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朝の情報番組めぐる闘いに異変? テレ朝『モーニングショー』独走とTBS『ラヴィット!』の健闘

篠田博之月刊『創』編集長
テレビ朝日『モーニングショー』独走の要因とは? C:テレビ朝日

 朝の情報番組をめぐる闘いはテレビ局にとって重要だ。月―金の放送なので視聴習慣がつくと安定した視聴率がとれ、1日の始まりとあって朝に強い番組があると、昼から午後の番組にもいい流れがもたらされる。

今のところ民放では、早朝の時間帯は日本テレビの『ZIP!』とフジテレビの『めざましテレビ』がトップ争いを続けている。両局ともコア層と言われる若い視聴者に照準をあて、エンタメ情報などに力を入れて放送している。

 その後の8時台からは個人視聴率ではテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』『ワイド!スクランブル』がトップを走っている。テレビ朝日にとっては、早朝の『グッド!モーニング』を強化して、日テレとフジの争いに食い込みたいというのが悲願で、いろいろな工夫を試みている。

 一方で2022年、朝の情報番組をめぐる異変として話題になっているのはTBS『ラビット!』の大健闘だ。さらに早朝の『THE TIME,』も上昇の予兆が見えているという。TBSにとっては朝の情報番組の低迷を打破し、好転させることは長年の課題だった。TBS渡邉真二郎編成部長の話も後に紹介する。

 日本テレビの『スッキリ』が2023年3月で終了することが発表され、日本テレビもこの時間帯の強化を図ろうとしているが、2023年、朝の情報番組戦争はどうなるのか。

『モーニングショー』『ワイド!スクランブル』独走の要因

 まずはテレ朝の小寺情報番組センター長の話だ。

「朝の情報番組については、ニュースをきっちり伝えようというのが基本方針です。『グッド!モーニング』についてはエンタメやトレンド情報を増やして若いコア層を取ろうとしていますが、それをしつつもニュースをまず充実させようと考えています。

 コア層をとるということではニュースについてもできるだけオリジナル、独自取材によるものを増やそうと心がけています。若い人たちはスマホでニュースもよく見ていますので、独自のニュースだと見てくれるのです。ANNニュースチャンネルというユーチューブ配信のサイトでも、『グッド!モーニング』の独自ニュースはよく見られます」

 テレビ朝日はニュースセンター、報道番組センターとともに情報番組センターも報道局に属するという組織形態が特徴だが、ウクライナ侵攻については、取材スタッフが夜中も取材に当たるなど報道番組と一体となって取り組んだ。そういう体制が情報番組におけるニュースの充実につながっているといえる。

「朝の情報番組のスタッフはウクライナ侵攻については交替で夜中も取材に当たり、海外から入ってくるニュースを即座に翻訳して朝の放送に備えていました。夜中にそういう作業をしているのは圧倒的に情報番組センターのスタッフですね。他局の番組ではウクライナのニュースは少なくなっていると思いますが、私たちの番組では今もよく取り上げています。

『モーニングショー』を見た後、そのまま『ワイド!スクランブル』も見てくださる方が多いし、『ワイド!スクランブル』はほかの番組では扱っていないような情報や国際ニュースを手厚く取り上げるという姿勢になっています」(小寺センター長)

 ついでながらテレ朝の小寺情報番組センター長に、2022年秋以降の『モーニングショー』の玉川徹さん騒動についても聞いておこう。情報番組の総責任者のコメントは、テレビ朝日がこの事件をどう捉えていたか示すものだ。

『モーニングショー』玉川徹さんの失言騒動

『モーニングショー』をめぐって2022年秋、話題になったのは玉川徹さんの失言問題だった。

 玉川さんは局員でありながらコメンテイターとして『モーニングショー』にレギュラー出演するという特異な存在で、歯に衣着せぬ突っ込みコメントで、毀誉褒貶半ばしながらも人気を博していた。ところが9月28日放送の中で、安倍元首相の国葬にからめて菅前首相の弔辞について「これ、電通が入ってますから」と発言。実はそれが事実誤認だった。

 玉川さんは翌日の番組で謝罪したが、以前から玉川さんを嫌っていた人たちは一斉に非難の声をあげ、ネットでは炎上となった。そして玉川さんは10日間の謹慎という処分を受けた。

