 アニメについては下記記事で各局の動向を探った。

https://news.yahoo.co.jp/articles/01e7f76835ca9425b5adcda609484382f5a2019b

一気に進むアニメ市場の拡大とテレビ各局の取り組み

 もうひとつ関連記事だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230618-00354285

大手3社の後を追って次々と中堅出版社がマンガへ参入する背景と実情

http://www.tsukuru.co.jp/

『創』7月号「マンガ・アニメ市場の変貌」

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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