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『silent』など配信拡大で激動の時代を迎えたテレビ各局のドラマをめぐるコンテンツ戦略

篠田博之月刊『創』編集長
この秋、圧倒的な話題となったフジテレビ『silent』(C:フジテレビ)

配信拡大で歴史的変動を迎えたテレビ局

 月刊『創』(つくる)1月号がテレビ局の特集だったので、11月はその取材で連日、テレビ関係者の話を聞いた。デジタル化に伴う大きな変化に見舞われているのはメディア界全体が同じだが、特にこの1年のテレビ界はまさに激動だ。それは各局がネットへの同時配信を始めるなどして、環境がものすごい変化をとげたからだ。

「テレビ局といっても、テレビだけを考えて良かった時代は終わったかもしれない」とか、「各局でどこの視聴率が良かったか競い合っている状況は終わった。今はライバルはユーチューブだったりする」などと現役のテレビ局員が口にしている。

 そうした激動のテレビ界を象徴するのがドラマの動向だ。配信の影響を最も強く受けていると言ってよい。わかりやすいのがフジテレビのドラマ『silent』をめぐる反響で、このドラマは配信で次々と過去の記録を塗り替え、収録現場を多くのファンが訪れるなど社会現象とも言える状況なのだが、一方で従来の視聴率の指標だと相変わらずテレビ朝日が上位を独占している。つまりどういう指標を取るかで評価が大きく分かれるという、今やテレビ界はそういう状況になっているのだ。

『フライデー』12月16日号「『秋ドラマ』話題作のマル秘裏話一挙大公開」という記事がなかなか面白かったのは、冒頭に主なドラマの世帯視聴率とコア視聴率を並べ、両者を比較しながら秋のドラマを採点評価しているところだ。

 例えばテレビ朝日でこの秋始まった『ザ・トラベルナース』は世帯視聴率が1話から3話まで11・9%、11・1%、12・%だが、コア視聴率は2・2%、2・1%、2・3%。一方、『silent』は世帯視聴率が6・4%、6・9%、7・1%だが、コア視聴率が2・9%、4・0%、4・%。『silent』はコア視聴率が2話3話と大きく伸び、全ドラマの中で断トツトップだが、世帯視聴率をとると『ザ・トラベルナース』が『相棒』に次いで強さを示している。さらに配信数を見れば前述したように『silent』が圧倒的だ。昔はドラマランキングといえば世帯視聴率を指標にしていたのだが、今は全く違う。

 どういう層をターゲットにしてどの指標で評価するかという考え方が局ごとにかなり違っているのが現状だ。

 各局ともそういう状況の中で、コンテンツ戦略をどう構築していくか問われているのだが、ともあれそういう視点から、各局のドラマをめぐる現状をお伝えしよう。『創』のテレビ特集から、ドラマの部分のみを抽出したものだ。この秋、何といっても話題になっているフジテレビ、そして秋のドラマは盤石と言われてきたテレビ朝日、というふうに各局のドラマを追って行く。

フジテレビ『silent』が配信で歴代最高記録を更新

 フジテレビの『silent』が爆発的なヒットで次々と記録を塗り替えている。特に配信での記録は歴代最高記録を次々と更新する勢いで、フジテレビが強いとされてきたラブストーリーでの久々の大ヒットにテレビ界全体が注目している状況だ。

 その現状を編成制作局ドラマ・映画制作センターの臼井裕詞局長補佐に聞いた。ちなみに臼井さんには過去何度か取材しているが、その時の部署は映画事業局ないし映画事業センターだった。その映画事業部門がこの春、ドラマ部門と統合して「ドラマ・映画制作センター」になった。ドラマと映画を連動させてコンテンツ展開を行うのはフジテレビがこれまでも力を入れてきた取り組みだが、組織自体を統合させてコンテンツ戦略をさらに強化しようということのようだ。

