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「表現の不自由展・東京」国立市で開幕。街宣抗議の中、警察官100人以上が警備態勢に

篠田博之月刊『創』編集長
報道陣の内覧でも一番取材対象になったのは少女像(筆者撮影)

100人以上の警官が警備するなか、無事開幕に

 昨2021年は激しい街宣抗議によって二度にわたって中止に追い込まれた「表現の不自由展・東京」が本日4月2日、国立市の「くにたち市民芸術小ホール」で無事開幕となった。実行委員会も会見で「無事開催出来てうれしい」と語った。ただきょうも朝から街宣車が会場前を往来、また会場前の公演では開催に反対する団体が大音量で抗議集会を開くなど、緊迫状況が続いた。

警察官100人以上が警備(筆者撮影)
警察官100人以上が警備(筆者撮影)

 会期はきょうから4日間。昨年の名古屋では開催後に爆竹のようなものが会場に送られ中止になってしまった経緯もあるから、無事に最終日まで開催できるか、緊張状態は続く。

街宣車も抗議活動を展開(筆者撮影)
街宣車も抗議活動を展開(筆者撮影)

 警察は朝から100人以上の警官を動員して警備に当たったという。

警備にあたったのは立川警察署(筆者撮影)
警備にあたったのは立川警察署(筆者撮影)

 昨年来、どういう準備がなされ、どういう経緯があったかについては下記の記事に詳しく書いたので参照いただきたい。会期中は実行委員会スタッフや弁護士が連日、会場警護などにあたる。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220330-00289104

4月2~5日「表現の不自由展・東京」開催に街宣予告など緊張も。いったい何が問われているのか

「表現の不自由展・東京」の会期が4日間と短くなったのは、4月6日に地元の小学校の入学式があるからという市側の要請によるものという。ただその代わりに夜8時ないし9時までと公開時間を延ばしたようだ。既にこの土日は予約で定員枠が埋まっているようだが、週明けの平日夜はまだ予約枠に空きがあるらしい。この美術展が無事開催できるかどうかは「表現の自由」をめぐって大きなことと言える。

国立市の市民への呼びかけに実行委が「感銘

 国立市と施設側にとっても、この開催は大きな出来事だ。実行委によると、昨年9月28日に会場使用申し込みを行った後、施設側から電話がかかってきて「『表現の不自由展』とわかりまして大騒ぎになっています」と言っていたという。

 今回、開催にあたて市側はホームページで3月30日から市民へ向けての告知を行っている。4月1日にアップされた「くにたち市民芸術小ホールで開催される展示会に関する市の考え方について」には、実行委員共同代表の岩崎貞明さんも「感銘を受けた」と会見で語っていた。こういう内容だ。

《施設利用については、内容によりその適否を判断したり、不当な差別的取り扱いがあってはなりません。これは、アームズ・レングス・ルール(誰に対しても同じ腕の長さの距離を置く)と、同じ考え方です。

 市としましては、多様な考え方を持ったそれぞれの市民・団体が、法令に従い実施する様々なイベント・活動の場として、公の施設の利用は原則として保障されるべきものと考えています。》

その他、市の見解は下記ホームページを参照いただきたい。

https://www.city.kunitachi.tokyo.jp/soshiki/Dept01/Div01/Sec02/oshirase/1648605981822.html

 きょうは朝10時から展示会場のマスコミ内覧が行われた後、実行委員会による会見が開かれた。国内の新聞・テレビはもちろん、韓国やドイツなど海外メディアも取材に訪れた。実行委から説明された内容は、前半は3月25日の説明とほぼ同じだったが、3月31日に行われた市側と施設との3者協議で出た話も披露された。

安世鴻さんの慰安婦の写真「重重」(筆者撮影)
安世鴻さんの慰安婦の写真「重重」(筆者撮影)

 その日までに市と施設に届いた電話とメールはそれぞれ約50ずつ。「あいちトリエンナーレ」の時はものすごい数の抗議電話が来たと言われているため市側も緊張し、電話応対の外部委託などいろいろな対策を講じたが、思ったほど多くはなかったとのこと。公開している実行委員会の電話にも「やめてください」という声は1~2本あったが、昨年のような脅迫でなく穏便な抗議だったという。

 これについては、昨年、脅迫メールを送った人物が警察の捜査で特定され逮捕されたといった事情も影響しているのだろう。実行委員会は、そういう情報を可視化していくことが大切だと考えているという。

昭和天皇を描いた大浦信行さんの作品について

 会場では16作家の展示内容についての図録も販売されているが、実行委の会見での質疑応答で展示内容についての質問もあった。

 あいちトリエンナーレの時は、激しい抗議の対象になったのが「平和の少女像」と大浦信行さんの「遠近を抱えて」だった。

大浦信行「遠近を抱えて」(筆者撮影)
大浦信行「遠近を抱えて」(筆者撮影)

 今回、大浦信行さんの版画「遠近を抱えて」は1点展示されているのだが、あいトレで騒動になった動画は公開されていない。「天皇の像を燃やしている」と問題にされたあの動画だ。ただ実際に天皇を燃やしたわけではないとの内容の説明は、昨年、大浦さん自身がされているので下記を参照してほしい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190816-00138640

「表現の不自由展・その後」で「天皇を燃やした」と攻撃されている大浦信行さんに話を聞いた

 私は大浦さんとは長いおつきあいで、実行委に大浦さんを紹介もしたし、あいトレで右翼が大浦さんを激しく攻撃し始めた時には、率直に言ってテロの危険性があると大浦さんを自宅に訪ね、作品の真意を語ってもらってこのヤフーニュースに公開したのだった。

  その大浦さんの動画が今回展示されなかった経緯については、実行委はこう説明した。

「大浦さんの映像は昨年、表現の不自由展を開催する予定だった時にも含まれていませんでした。理由は展示会場の広さの問題もあって基本的に1作家1作品と考えていたからです。特に大浦さんの動画は一通り見ると20分かかるので、会場参加者に時間制限を設けているなかで見るのに20分かかる作品は難しいということになったのです」

 今回の展示内容は、昨年中止になった時の展示とほぼ同じだという。豊田直巳さんが福島原発を撮った写真「叫びと囁き フクシマ:記録と記憶」もあいトレの時は展示されていなかったが、もともとノミネートはされていたもので昨年の展示予定には入っていた、実際に展示されたのは「表現の不自由展かんさい」だったとの説明だった。

批判は自由だが暴力で潰すのはいけない

「表現の不自由展・東京」はコロナ対策もあって50分ごとに入れ替え制で1回の定員は40人、会期4日とも満員であれば延べ1600人の入場数になるという。事前に始めたクラウドファンディングは2日現在148万円。目標は440万円だが、会期中会場でカンパを呼びかけるほか図録などの売り上げも含めるという。開催された本日からテレビや新聞も大きく報道し始めたので、これから大きく伸びる可能性もある。

 賛否両論、大きな議論を巻き起こしている「表現の不自由展・東京」だが、議論や批判はもちろん自由だ。しかし、暴力によって途中でつぶされるといった事態のないことを、とにかく無事に開催が続くことを祈りたい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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