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性犯罪で再び逮捕された元ヒステリックブルーのナオキに警察署で接見した

篠田博之月刊『創』編集長
元ヒステリックブルーの会報より。筆者撮影

9月24日、警察署でナオキに接見した

 9月24日、前日に性犯罪で逮捕された元ヒステリックブルーのナオキに接見した。逮捕翌日に接見に行ったので本人は驚いていたが、そんなことより今回の逮捕には私の方が驚いた。割としっかりした男なので、もう更生は大丈夫と思っていたからだ。それを話すと、彼は「自分自身ももう大丈夫と思っていたんですけどねえ」と言った。

 彼は前の性犯罪で懲役12年の実刑を受け、服役中に性犯罪の治療プログラムを受講。更生することにそれなりの自信を持っていた。自分の更生の意志を社会に示そうと思って出所前に『創』2016年8月号に手記も発表した。そうした経緯については下記の記事をご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20160706-00059689/

元ヒステリックブルーのナオキが出所を前に獄中12年の心情と事件の真相を手記に綴った

 そのナオキがいったいなぜ再び性犯罪で逮捕されるという事態に至ったのか、面会室での会話を紹介しようと思うが、その前に今回のマスコミ報道を整理しておこう。

 23日当日、最初に報道したのは日本テレビだったようだ。続いて毎日新聞がネットで報道。日テレはナオキの現在の名前、二階堂直樹の実名を報じたが、毎日新聞は匿名だった。しかし、元ヒステリックブルーのメンバーと報じたから、すぐに誰のことかわかる記事だった。ただ、後で確認したら毎日新聞のデジタル版も実名になっていた。他社の報道を見て実名報道に転じたらしい。

https://mainichi.jp/articles/20200923/k00/00m/040/114000c

「ヒステリックブルー」元ギタリスト、強制わいせつ致傷容疑で逮捕 埼玉県警

 ちなみにナオキは元々の名前が赤松直樹、私は本人の希望に応じていつもナオキと表記し、そう呼んでいた。二階堂という現在の姓に変えたのは出所後、養子縁組したからで、確か更生のために考えての措置だったと思う。でも今回、新聞・テレビでその名前が報道されたから、姓を変えた意味はなくなってしまったわけだ。

 一連の報道の中で、詳細で私も少し驚いたのが朝日新聞デジタルの記事だった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8076cc1f3ce33decd90ebedbb08bbe32b27f9dcf

ヒステリックブルーの元ギタリスト逮捕 強わい致傷容疑

 犯行現場の記述も詳しいが、何より驚いたのは、甲府市の現住所を詳しく書いていたことだ。接見の時、それを伝えるとナオキも驚いたようで、「え、甲府市のその下の地名も書いてあるの?」と聞き返していた。

 その住所は、本人に聞いたら、今回の事件を起こして自首した後、移り住んだ場所という。いわば緊急避難したのだろうが、本人が勾留された現在、そこは前刑出所後から一緒に暮らしている現在の妻(籍は入れていない)が住むところで、その住所を新聞が暴露してはまずいだろう。朝日新聞がそうしていること自体にまず驚いた。

 と思って、見たら、文春オンラインがその住居の写真をぼかし入りで公開している。記事内容も詳しいから短時間でそれだけ調べ上げた取材力に敬意は表したいが、もうひとりの被害者というべき妻が住んでいる住居を暴いてネットで公開というのは、いくら何でも問題だろう。夫の更生をサポートしていた妻にとって、今回の事件は大きな衝撃のはずで、マスコミの取材攻勢を逃れて今現在はその自宅からも避難しているが、恐らく写真週刊誌などは張り込みをしているのだろう。

 でも、家族の住所は暴くわ写真は載せるわというのでは、いくら何でも自分たちの報道の暴力性に無自覚すぎる。犯罪者を叩いているつもりが、実際にはもうひとりの被害者でもある妻ら家族を攻撃しているという、その現実を自覚してほしい。

[注]この記事を公開してから文春オンラインは問題の写真を削除した。この記事を読んだからかどうかは不明だ。

9月23日は逮捕を覚悟しての出頭だった

 なぜ事件を起こしたのが朝霞市で現住所が甲府なのかと思った人もいるかもしれないが、今回の逮捕に至る経緯は、やや複雑だ。

 事件を起こした7月6日の後、ナオキは11日に自首した。逃亡の恐れがないことを確認したうえで、警察か裁判所の判断だろうが、彼は在宅で待機することが認められた。その間、警察は被害者に話を聞くなどして捜査を進めたのだろう。逮捕まで2カ月というのは少し長すぎる気がするが、その間に弁護士が決まっているから、捜査側と話し合いはしていたのだろう。

 9月23日は、ナオキは逮捕されることを事前に連絡されており、指示通りに出頭したのだった。

「出頭前に実は篠田さんに電話しようかとも思ったんです」彼はそう言った。

「でも、これから出頭しますとわざわざ電話するのも何かと思って…」

 確かに出頭直前に電話をもらっても私もなすすべはなかったろう。そんなことより犯罪に至る前に相談してくれていれば、何か対処のしようがあったように思えて残念だ。今回の逮捕は、更生を誓った者が、でもやっぱりダメだったという事例として取り上げられることになるのだろう。