 さて『silent』だが、木曜22時から放送されている川口春奈さん主演のドラマで、耳が不自由になった恋人と音のない世界で出会い直すという設定。タイトルはそこからきているのだろう。この間、ラブストーリーというと少女マンガ原作といったものが多かったが、これはオリジナルストーリーで、しかも脚本家の生方美久さんは2021年の第33回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞してデビューしたという経歴でいきなりの大ヒットとなった。特筆すべき話題が満載なのだ。

「『silent』はオリジナルの脚本の強さでしょうね。個人視聴率も高いのですが、フジテレビが注目しているコア視聴率も異例の高さになっています。しかも特筆すべきはTVerなどの見逃し配信で歴代の民放ドラマの記録を次々と塗り替えていることです。かつての最高は、フジテレビの『ミステリと言う勿れ』でしたが、『silent』はそれを大きく超えたばかりか、さらに記録を更新しています。第4話のデータでいうと、見逃し配信再生数が688万回、TVerの再生数も582万回と前人未到の記録になっています。

 しかもこれだけ大ヒットになると、配信で見た視聴者がリアルタイム視聴に戻ってきますから、地上波の視聴率もぐいぐいと伸びています。

 フジテレビの二枚看板といえば月曜夜9時の“月9”と木曜10時の“木10”です。一時期、少し低迷したこともありましたが、今回はフジテレビが得意としてきたラブストーリーで、しかもフジテレビのヤングシナリオ大賞を受賞してデビューしたばかりの新人の脚本家です。フジテレビがこの10年間取り組んできたもの作りが実を結び始めたという実感があります。

 考えてみれば、このドラマのようなストレートなラブストーリーはしばらくなかったのですね。マンガ原作のラブコメ的なドラマが主流を占めていたなかで、こういう純朴なラブストーリーを丁寧に描いた作品はあまりなかった。そんな中でこのドラマが、心の癒しを求める若い人たちの心をつかんだのでしょうね」

 もともとフジテレビの“月9”は、ラブストーリーが多く、かつて大ヒットした『東京ラブストーリー』は、放送時間になると街から若い女性が消えたと言われた。

「月9」「木10」などフジのドラマ枠の位置付けは

 その“月9”も最近は様々なテーマを手がけるようになっている。この秋放送の『PICU 小児集中治療室』は医療ものだ。

「今の“月9”の『PICU』やその前に放送していた『競争の番人』はいわゆる職業ものですね。“木10”は本来ヒューマンドラマという位置づけでした。だから“月9”と“木10”の関係でいうと、本来は逆なのかもしれません。ただ、今の“月9”も個人視聴率は高く、評価も得ています。今後もいろいろなテーマに取り組んでいくのか、あるいはブランディングをもう一度はっきりさせていった方が良いのか。来年へ向けて考えたいと思っています。

 もうひとつの枠である水曜夜10時の“水10”はミステリー『親愛なる僕へ殺意をこめて』を放送しています。配信は好調なのですが、その数字がリアルタイムの視聴率になかなか跳ね返りません。このあたりは放送枠や内容によって異なるのかもしれません」(臼井局長補佐)

 2023年1月期のドラマは既に発表されている。“月9”は北川景子さん主演の『女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~』。北川さんの“月9”主演は初めてで、ロースクールの新米教師を演じる。一方、“木10”の方は1月から菜々緒さん主演の『忍者に結婚は難しい』が始まる。“水10”の1月期は竜星涼さん主演の『スタンドUPスタート』だ。

 さらに今話題になっているのは来年4月期の“月9”で木村拓哉さん主演の『風間公親―教場0―』が始まることだ。年始のスペシャルドラマとして大人気だった『教場』シリーズがついに連ドラになるわけだ。

「『教場』シリーズはクオリティの高さと木村さんの演技で視聴率も高かったし、評価を得ました。今度の連ドラは、主人公の風間が警察学校の教官になる前の刑事の時代を描いたものです。来年4月期の目玉と言える番組です」(同)

