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性犯罪の再犯事件、元ヒスブル・ナオキの初公判を傍聴 彼は何を認め何を否認したのか

篠田博之月刊『創』編集長
ヒステリックブルーの会報より。下段右端がナオキ(筆者撮影)

 2021年3月30日、さいたま地方裁判所で、昨年9月に逮捕され、強制わいせつ未遂で起訴された二階堂直樹被告の初公判が開かれた。私はナオキと呼んでいるのでそう表記するが、かつてヒステリックブルーという人気バンドで活躍していた人物だ。それが2004年に性犯罪で逮捕され12年間服役し、4年半前に出所。そして2020年再び性犯罪で逮捕されたという、その意味で深刻な事件だった。つまり性犯罪は再犯率が高いという通説を裏付けてしまったからだ。

 ナオキは森達也さんのファンで、月刊『創』(つくる)も読んでくれていたし、『創』のトークイベントに顔を出したりもしてつきあいがあったから、昨年の逮捕には驚いた。彼自身、服役中に治療プログラムも受けて、更生に意欲も持っていたし、出所後の様子を見る限りは、もう性犯罪を犯すことはないように見えたのだった。

 こうした昨年の逮捕から起訴に至る経緯については、以前ヤフーニュースに書いたので参照いただきたい。逮捕翌日に接見し、その後も現在までやりとりが続いている関係だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200924-00199887/

性犯罪で再び逮捕された元ヒステリックブルーのナオキに警察署で接見した

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201030-00205617/

起訴された元ヒステリックブルー・ナオキの報道が途絶えてしまった気になる事情

 ナオキの事件は発生当時大きく報じられていたため、きょうの公判も傍聴できるか心配で11時の開廷の40分前に法廷前に行ったのだが、事前の報道がなかったためか、一般傍聴に訪れたのは10人ほどだった。大きな法廷だったが、感染対策で間をあけて着席するため、傍聴席は20以下だった。報道席は座席の間をあけずに地元のマスコミ各社がすわっていた。冒頭2分間のテレビカメラ撮影は傍聴人を入廷させずに行った。

 ひとつ驚いたのは、『創』の連載執筆者でもある阿曽山大噴火さんが傍聴に来ていたことだ。よく公判日程をキャッチしていたなと思ったし、埼玉まで足を運んでいることにも感心した。

公訴事実について「強制わいせつ目的」を否認

 公判については昼のニュース以降、テレビやネットニュースで報じられている。ただ少しわかりにくいと思うので、補足を兼ねてレポートしておこうと思う。

 ナオキは公訴事実について、一部を否認した。どこをどう否認するのか、法廷でも裁判長が聞き返していた。本人の住所氏名などの人定が終わった後、検察官が公訴事実を読み上げた。こういう内容だ。

《被告人は、徒歩で通行中の女性に強制わいせつ行為をしようと考え、令和2年7月6日午前2時13分頃、埼玉県朝霞市の路上において、23歳の被害者に対し、背後から口を左手で塞ぎ、着衣の上から同人の胸を右手で触ろうとしたが、同人に抵抗されたため、その目的を遂げなかったものである。》

 この内容について裁判長は被告人に認否を求めたのだが、「日時場所行為については認めますが、それ以外は否認します」というものだった。

 裁判長が「どの部分を否認するのか」と尋ね、ナオキは「強制わいせつ行為をしようという考えで、の部分が違います」と答えた。弁護人も「その部分は法的な認識を示したもので具体的な事実ではありません」と訴え、こうも述べた。

「本件は迷惑防止条例ないし暴行にあたるもので、強制わいせつ未遂は成立しないと考えます」

 公判冒頭からのこの応酬はいささかわかりにくいのだが、要するに弁護側としては、痴漢行為を企てたものであって強制わいせつを目的にしたものではない、という主張だ。

 これについては上記昨年の私の記事を参照いただきたいが、逮捕を報じる最初のニュースからして、「口を塞いで押し倒し、わいせつな行為をしようとした」とされていた。報道は捜査側の認識に基づいており、捜査側は最初そう考えていたのだろう。