性犯罪をなくすための取り組みに冷水を浴びせた

 ナオキの前刑での出所後もそうだが、『創』は、13年の服役で出所した樹月カイン(仮名)さんの更生日記を掲載するなど、性犯罪を犯した者の更生についてソーシャルワーカーの斉藤章佳さんらを含めて、いろいろな議論をし、誌面化もしてきた。薬物犯罪と並んで再犯率が高いと言われる性犯罪について、再犯防止というのはどうやって実現されるのか、模索してきたつもりだ。今回のナオキのケースでもわかるように、何らかの依存症のある人が本当に更生していくのは簡単ではない。

 そもそも出所した人の場合、就職はもちろん、住居を確保することも簡単ではない。特に性犯罪については社会的反発は大きいから、その中で更生の道を歩むのはかなり大変なことだ。興味ある方は、下記の樹月さんの更生レポートを読んでほしい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190131-00113156/

性犯罪で13年間服役し出所した男性の更生レポートその1

https://news.yahoo.co.jp/articles/c26f29dcbcb017b1f0660cdf23715aeaaa60cebd

性犯罪で13年間服役した男性は出所後2年どうしているのか本人に聞いた

 ついでながらナオキが『創』2016年8月号に書いた「罪と償いについて考える」という獄中手記については、今回多くのマスコミ報道が言及しており、問い合わせも届いている。そこでヤフーニュース雑誌に全文を公開することにした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4545ab4fc34e73016cd5c3d4cd1d6aa8b9e2f767

性犯罪で再度逮捕された元ヒステリックブルー・ナオキの手記を改めて公開する

 この10年ほど、法務省を含め、多くの人が、処罰だけでなく治療を考えないと性犯罪は根絶されないと信じて、様々な取り組みを行ってきた。今回のナオキの犯罪の一番問題で残念なことは、そうした取り組みに真っ向から冷水を浴びせたことだ。実際、ネットで逮捕のニュースが流れたとたん、「性犯罪者の再犯は絶対防げない」「一生刑務所に入れておけ」「出所した者の情報を公開しろ」などといった短絡した意見がネットにあふれることになった。

 ネットのそういう反応をナオキに話したら、さすがに本人も事態の深刻さを受け止めているようだった。

ナオキが今回犯した性犯罪の詳しい経緯

 さていったい今回の事件はどういうものだったのか。ナオキは事実関係を基本的に認めているから、接見の際に経緯を詳しく話してくれた。

 事件を起こした7月6日午前2時頃、ナオキは自宅近くのラーメン店で一人で食事をし、酒を飲んでいた。そして酔った勢いで通りかかった女性の後をつけた。最初の女性には少し後をつけただけで何もしなかったが、2人目の女性に対しては背後から近づいて、叫ばれるのを防ぐために手で口を押えた。

 そのうえで女性の胸などを触るという痴漢行為をしようとしたとたん、女性が動転して転倒してしまった。そして肘に擦り傷を作った。それが、強制わいせつ致傷という今回の罪名だ。報道では「口を塞いで押し倒してわいせつな行為をしようとした」とされていたから、多くの人が当然、強姦未遂と考えたろうが、本人の話ではそうではないという。警察の見立てと本人の言い分が違っているということなのか、あるいは報道が不正確でそうなったのかわからない。これについては裁判の核心にあたる部分なので、公判で詳しく解明されるのだろう。ナオキが言っている内容が、報道内容と違っていることだけを、ここでは指摘しておこう。

 いずれにせよケガをした女性は被害届けを出し、現場から立ち去ったナオキは自首したのだった。自首した日にちは、報道では11日とされており、それが正しいと思うが、ナオキは面会室で話した限りでは、「え、もう少し早かったのでは」と、事件からすぐに自首したという認識であるようだ。

 再犯ということや、ナオキがかつては紅白歌合戦にも出場したバンドのメンバーだったことなどが考慮されて、今回はマスコミが一斉に報じることになったが、裁判の結果がどうなるかはなかなか微妙なケースだ。報道にあるように強姦を企てたということではなく、ナオキの言うことのほうが正しければ、不起訴になる可能性もゼロではない。起訴されれば実刑は確実だろうから、そうなればナオキは再び刑務所に送られる。そのあたりは今後の警察・検察の取り調べにかかっていると言える。25日には彼は検察庁に送検され、今後、本格的な取り調べが始まることになる。

「犯行前からサインはあった」と面会室で述懐

 私が犯行経緯以上にナオキに確認したいと思ったのは、治療プログラムを経て更生の決意を熱心に語っていた彼がなぜ再犯に至ってしまったのかということだ。常識で考えれば、7月6日の行為は、その前から少しずつエスカレートしていった結果ではないかと思われる。