テレビ朝日はこの秋もドラマ好調、『七人の秘書』は映画化

 一方で『相棒』『科捜研の女』とテレビ朝日がシリーズで放送しているドラマが2022年も絶好調だ。前年はこれに『ドクターX』が重なって強力な3本柱となっていたのだが、『ドクターX』は今後の放送予定が決まっていないという。

 その代わりということでもないだろうが、2020年秋には木曜21時に、同じ中園ミホさん脚本、制作チームも『ドクターX』と同じというドラマ『七人の秘書』が放送された。これも毎年放送の新たなシリーズかと期待されたが、そうなっていない。ただこの秋は、その劇場版『七人の秘書THE MOVIE』が公開された。

 テレビ朝日では『相棒』『科捜研の女』ともドラマと映画の連動がなされているが、この『七人の秘書』については今後どうなるのか。コンテンツ編成局ストーリー制作部の三輪祐見子部長兼ゼネラルプロデューサーに話を聞いた。

『相棒season21』(C:テレビ朝日)
『相棒season21』(C:テレビ朝日)

「『七人の秘書』は連続ドラマが好評のうちに終了して、私たちもこれをシリーズ化したいという気持ちはもちろんあったのですが、あの7人のキャストはいずれも人気のある俳優さんたちでスケジュールを揃えるのは大変なのですね。そこでまず集まれるタイミングで映画を作ってみようということになったのです。今後どうするかはこれから考えていきます。

 この秋は『科捜研の女』が火曜21時に枠を移しまして、当初は少し心配もしたのですが相変わらず好調で、水曜21時の『相棒』、木曜21時の新番組『ザ・トラベルナース』と、火水木の連ドラがいずれも高視聴率を記録し、初回の視聴率が各局の連ドラの中でトップ3を独占しました。

『ドクターX』と同じチームという意味では、10月に始まった『ザ・トラベルナース』も中園さんの脚本で、監督以外は制作チームも同じです。岡田将生さんと中井貴一さん主演ですが、このドラマも好評です。

 火水木の3夜連続のドラマ枠については、『21時台のドラマはテレビ朝日』という視聴習慣を持っていただければと思っています。

 また新枠の火曜21時のドラマについては、今後、若い視聴者を意識した企画を考えていこうと思っています」

 年末年始は1月1日に『相棒』が放送されるほか、『新春ドラマスペシャル ドクターズ最強の名医』等が控えている。

NHKはドラマ枠が多く、それぞれの位置付け

 NHKは総合テレビのほかにEテレもあり、BSなども含めて多くの波を持っているのが特徴だ。ドラマ枠も多く、多様性を誇っている。メディア編成センターの土屋勝裕チーフリードに話を聞いた。

「NHKのドラマと言えば、まず大河ドラマと朝ドラ(連続テレビ小説)ですね。全世帯、男女とも幅広い層に見ていただけるものをと考えています。

 今年4月からは新たに月曜から木曜までの夜10時45分から“夜ドラ”という、主に20~30代の若年層をターゲットにした連続ドラマを放送しています。

 火曜夜10時には、30~40代の現役世代へ向けて、共感を呼べる内容のドラマを放送しています。4月期の『正直不動産』が話題になりました。

 土曜夜10時からは“土曜ドラマ”を放送しています。かつて『ハゲタカ』など社会派ドラマのイメージが強かったのですが、堅いテーマだけでないエンターテインメントドラマをと考えています。先ごろ話題になった松坂慶子さん主演の『一橋桐子の犯罪日記』は、老後をどう生きていくのかを描いたものでした。40~50代を中心に幅広い層に見てもらおうと考えています。

