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紅白歌合戦の視聴率ワースト3位の衝撃と日本テレビの三冠王獲得

篠田博之月刊『創』編集長
1月3日付スポーツ紙(筆者撮影)

 2018年1月3日付のスポーツ紙には「紅白40%割れ」(スポーツ報知)「安室でも39・4%」(日刊スポーツ)などの見出しが躍った。当初は出演を辞退していた安室奈美恵を何とか口説き落とし、様々なニュース性ある話題を盛り込んで2017年末の紅白歌合戦は盤石と言われていたのだが、ふたをあけてみると安室出演で盛り上がったはずの第2部の視聴率が39・4%(関東地区/ビデオリサーチ調べ、以下同)。この数字は何と歴代ワースト3位だという。関係者は相当なショックを受けたに違いない。スポーツ紙が大きな見出しで報じたように、これはテレビ・芸能関係者にとっても衝撃だったはずだ。

 当然、いろいろな分析がなされている。まずは裏番組が健闘したこと、特にテレビ東京「年忘れにっぽんの歌」が8・4%と予想外の健闘だったなど、様々な事情が指摘されている。いや、もっと大きな背景があると分析しているのはスポーツ報知の解説記事「ネットTVなど番組選択多様化要因」だ。つまり地上波における裏番組だけでなく、インターネットテレビAbemaTVの健闘、スカパー!やケーブルテレビ「MBC歌謡大祭典」など、視聴者の選択肢が大きく広がったという指摘だ。

 そもそも紅白歌合戦は、従来のテレビの象徴的な番組だ。茶の間にテレビ受像機が置かれ、家族全員がそれを見るというのがかつての日本の家庭像で、テレビはそれに適した装置だった。その後、高度成長期を過ぎて、家族それぞれの部屋にテレビが置かれて、親と子が別な番組を見るという時代が到来し、今はさらに進んで、若い人はテレビ受像機でなく、ネットでテレビのコンテンツを見るようになった。そうした時代の変化にもかかわらず、古き良き時代の名残を残しているのが紅白歌合戦だ。老若男女、様々な支持を受けた歌手が一堂に会するという番組は、まさにかつての家族全員が見ていた時代のテレビを象徴するものだ。

 だから、その番組が予想に反して数字を落としたのは、時代の流れというほかない。特にこの1~2年、配信ビジネスが拡大して、若い人の間にテレビ番組をネットで見るという習慣が拡大しつつあることは大きな要因だろう。現在の視聴率は、あくまでもリアルタイムにテレビ受像機を通して見ていた人をカウントする。この1~2年、録画視聴率も公表されるようになったが、広告収入につながる視聴率というシステムがリアルタイム視聴を前提としているテレビの構造がある限り、リアル視聴が原則だ。ただ現実には、総世帯視聴率(HUT)が年々落ちている、つまり「テレビ離れ」と言われる現象が進行し、深刻な影響をもたらしつつある。テレビ界はいま、戦後なかったような「構造的変化」に見舞われているのだ。

 紅白視聴率ワースト3位の衝撃的なニュースの前日、2日には、日本テレビが2017年も視聴率三冠王を達成したことが報じられた。4年連続の視聴率三冠王で、同局の独走態勢は揺らぎそうもない。週末、特に日曜夕方からのバラエティが鉄壁であることは知られているが、この1年ほどは月曜の夜も日テレが鉄壁になりつつある。実は月曜夜というのは、従来、「月9」「SMAP×SMAP」というフジテレビの鉄板番組が並んでいたのだが、それが低迷ないし終了したその跡に日テレが進出した。フジが落ちて日テレの優位が強化されるという民放の現状を象徴する変化が月曜夜に起きていたわけだ。これも構造的変化に関わることで、フジテレビがターゲットとしていた若い人たちが、まさに「テレビ離れ」でネットにシフトしている層と最も重なっている。月曜夜のフジから日テレへの勢力変動もテレビを取り巻く環境変化とおおいに関わっているわけだ。

 今テレビ界は大きな構造的変化に襲われている。発売中の月刊『創』2018年1月号の特集「テレビ局の徹底研究」では、そういう構造的変化にフジテレビや日本テレビを始め、各局がどう対応しようとしているかをレポートした。そしてさきほど、その特集の中から日本テレビに関する記事をヤフーニュース雑誌に公開した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180104-00010000-tsukuru-soci

 その記事中でTBSドラマ『陸王』の快走に対して日本テレビの加藤幸二郎制作局長がこう語っているのが印象的だ。

「『陸王』は私も見ていますが面白いですね。もちろん日本テレビも手をこまねいているだけでなく、いろいろな工夫をこらしています。もともとテレビはお祭りですから、それぞれが刺激しあって、全体としてテレビを見る人たちが増えていくようになればいいと思います。昔はもっぱら他局との競争でしたが、今はへたをすると若い人たちがテレビそのものを見なくなってしまう恐れがある。そんな時代ですから」

 局同士の闘いというより、若い人たちがテレビそのものを見なくなっている、それが大きな問題だというのだ。今回のNHKの紅白歌合戦の視聴率低下もテレビ界を覆う構造的変化が端的に現れた例として見ておかなければならないと思う。

 前述したようにこの年末年始、テレビ東京は話題の番組を特番体制で連日編成し、攻勢をかけた。特に1月2日に放送された「池の水ぜんぶ抜く」3時間スペシャルは平均視聴率13・5%という健闘ぶりだった。まだ全日視聴率では他局に大きく離されてはいるが、同局のこのところの健闘ぶりも特筆すべきものといえる。『創』1月号の特集のうちテレビ東京についての記事もヤフーニュース雑誌に公開している。興味ある人はアクセスしてほしい。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171226-00010000-tsukuru-soci

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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