 ナオキに質すと、本人も確かに兆候(サイン)は出ていたという。本人も自覚していたわけで、「自分の認知の歪みに気が付いて、R3のテキストを読み返そうかと思っていた」という。R3とは刑務所で受講した治療プログラムで、出所した人たちは、市民社会でその治療によって学んだことを実践していくわけだ。「認知の歪み」は性犯罪とその治療を理解する上でのキーワードだ。

 本人もサインに気づき、何とかしなければとは考えていたという。「もしカウンセリングを受けている人がいれば相談できていたと思う」という。前述した出所者の樹月さんは、出所後もずっと、定期的にカウンセリングを受けている。治療プログラムは、刑務所で学習するだけでなく、実社会で実践することが大切だという考えからだ。

「そもそも君は、女性と一緒に暮らしているのにどうして性犯罪に走ることになるの?」

 そう尋ねるとナオキは、「いや、それとこれとは別だから」という。

 今回の犯罪を振り返れば、ナオキもやはりある種の依存症で、自分は大丈夫と思い込んで何の対策も講じないうちに兆候が現れ、酒の勢いで犯行に走ってしまったということなのだろう。薬物もそうだが、性犯罪についても、依存症の克服は簡単ではない。その怖さを改めて感じた。

再犯を犯したナオキの重たい責任

 2004年にナオキは性犯罪を犯して懲役12年という重い判決をくだされたのだが、私も公判記録を読んで気持ちが落ち込むほどひどい犯罪だった。女子高生を含む9名に対する連続わいせつ・強姦事件だが、事件の後、警察の事情聴取に対して、ショックでまだ親にもそれを話せていないと語っていた被害女性もいた。

 その背景には2003年、ヒステリックブルーの活動休止という、ナオキにとっては辛い出来事があった。精神的に追い詰められての犯行だった。私はそのことを、これは一般の性犯罪と違うと、手記掲載時に書いたら、樹月さんに、いや性犯罪とはもともとそういうもので、篠田さんはわかっていないと言われた。その後、いろいろなケースに接して私も、性犯罪や依存症について少しずつ理解を深めていった。

 ついでながら『創』は性犯罪の被害女性たちの話も相当取り上げている。性犯罪の被害者がどんなに苦しい思いをしているかについては、『創』9月号に被害者たちの座談会を載せているので、下記記事を参照してほしい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200807-00192186/

23年前の集団レイプ事件被害者が語った性暴力被害女性の衝撃の座談会

 性犯罪の再犯という重たい問題なだけに、そのあたりについては、今後ナオキにしっかり聞いていこうと思う。そこをきちんと自己切開できるかどうかは、ナオキ本人の今後の更生に関わる大事なことだし、この10年間、性犯罪をなくすために努力や議論を重ねてきた人たちに対する責務でもあると思う。

 ナオキが逮捕された日、樹月さんと電話で話した。彼もナオキの逮捕は「本当に残念だ」と語っていた。

 ナオキが今回、再び犯罪に走るにいたった経緯は、彼の責任においても『創』で掘り下げていかねばならないし、同時に性犯罪をなくすための取り組みは、これにひるむことなく前へ推し進めていかねばならないと思う。

[追補]以下は26日に追加した部分だが、テレ朝系の報道でこういう説明があるので補足しておこう。

「二階堂容疑者が事件前に交際相手の家で酒を飲んで口論になっていたことが分かりました。その後、二階堂容疑者はラーメン店に行って再び酒を飲み、近くで好みの女性を探して犯行に及んだとみられています。」

http://www.khb-tv.co.jp/news2/annNews/000194059.html

 交際相手の家というのは勘違いで、そこに女性と一緒に住んでいる自分の家だ。問題は女性と口論して酒を飲んで犯行というくだりで、

確かにその夜、ナオキはちょっとしたことで妻と口論になった。酒を飲んで口論になったというのは順序が逆で、このあたりも記者が警察への断片的取材で不正確な原稿になっている部分だ。

 口論の後、妻は先に寝てしまったようだが、ナオキは酒を飲んでいたようで、さらにラーメン店に行ってまたお酒、ということになったらしい。妻との口論もよほど激しい喧嘩だったのかと思って確認したらそうではなく、ここに詳しく書くほどでもない日常生活のささいなことだった。

 でも、ナオキはその頃、いろいろうまくいかないことがあって、精神的にためこんだ状態だったようだ。で、ささいな口論であっても犯行への引き金になった可能性はある。精神的ストレスが遠因となって性犯罪、というのは、前刑の時と同じで、ナオキも接見の時にサインはあったと言っていたから、精神的ストレスがかかっていたことは自覚していたのだろう。

[追補]この記事の続報を以下に書いたので参照いただきたい。10月14日にナオキは起訴されたのだが、逮捕容疑だった「強制わいせつ致傷」は大きく変更されていた。マスコミはそれをほとんど報道しなかったのだが、事件報道の問題点がそこに現れているように思う。なお、

その記事にも書いたが、最初に書いた記事の幾つか細かい誤りを修正した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201030-00205617/

起訴された元ヒステリックブルー・ナオキの報道が途絶えてしまった気になる事情

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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