 さらにBSPでは金曜夜8時から時代劇を放送しています。『大岡越前』や『赤ひげ』のような王道の時代劇から新作まで、時代劇ファンに見てもらおうというドラマ枠ですね。

 日曜夜10時のBSプレミアムドラマは、ロイヤルカスタマー中心ですが、間口を広げていこうと考えて作っています。松尾諭さんのエッセイをもとにした『拾われた男』や、吉岡里帆さんと笑福亭鶴瓶さん主演の『しずかちゃんとパパ』などが話題になりました。

 それから定時枠でない“特集ドラマ”というNHKならではのドラマがあるのですが、例えばNHK総合で8月20日の夜11時から放送された『ももさんと7人のパパゲーノ』は、死にたい気持ちを抱え命の電話などに相談してくる人は“ももさん”と仮名を名乗る人が多いそうで、福祉番組担当者とともに制作したドラマなのですが、共感を抱いた方々からたくさんの反響が寄せられました。

 BS1で放送された『マイスモールランド』は日本で生きるクルド人を描いた国際共同制作のドラマですが、こういう社会問題に向き合うドラマもNHKならではと思っています。

 毎年、終戦の日前後に放送している戦争関連の特集ドラマも、昨年は『しかたなかったと言うてはいかんのです』を放送し、今年は8月11日に『アイドル』という、戦時下で新宿のムーランルージュのアイドルとして知られた明日待子さんをモデルにしたドラマを放送しました」

来年の大河ドラマは『どうする家康』

 大河ドラマについては、来年1月から放送が始まる『どうする家康』を統括する磯智明チーフプロデューサーにも話を聞いた。今年放送された『鎌倉殿の13人』は三谷幸喜さんの脚本で人気も高かったが、それに続いて来年は古沢良太さんの脚本で期待が持たれている。徳川家康を描こうという企画はどのようにして生まれたのだろうか。

来年の大河ドラマ『どうする家康』(C:NHK)
来年の大河ドラマ『どうする家康』(C:NHK)

「私たちとしては、今人気の脚本家である古沢良太さんに大河ドラマの脚本を書いてほしいとお願いしたのですが、古沢さんが描きたいと考えたのが徳川家康だったのですね。古沢さんなりの家康像というのがプランを聞いていると非常に興味深い。

 徳川家康というのはある意味で誰もが知っている歴史上の人物ですが、『どうする家康』は、それを古沢良太さんの目線でその生涯を描きなおすという作品です。天下をとった成功者とか、狸おやじの策略家とかいろいろ言われていますが、それは後世に作られた評価で、実際には家康の生涯は困難の連続であり、それをどうやって乗り越えたのか、家康の人生は選択の連続だったと思うのです。そういう視点から毎回見たくなるようなエンターテインメント作品として家康を描いていけたらと考えています」

 主役の徳川家康を演じるのは松本潤さんだが、織田信長役の岡田准一さんなど、キャストも順次公開されている。

「今年6月がクランクインでしたが、その前の春先から、馬練習や殺陣練習が始まりました。クランクアップは来年秋の予定で2年近くにわたることになるので、キャストの方々にとっても大変な取り組みになると思います」(磯チーフプロデューサー)

 

日本テレビはドラマを「ストックコンテンツ」と

 コンテンツ中心主義の考え方から、ドラマを「ストックコンテンツ」と呼んでいるのが日本テレビだ。そのコンテンツ制作局の三上絵里子チーフプロデューサーにドラマの現況を聞いた。

「ドラマの評価はリアルタイムの視聴率だけでなく、タイムシフトや配信の結果も含め総合的に評価されている時代だと思っています。

 今のテレビは、地上波、BS、CS、配信プラットフォームやアプリを選ぶボタンがリモコンにあるコネクテッドTVが主流となってきました。地上波は選ばれないと見てもらえない、ということでもあります。この10月期だけで配信PFを除き地上波、衛星放送の新作ドラマは50タイトル近く制作されました。これはドラマがリアルタイムでなくても『見たいコンテンツ』として需要があるからと捉えています。視聴者が好きな時間に好きなドラマを見ることができる。どのタイトルを選ぶか、過去作も含めて選択肢が広がっている現在だからこそ、いかに選んでもらえるコンテンツを制作できるかが私たち制作者の課題です。

