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大晦日夜にTBSが勝負を賭ける『せっかくグルメ』!躍進の秘密を制作者に聞いた

篠田博之月刊『創』編集長
『バナナマンのせっかくグルメ!!』 C:TBS

 年末年始には各局が好調番組のスペシャル版を編成する。テレビ東京は毎年、人気のバラエティ番組をずらりと並べるし、フジテレビは前年大人気だった木村拓哉さん主演のドラマ『教場Ⅱ』を正月に編成している。

 TBSはドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のスペシャル版を年明けに放送予定のようだが、もうひとつ大晦日の夜19時から5時間ぶっ通しの放送という、ある意味勝負を賭けたのが『バナナマンのせっかくグルメ!!』だ。そのくらい、2020年のTBSでこの番組が躍進し、評価も得ているということだ。

 しかもこの番組は、日曜夜のゴールデン帯という、従来日本テレビの牙城と言われながらこの何年か激戦区になりつつある時間帯で結果を出したという意味でも注目されている。「旅とグルメ」という、一見そんなに斬新な要素があるとも思えないコンセプトのこの番組がなぜ大健闘に至ったのか。

 月刊『創』(つくる)発売中の2021年1月号は特集が「テレビ局の徹底研究」だが、TBSの記事で『せっかくグルメ』を大きく取り上げている。プロデューサーに話を聞いた、その内容を紹介しよう。

日曜夜の激戦区で予想を超える大健闘

 日曜夜の20時台といえば、日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』やテレビ朝日の『ポツンと一軒家』など、各局の強力な番組がぶつかりあう激戦区だ。その枠でTBSのバラエティ『バナナマンのせっかくグルメ!!』が大健闘で話題になっている。

 バナナマンの日村勇紀さんが各地の飲食店を訪れて地元の人と会話しながら名物料理を紹介するという〝旅とグルメ”の番組なのだが、例えば9月第4週には個人視聴率で8%、世帯視聴率で12%という健闘ぶりだ。

 いったいその強さの秘密は何なのか。TBSコンテンツ制作局バラエティ制作一部の石黒光典プロデューサーに話を聞いた。

「番組は2020年4月から日曜20時台のレギュラー番組としてスタートしたのですが、それまでにいろいろな変遷を経ているんです。最初は6年ほど前、昼の実験枠で放送した後、深夜のレギュラー番組、その後日曜夕方18時半からの30分番組を経て今の時間帯へと移りました。少しずつ視聴率を上げていったので、その実績を見て編成部が判断していったのでしょうね。僕は日曜夕方の時期から関わっています。

 レギュラー放送前から特番として2時間半というスペシャル版をやっており、4月以降は18時半から21時までの拡大版が定期的に編成されています。2時間半の番組を作るのは大変なのですが、全体を3ブロックに分け、訪れる店を増やすといったことで対応できるのがこの番組の特徴ですね」

プロデューサーが語る好調の要因 

 好調の原因をプロデューサーとしてどう分析しているか。ズバリそう尋ねた。

「TBSの視聴率の指標が、13~59歳をターゲットにしたファミリーコアに変わったということとも関わっているのですが、家族みんなで見られるような、どこからでも見られる楽しい時間が続いていくということじゃないでしょか。家族みんながほっこりできる時間というのが、日曜の20時台の生理にあっていたのではないかと思います。

 もちろん日村さんのキャラクターというのは大きい要素で、地元の人とのやりとりがすごく面白い。あんなふうに掛け合いができるのは日村さんならではでしょうね。ゲストに応じて見せ方を変えるといった工夫も、あきられないで続いている理由のひとつだと思います」

 後の番組がドラマ日曜劇場なので、10月改編の『危険なビーナス』が始まる時期には、主演の妻夫木聡さんと吉高由里子さんがゲストに登場するなどしてきた。『半沢直樹』の出演者も『せっかくグルメ』にゲスト出演している。

 コロナ禍の中で番組も対応を迫られ、日村さんが街に出て地元の人に声をかけるというスタイルを改め、ロボットを街に置いて、日村さんがリモートで通りかかった人に呼びかけるというやり方になった。その地元の人が勧めるお店に日村さんが交渉し、訪れるという番組だ。

「この時間帯は個人全体視聴率は『ポツンと一軒家』が健闘しているのですが、ファミリーコア層で見ると『イッテQ!』がダントツトップ。さすがにそれには及びませんが、安定した2位を保っています。『イッテQ!』は攻める番組ですが、『せっかくグルメ』はゆったりと見てもらう番組で、それがコロナ禍の家庭の気分にあっているのかもしれません。

 スタッフも出演者も楽しんでいるし、視聴者も楽しんで見てくれているという、稀有な番組かもしれません。一時、テレビは何か情報を出さないとダメじゃないかとか追い詰められた時期があるのですが、この番組はテレビの新しい可能性を見せてくれたような気がします」

 日本テレビの『イッテQ!』には、まだ水をあけられているが、2時間半の番組になった時には19時台は『ザ!鉄腕!DASH!!』と良い勝負。先頭ランナーが視野に入ったというところのようだ。『せっかくグルメ』の進撃はどこまで続くのだろうか。

迎え撃つトップの日本テレビの現場は…

 またそれらを迎え撃つ格好になっている日本テレビは、かつて同局が圧倒的な強さを見せて「盤石」と言われた日曜夜が激戦区になっている現状をどう見ているのか。編成局の田中宏史編成部長が『創』の特集でこう語っている。

「日本テレビの場合は、日曜夜に、『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』というバラエティ番組があって安定していると言われてきたのですが、最近はそこにTBSさんの『坂上&指原のつぶれない店』『バナナマンのせっかくグルメ!!』からの『日曜劇場』という流れもあり、テレビ朝日さんの『ナニコレ珍百景』から『ポツンと一軒家』の流れも強力です。現場も危機感を持って番組制作に臨んでいます」

 各局の争いが熾烈になっているだけでなく、そもそもテレビがどのくらい見られているのか、視聴率全体の推移も気になるところだという。

「コロナ禍によって在宅率が増えたために2020年4月期はテレビを見る時間が増えて総個人視聴率(PUT)が上がったんですね。でも秋以降もそれが上がっているかというと、逆に落ちているのです。総個人視聴率(PUT)は、10月以降下がっています。

 4月以降は視聴者の方々がテレビを見る時間が増えたと思いますが、新たな視聴者を獲得したわけでなかったのではと考えております。それともうひとつ、家庭でオンライン化が進み、テレビの結線率も上がり、配信などを見る機会も増えていったのではと考えております。ただ要因はいくつも考えられますが、魅力的なコンテンツをさらに努力して放送していかなければいけない時代だと思います」(同)

テレビ局間の闘いだけでなく、ネットの動画配信など、テレビをめぐる環境が大きく変わりつつあることを指摘したもので、ますますテレビはいかにして有効なコンテンツを作っていくかが迫られているというわけだ。  

 テレビを取り巻く環境の変化に対応するために日本テレビが10月から実験的にネットへのライブ配信を行うなど、テレビ局も業態を大きく見直そうとしつつあるのだが、それについては下記の記事に書いたのでご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201214-00212580/

テレビ東京の尖った制作者が新たなチームを作ったことの意味とテレビ界の歴史的な転換

 『創』1月号のテレビ特集については、このヤフーニュースで、朝の情報番組戦争について下記記事も書いたのでこれも参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201220-00213417/

『モーニングショー』vs『スッキリ』朝の情報番組の熾烈な闘いの行方

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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