Yahoo!ニュース

テレビ東京の尖った制作者が新たなチームを作ったことの意味とテレビ界の歴史的な転換

篠田博之月刊『創』編集長
「やりすぎ都市伝説」無観客ライブ配信イベント Cテレビ東京

 発売中の月刊『創』(つくる)1月号は、特集が「テレビ局の徹底研究」。もう30年ほど、毎年、テレビキー局を取材・報告するという定点観測を続けてきたのだが、今年は、そのテレビ界が歴史的転回点を迎えていることをいろいろな局面で痛感した。テレビは長い間、最も影響力の大きいメディアだったのだが、これまでと大きく異なる枠組みへ至る、2020年はその元年ではないかと思う。

 コロナ禍の影響もあって、テレビのコンテンツをネットで見るという習慣が加速した。テレビ局側もその流れは受け止めており、NHK、続いて日本テレビが、番組のリアル配信を始めた。まだ実験的とはいえ、その流れは今後加速するのは間違いない。

 2020年のコロナ禍の影響はと言えば、4~6月は家にいる時間が増えたためにテレビを見る人が増えたと言われる。テレビを見ている総数が前年まで右肩下がりだったのが、久々に上向いた。でも秋以降、それは再び下がっていったという。日本テレビの田中宏史編成部長が『創』の取材にこう語っている。

「4月以降は視聴者の方々がテレビを見る時間が増えたと思いますが、新たな視聴者を獲得したわけでなかったのではと考えております。それともうひとつ、家庭でオンライン化が進み、テレビの結線率も上がり、配信などを見る機会も増えていったのではと考えております」

 TBSの福士洋通編成部長もこう語っている。

「最近は昔ほどザッピングして同時間帯のいろいろな番組を見比べるという習慣がなくなってきている印象があります。娯楽の選択肢が増えたため、コンテンツに魅力がないとあっという間に視聴者がネットの動画配信などへ離れていってしまう」

 同時間帯でどの局が1位かといった視聴率競争がこれまでテレビ界では続いてきたのだが、今起きているのは、もっと大きな競争相手が出現しているという事実のようだ。

 そうした現実をテレビ局自身が実感し始めたというのが、2020年に起きていることと言えよう。

テレビ東京のとがった制作者が集まった新集団

 2020年4月、テレビ東京にクリエイティブビジネス制作チームという異色の部署が発足した。チームと言っても通常の○○部にあたる制作局の1部署で、部長は『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』『モヤモヤさまぁ~ず2』のプロデューサーである伊藤隆行さんだ。いったいテレビ東京は何を狙っているのか。伊藤部長に話を聞いた。

「きっさき鋭い番組を作ってきた面白いメンバーが私のほかに9人集まりました。多くはバラエティの人間ですが、ドラマや音楽の仕事をしてきた者もいます。クリエイティブビジネス制作チームという〝ビジネス”という言葉がついていることでわかるように、新しいビジネスを考えようという部署です。

 この1~2年、配信というビジネスがテレビ界で大きな注目を浴びてきました。さらに2020年はコロナ禍によってライブ配信が盛んになっています。私たちはテレビの制作という仕事から得た知見を活かして、作れる場所で作れるものを、様々なパートナーと組んで作っていこうというチームです。テレビ局の制作という仕事からはみ出たものをやっていこうということですね」

 伊藤さんは既に手掛けつつあるいろいろなビジネスの事例を話してくれたのだが、紙幅の都合で割愛する。興味ある人は『創』の原文をご覧いただきたいが、伊藤さんの話をもう少し続けよう。

「単に放送番組を作るだけでなく、新たな形でマネタイズしていく。局内でも我々は組織に横ぐしを刺す、企画は出しますが、収益はいろいろな部署で得てもらう、という仕組みです。縦割りを排して組織の垣根を超えていくということですね。場合によっては我々制作者が直接スポンサーにプレゼンすることもあります」