 また世界を視野に入れることがドラマに求められています。

 この4月期は『金田一少年の事件簿』を放送しましたが、同時期にディズニープラスで世界配信をしました。日本テレビ系地上波連続ドラマとしては初めての試みでした。

 7月期に放送した土曜ドラマ、『初恋の悪魔』は坂元裕二さん脚本の作品です。坂元さんの作品は世界的に人気で、『Mother』(2010年放送)はトルコ版が50カ国で放送され、これまで7カ国でリメイクされました。その同じ制作チームの新作ということで世界から注目されるコンテンツとなりました」

『ファーストペンギン!』(C:日本テレビ)
『ファーストペンギン!』(C:日本テレビ)

 日本テレビのプライム帯におけるドラマ枠は水曜22時、土曜22時、日曜22時30分という3つである。この秋のドラマをリアルタイムの視聴率でみると、水曜ドラマの『ファーストペンギン!』が好調だ。

「水ドラは、週の真ん中で、特に女性視聴者を意識した作品を多く放送しています。『ファーストペンギン!』は実話を基にしたドラマで、古い慣習を若い女性主人公が打ち破っていく…という物語。漁業がテーマながら、どこの会社や組織にも通じる問題を含んでいるので、男性層やシニア層にも多く見ていただけており、リアルタイムの視聴率に反映しているのだと思います。原作の舞台である地元山口放送では個人視聴率が非常に高く圧倒的1位の番組として多くの人に見ていただけているのも嬉しい結果です。

 日曜ドラマは放送時間が遅いこともありますし、配信でのファンを増やすことも意識しています。早く続きが見たい!と感じていただけるコンテンツを置くことで、一気見から『続きを待てない』視聴者の方が結果、リアルタイムで見たくなるような企画を理想としています。

 深夜ドラマは特に、配信を意識します。『シンドラ』(月曜深夜24時59分・関東ローカル)は、“朝T”とも言われる『朝、TVerで見てから学校、会社に行く』というような現象が見られます。そこから続きが待てない方が深夜リアルタイムで見てくれるのだと思っていますが、10月期『束の間の一花』ではC層(12歳以下)の視聴占拠率が100%という回があって、これは起きていたC層が全員日テレを見ていたということなのですが、嬉しいながら夜更かしさせてしまって申し訳ないなと。

 当たり前なことかもしれませんが、どの枠であれ、続きが楽しみなドラマを制作できれば、多くの人にリアルタイムで見ていただけると信じて制作していきます」(三上チーフプロデューサー)

TBS「日曜劇場」などドラマの海外展開が進む

 TBSにはドラマ枠が3枠あるが、同局の看板と言えるのが日曜21時台の「日曜劇場」だ。王道とも言える骨太のドラマを制作費をかけて丁寧に作り込んでいるという評価を得ており、昨年の『日本沈没』はネットフリックスと組んで海外に配信し、話題になった。実はその前の7月期の『TOKYO MER』もディズニープラスと組んだし、今年1月期の『DCU』はイスラエルとカナダの会社との共同制作だった。「日曜劇場」は世界市場を見据えた展開を先駆的に行っていると言える。こうした動きには、日本のドラマコンテンツが果たして海外でどのくらいの市場を得られるのか、各局とも注目しており、他局でもドラマの海外配信は進んでいる。

 ちなみにこの10月期に放送中の『アトムの童』は、オリジナル脚本によるものだが、物づくりを手がける若者たちが大企業の横暴な仕打ちと闘っていくという、ヒットした池井戸潤作品に似たストーリーだが、その物づくりがゲームだという点が新しいと言える。

 その「日曜劇場」の海外展開はこの1年ほどどのように進んできたのか。編成局編成部の渡瀬暁彦ドラマ統括に聞いた。

『アトムの童』(C:TBS)
『アトムの童』(C:TBS)