 それに対して逮捕翌日に接見した報告で私は、それは被告人の認識とは違うことを指摘した。ナオキの行為をどう見るかは、量刑にもかかわるこの裁判の争点だ。

 捜査を進める過程で、当初の警察の見立てには少し無理があると検察が判断したのか、起訴段階では、当初の「強制わいせつ致傷」という容疑から「致傷」が削られていた。びっくりした女性が動転して転んでしまったのを、被告人による致傷と認定するのは無理があると判断したのだろう。

犯行前にサンダルを脱いだことを検察官が重視

 さて公訴事実と、それは違うという双方の主張がなされたうえで、次に検察官によって冒頭陳述が行われた。ナオキの生い立ちと前刑について説明した後、今回の事件について少し詳しい説明も行った。

 2020年7月5日、ささいなことで「内縁の妻」(検察官の表現)と言い争いになり、午後10時頃から被告人は飲食店へ行って飲酒(その量は後に被告人の供述調書の紹介で「ジョッキで6杯程度」と説明された)。6日1時半頃、さらにコンビニで購入した酒を持って路上に出て犯行に及んだ。

 そう語った後、検察官は、犯行直前の被告人の行動をこう説明した。「その際、履いていたサンダルを脱ぎ、バッグを置いて近づき、2時13分頃、背後から左手で被害者の口を押さえ、着衣の上から右手で触ろうとしたが、叫ばれ抵抗されて逃走した」

 このサンダルとバッグについては被告人供述調書の紹介で再び言及し、サンダルを脱いでバッグを置いた目的について、被告人は「小走りで近づきたいと思ったし、サンダルだと近づいた音も聞かれるからと述べ、犯行後、サンダルとバッグは回収した」と述べた。

 つまり強制わいせつの意思や計画性をうかがせるものと判断したらしい。

 その後検察官は、犯行後、被告人が7月9日に泣きながら妻に事情を話し、両親や同僚にも話した経緯を説明した。

被害者との示談をめぐるやや意外な展開

 そしてその後、ちょっと意外なことを明らかにした。この事件では、ナオキと被害女性の間で弁護士を介して示談が成立していたのだが、その示談書についての被害者の電話録取供述をこう紹介したのだ。

「被害者はいったん示談に応じたものの、不安、恐怖が消えるものでないとして、厳しい処罰を望んでいます」

 示談はしたが被害女性は納得しておらず、処罰感情を持っているというわけだ。最終的にこの被害女性は次回公判に遮蔽をして見えなくした形で証人出廷することも明らかにした。

 その後、検察側はさらに被告人の供述調書をもとに、被告人が動機についてどう語っていたかを紹介した。

「内縁の妻との価値観の違い、仕事に対する悩みを抱え、口論の後、居心地が悪かったので外へ出て酒を飲んだ」

 そして証拠採用について、被害女性を次回証人として採用すること、被告人が一部否認した強制わいせつにあたらないという主張については、弁護側が最終弁論で語るということなどが確認された。

 次回、被害女性が出廷し、その次の公判ではナオキの同居女性(検察官が内縁の妻と表現した女性)が情状証人として出廷するというから、公判はまだ何回か開かれるわけだ。妻の証言では、ナオキが前刑で出所後、更生にどう努めてきたかが語られると思われる。

 示談をめぐってはやや異例の展開となったが、示談書には今後刑事処罰を求めないと書かれているはずだから弁護側はその正当性を主張すると思う。それに対して被害女性は、揺れた心情を含めて、性犯罪の深刻さを訴えるものと思われる。

 以上が初公判でのやりとりだ。最終的に求刑や判決がどうなるかは予断を許さないが、性犯罪の再犯がなぜ防げなかったのか、どうすればよいのかなど、いろいろな問題について掘り下げた審理が行われることを期待したい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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