 その謹慎が明けた10月19日の放送で玉川さんは改めて謝罪をし、今後は現場取材に徹し、そのレポートをする時に番組に出演するという形になることを明らかにした。

 その件について小寺センター長に聞いた。玉川さんの出演の仕方が変わったのはどういう議論の末に決まっていったのだろうか。

「毎日出演しているとアウトプットは良いとしてインプットの機会が少なくなっていた。やはり原点に立ち返って、自分の足を使って現場取材を行いたいというのが玉川本人の意向でした。本人も悩んだ末に原点に戻ろうと決意したというので私たちも受け入れました。

 番組としては、玉川のほかにディレクターなど専属のチームを作り、現場取材を行い、放送できるものから放送していこうということにしたのです。大きな事件が起きた時にはその現場に行くということもあると思います」

 玉川さんの突っ込みを楽しんでいた人たちの間では「玉川ロス」が囁かれ、それ以来番組を見なくなってしまった視聴者もいるらしい。確かに羽鳥キャスターと玉川さんの掛け合いで番組が活性化していた面はあったし、出演者の間でもそういう役割分担を自覚していた雰囲気はあったから、玉川さんの今後がどうなるか関心はいまだに高いようだ。

「確かに玉川のオリジナルな視点は番組の中で大きな力になっていた面はありますし、それがなくなって寂しいという人もいると思います。でもこれを機会に原点に返りたいという玉川の意向もわかるし尊重したいと思っています」(同)

 玉川さんは暮れの28日放送にも久しぶりに登場。玉川さんが出演するとそれがネットでニュースになったり、話題になるという現象が続いている。

好調に転じつつあるTBS朝の情報番組

 さてTBSの気になる動向だ。同局は2021年秋に朝の情報番組を大幅改編し、『THE TIME,』をスタートさせた。朝の情報番組強化は悲願でもあったが、1年経って同番組の状況はどうなのか、渡邉真二郎編成部長に聞いた。

「『THE TIME,』は良い感じになっています。個人視聴率で言うと、チャイルド、ティーン、F2、M2…この4つの層の数字が上がっているんですね。個人全体では残念ながら他局に水をあけられてはいるのですが、いま全体としてPUT(総個人視聴率)が下がっているために多くの局が数字を下げているなかで、『THE TIME,』が少しずつ上げているというのは期待が持てます。

 この10月に内容をブラッシュアップした成果も既に出てきています。TBSの新ファミリーコアという4歳から49歳の指標を取ると、他局との団子状態に加わっている感じですね。まだまだ頑張らないといけないのですが、じわじわと良い兆候が現われています。

 各地のネット局とつないで朝の中継を行うのが番組の目玉の一つですが、MCの安住紳一郎アナウンサーが月に1回、第4木曜日にローカル局の実況に足を運ぶのが大変好評を得ています。その地域の視聴率にももちろん貢献するのですが、安住さんが体当たりで見たものを伝えていくのが番組全体を盛り上げています。

 同番組のこの10月のブラッシュアップとは、音楽とかデザイン的なところや、コーナーのつなぎ方とかですね。『全国!中高生ニュース』というコーナーも好評を得ています。構成も細かい所を変えました」

TBS『ラヴィット!』の大健闘

 同番組の好転以上に、このところ話題になっているのが8時台に放送中の『ラヴィット!』の健闘ぶりだ。

「『ラヴィット!』の数字の上がり方や話題になり方は今すごいですね。その時間帯のトレンドでは1位になることも多く、若い世代に認知されて支持されています。敢えて他局と違う路線でやってきたことが功を奏しつつあると言えます。PUTが下がっている中で数字を上げていますから、健闘と言ってよいと思います。朝のベルトについては本当に良い状態ですね」(渡邉編成部長)

 TBSの動向は、朝の情報番組戦争に異変あり!という感じだが、日テレの新番組を始め、各局がテコ入れを進める中で、朝の情報番組、2023年にはどうなるのか。

 なおテレビ朝日、TBSについての報道番組の現状については下記記事をヤフーニュースに書いた。本記事と関連したことでもあるので参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20221230-00330829

テレビ朝日『報道ステーション』とTBS『報道特集』が示す報道番組の可能性

 ここで紹介したテレビ朝日、TBSの関係者のコメントは、月刊『創』(つくる)1月号(12月7日発売)の特集「テレビ局の徹底研究」の取材でお聞きしたものだ。各局の現状をレポートしたその特集の内容をテーマ別に再構成したのがこの記事だ。

 

 同様に各局のドラマをめぐる状況もヤフーニュース個人にあげてあるので興味ある方はお読みいただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20221216-00328510

『silent』など配信拡大で激動の時代を迎えたテレビ各局のドラマをめぐるコンテンツ戦略

 ついでに『創』1月号テレビ特集の内容も示しておこう。

http://www.tsukuru.co.jp

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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