「海外配信という点では、4月期の『マイファミリー』はディズニープラスさんにお世話になりました。7月期の『オールドルーキー』は海外配信はなかったのですが、今放送中の『アトムの童』は再びディズニープラスさんと組んでいます。ディズニープラスは日本のドラマに関心を持っているようで、日本テレビやNHKとも組んでいます。

 TBSではそのほか、火曜ドラマで10月期に放送中の『君の花になる』もネットフリックスさんと一緒に海外配信を行っています。

 海外配信は局内でDXビジネス部という部署と私たち地上波編成がタッグを組んで、どう世界に届けていくか取り組んでいます。ドラマの場合、国内でウケるコンテンツと海外でウケるコンテンツが明らかに違う場合もあります。海外進出を進めるといっても日本国内でウケなくてもよいということではなく、その両輪のバランスをどう取っていくか考えなければなりません」

 海外でウケる日本のドラマとはどういうものなのだろうか。

「『日本沈没』のようなデザスタームービー(災害もの)は海外でも日本でも認知度があります。今放送中の『アトムの童』は、ゲームという要素が海外でも注目されているのでしょうね。

『日曜劇場』は確かに民放のドラマの中では一定の評価を得ていると思いますが、必ず当たるということではないし、期待されている分、プレッシャーもかかります」(渡瀬ドラマ統括)

 もうひとつ渡瀬統括が強調したのは、ドラマの作り方も今、変化を求められているということだ。

「映画界では、是枝裕和監督たちが提唱して、現場のクリエイターや若いスタッフを守ろうという声が大きくなっていますが、テレビドラマの世界でも最近はそういうことに関心が持たれています。今まで連ドラは放送にあわせてギリギリの日程で作るのが当たり前になっていましたが、これからはもう少し余裕を持った作り方をしてその分クリエイティブにかける時間を増やしていくとか、グローバル水準で考えていく必要があります。海外配信となると字幕の準備とか時間もかかるのでこれまでのような進行では難しい。これは中長期的に考えるべき問題ですが、TBSでも改善へ向けて動き始め、現場の意識も変わりつつあります」(同)

「日曜劇場」以外の枠も含めてTBS全体でドラマ枠をどう位置付けているのか、改めて渡瀬統括に聞いた。

「今テレビ界全体でドラマ枠がどんどん増えているでしょう。スタッフのマンパワーをどうやって手当しているのかとか、大変な状況だと思うのですが、TBSの場合は今のところ、現在の3枠体制を守っていこうという考えです。

 今ちょうど昨年までの各枠のコンセプトをもう少しブラッシュアップしようと考えているところですが、基本は変わりません。『日曜劇場』は本格派の王道のドラマでありながらエンタテインメントの要素も盛り込んでいく。火曜ドラマは女性向けの恋愛や仕事をテーマにしたものが多いのですが、現代に生きる女性の応援歌ですね。

 金曜ドラマは多様性のある枠で、裏番組に『金曜ロードショー』などもあってなかなか難しい面もあります。昨年放送した『最愛』のように、視聴者が積極的に見たいと思うような視聴深度の高いドラマをと考えています。

 この秋、フジテレビさんの『silent』が大きな話題になっていますが、配信数が大きく伸びてリアルタイム視聴率にも跳ね返るという理想的な形ですね。昨年まではドラマの配信数はTBSが一番と言われてきたのですが、今年はそうではないでしょう。

 金曜ドラマがめざしている視聴深度の高いドラマは、配信やグローバルとの相性も良いと思われますし、今後はいっそうリアルタイムの視聴率だけでなく配信も含めたトータルでコンテンツの価値を考えていかなければいけないと思います」

 ドラマ発の映画ということでは既に来年4月28日公開の『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』が発表されている。ドラマのコンテンツを配信や映画などどうクロスメディア展開させていくかというのは、これまで以上に各局が考える時代になっていると言えそうだ。

