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タイガー・ウッズの元コーチが韓国女子ゴルファーに「問題発言」…その背景にあるものとは

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
問題発言を批判したミシェル・ウィー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

日本の比嘉真美子が初日にロケットスタートを決めるなど、注目が集まっている「全米女子オープン」。全世界のゴルフファンが行方を見守るなか、韓国ではフェアウェイ外の“騒動”が議論を呼んでいる。

タイガー・ウッズの元コーチでもあるハンク・ヘイニー氏が、韓国女子ゴルファーたちを蔑視するような発言をしたのだ。

現地時間の5月29日、ラジオ放送に出演したハンク・ヘイニー氏は、全米女子オープンで「韓国人選手が優勝する」と予想した。たがヘイニー氏は、女子ゴルフに関心がなさそうな態度を示しながら、「誰かはわからない。いや、言うことができる。名字だけは言うことができる。イ氏だ」と述べた。

この発言には、韓国人選手たちは名前が似ているという嘲弄が込められているようだった。

たしかに同姓同名は多いが…

実際に韓国人選手の名字は「イ」が多く、今シーズンから米国女子ツアーに進出したイ・ジョンウンの登録名は「イ・ジョンウン6」と数字がついている。

ヘイニーの発言を受けた司会者も「名前が同じで番号をつけている」などと続けた。するとヘイニーは、「そうだ。だから私は優勝候補4人を選ぶなら、イ氏を選んだ」などと発言した。

そんな発言に真っ先に怒りの声を上げたのは、ミシェル・ウィーだ。

彼女はツイッターに「ヘイニーの発言は多くの側面で私を失望させ、怒らせた。人種差別と性差別は笑えることではない。あなたの行動が恥ずかしい」と批判した。

周知の通りミシェル・ウィーは韓国系のアメリカ人であるだけに、この発言を看過できなかったのだろう

(参考記事:「実はあの美人プロもそうだった!!」世界で活躍する韓国系の女子ゴルファーたち

ミシェル・ウィーの問題提起によって、“女子ゴルフの伝説” アニカ・ソレンスタムらもヘイニー氏の発言を指摘。最終的にヘイニー氏はSNSを通じて謝罪している。出演していたラジオ番組からも一時降板を言い渡された。

その一連については船橋園子氏のコラムが詳しいのでここでは割愛させていただくが、今回の一件は皮肉にもアメリカ女子ツアーにおける韓国女子ゴルファーたちの存在感を逆説的に伝えた騒動だとも思えてくる。

(参考記事:差別発言でラジオ番組降板の「ウッズの元コーチ」の虚しい「今昔」。ウッズは「なるべくしてなった」)

アメリカ女子ツアーは“韓国女子プロゴルフ”が天下

アメリカ女子ツアーでは今年1月の開幕戦「ダイヤモンドリゾート トーナメントofチャンピオンズ」から先週の「ピュアシルク選手権」までの12大会で、実に6勝を韓国人ゴルファーがあげているからだ。

(参考記事:米国女子ツアーは“韓国女子プロゴルフ”が天下、なぜ?

アメリカ男子ツアーではアメリカ人選手が活躍しているが、女子ツアーでは明らかに韓国人選手が目立っている。

そんな背景があるため、韓国メディアの『ゴルフ韓国』は「ハンク・ヘイニーの発言から、多くの米国ゴルフファンの心理を読むことができるようだ。男子ツアーのようにアメリカの英雄たちが支配できないだけに、寂しさがあるのだろう」と解説した。

こちらもやや自意識過剰な分析とも言えなくもないが、ただ実際に、今回の全米女子オープンには156名の選手が出場しているが、そのうち韓国人選手は20名を超えているのも事実だ。アメリカ人選手56名に次ぐ人数であり、ヘイニー氏も「韓国人選手が優勝する」と予想しているほどなのだ。

いずれにしても、韓国ではヘイニー氏の不適切な発言を見返すためにも「ますます太極娘子(テグッナンジャ)たちの奮闘に期待したい」という論調が多いが、日没サスペンデッドとなった2日目を終えて韓国勢で上位にあるのは前出したイ・ジョンウン6。3アンダーで5位タイの位置につけている。

暫定首位を走る比嘉真美子に追いつくことができるか。注目しておきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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