「今テレビをめぐるデバイスが変わりつつあって、例えば若い人は番組をスマホで見る。そうだとしたらその新しいデバイスに我々が出て行ってコンテンツを作っていこう。テレビはそういう時代に入りつつあるんじゃないですか。もちろん地上波の番組づくりが基本なんですが、我々が今やっているようなことが将来、テレビ界で当たり前になっていくような気がします」(同)

 テレビをめぐる環境の変化を背景にしているのだろうが、配信と絡めたこうした取り組みが「将来、テレビ界で当たり前になっていく」という指摘は重要だろう。

日本テレビのライブ配信の貴重な実験

 NHKのネットとの同時配信もテレビ界の大きな関心事だが、この10月から日本テレビが放送番組のネットへのライブ配信を実験的に始めたというのも大きな関心を呼んでいる。これについては日本テレビICT戦略本部配信事業ディビジョンの中西亮太さんに話を聞いた。

「現在、夜7時から12時、1時頃までの番組をライブ配信しています。一部対象外となる番組はありますが『世界の果てまでイッテQ!』『月曜から夜ふかし』『有吉の壁』などのバラエティーや『35歳の少女』『#リモラブ』などのドラマを、合計32番組ライブ配信しています」

 ドラマなどの見逃し配信は以前から行っていたが、10月以降は番組終了後でなく、リアルタイムでネットでも見れるようになったわけだ。ただ現状ではリアルタイムは圧倒的にテレビ受像機で見ている人が多いという。しかし、その時間に在宅していなくても見られるわけだから、今後、視聴習慣に影響を及ぼしていく可能性はある。

 今回の3カ月はあくまでも実験ということで、CMは全て番宣PRに変えているという。ライブ配信でCMをどうするかというのも民放にとっては大きな問題だ。

「若い人を中心に、ネットで動画コンテンツを見る習慣が広がっており、そのマーケット状況にあわせると同時に、テレビの利便性を高め、テレビをもっと有効に使ってもらおう、という狙いがあります。これまでも箱根駅伝など一部については地上波同時のライブ配信を行っていたのですが、今回はニュース番組を含めて夜の大半の番組をライブ配信しているわけです。そこでのCMをはじめとしたマネタイズをどう行っていくかとか、そこでの収益をどう配分していくかという問題は、今後の検討課題です。

 またHuluでの見逃し配信についてもこの10月から『news zero』 などのニュース番組を除いて32番組のほとんどを流すというように大幅に拡充しました」(中西さん)

 現在でも見逃し配信には地上波と別のCMを流すなど、ネット配信については様々な試みがなされているのだが、地上波ライブ配信の本格化に向けては様々な課題も控えている。

「ライブ配信については現在、放送はできるが配信はできないといった素材もあるため、放送用と配信用と2つの番組を作っています。現状ではかなり負担が増えているのですが、今後は放送したものをそのままライブ配信できるように、番組の作り方を変えていく必要があると考えています」(同)

 地上波と配信などの連動は、地上波ライブ配信が拡大するとさらに重層的になることが予想される。テレビをめぐる環境の変化は、今後、劇的に加速することになるのかもしれない。

 NHKについては特集の中で、NHKプラスを中心に矢部典男・編成センター長に話を聞いた。現状では新しい視聴者開拓のためにNHKプラスは活用されているのだが、この取り組みも重要な意味を持っていることは矢部センター長の話からもわかる。

 テレビが大きな曲がり角を迎えたなかで、今後、各局ともにどんな施策を繰り出していくのか、要注目だ。

『創』1月号のテレビ特集の内容は下記をご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp/

 またその内容の一部をヤフーニュース以下の記事で紹介したのでご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201220-00213417/

『モーニングショー』vs『スッキリ』朝の情報番組の熾烈な闘いの行方

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201224-00214296/

大晦日夜にTBSが勝負を賭ける『せっかくグルメ』!躍進の秘密を制作者に聞いた

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事