テレビ東京は深夜にたくさんのドラマ枠

 テレビ東京はドラマについても深夜枠の尖ったものが話題になることが多いが、ドラマ枠の位置付けや、配信を含めた現状について制作局ドラマ室の大和健太郎室長に聞いた。

「まずゴールデンのドラマ枠として金曜20時の番組があり、10月クールでは『記憶捜査3』を放送しています。ここはオール(全日)の視聴率はもちろんですが、同時に配信数も意識しています。今は3層4層を中心に安定した数字をとれており、配信も含めた今後の取り組みを模索しているところです。

 10月クールで話題になっているものとしては金曜24時12分からの『ドラマ24』で放送している『孤独のグルメSeason10』があります。平日夕方や土日に再放送を行ったり、年末年始に特番をやったりと、テレビ東京の財産になっています。今年で10年目で、松重豊さんも来年60歳の還暦を迎えますから感慨深いものがありますね。

『孤独のグルメSeason10』(C:テレビ東京)
『孤独のグルメSeason10』(C:テレビ東京)

『ドラマ24』自体は2005年スタートですからもう十数年続いて認知もされていますが、昨年、もう少し浅い時間枠として新設されたのが月曜23時6分からの『ドラマプレミア23』です。今後、存在感を出せる枠として育てていきたいと、現在は、秋元康さんとタッグを組んで企画開発を行っています。全てオリジナルのドラマですから、ここからシリーズ化とか海外展開ができたらと、いろいろトライしています」

 スタート当初は22時台の枠で、最初に放送した『共演NG』は大きな話題になり、その後アメリカでリメイク版の制作が決定した。

 そのほか深夜ドラマの枠が多いのがテレビ東京の特徴で、現在は火曜日に1枠、水曜に2枠、木曜に1枠、金曜にも『ドラマ24』の後に1枠と、他の民放と比べても非常に多い。その中でも認知度が高いのが『ドラマ24』で、大ヒットした『きのう何食べた?』は映画にもなった。

「深夜はそれぞれの枠でコンテンツを作り、配信などそれぞれのビジネスモデルを考えています。配信については基本的にはparaviですが、海外の配信会社と組むことも少なくありません。例えば木曜24時半からの『木ドラ24』の枠では、今放送中の『自転車屋さんの高橋くん』がネットフリックスで配信していますし、今後もテレビ東京が企画・制作して海外の配信会社で配信する作品が控えています。

 弊社では以前からネットフリックスやアマゾンプライムと組んで配信を行っており、人気原作ものやエッジが立った作品は配信されているものが多いですね。先行配信をするケースもあるし、放送と配信の関係については作品ごとに検討しています」(大和室長)

 10月期では水曜24時半の「ドラマparavi」枠で7月からスタートした『夫婦円満レシピ』も放送されており、paraviで先行配信されている。

 そのほか連続ドラマではないが、月曜20時台の「月曜プレミア8」という枠もあり、11月7日には『警視庁ゼロ係SP』を放送、12月12日には『内田康夫サスペンス 浅見光彦 源氏物語殺人事件』が放送された

 また年末年始にもドラマスペシャルを編成しており、2023年1月には『ホリデイ~江戸の休日~』が放送される。

 深夜ドラマから映画化される作品も多く、今年は4月に『チェリまほTHE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』が公開された。人気マンガ原作で、テレビ東京では2020年にドラマ化。当時は木曜25時台にあった「木ドラ25」という枠だった。

 配信が拡大する中でコンテンツとして改めて見直されているドラマだが、各局の熾烈な闘いは、さらに重層化し、激しくなっていきそうだ。

 以上、ここでは各局のドラマの取り組みを探ったが、『創』のテレビ特集はそのほか、報道・情報番組など様々なジャンルの各局の現状を報告している。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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