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差別発言でラジオ番組降板の「ウッズの元コーチ」の虚しい「今昔」。ウッズは「なるべくしてなった」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2009年のウッズとヘイニー氏。あのころ2人はいつも一緒に勝利への道を歩んでいた(写真:ロイター/アフロ)

 タイガー・ウッズの元コーチ、ハンク・ヘイニー氏が差別発言によりラジオ番組から一時降板させられる事態になった。それを知ったウッズは「なるべくしてなった」と悲しげに言った。

 ヘイニー氏は63歳の米国人。これまでウッズやマーク・オメーラといったメジャーチャンピオンを含む200名以上の米ツアー選手たちの技術指導をしてきた有名ゴルフ・インストラクターだ。

 近年は米PGAツアー傘下のシリウスXMラジオのコメンテーターも務めていたのだが、5月29日(米国時間)の放送でアナウンサーとやり取りした際のヘイニー氏の発言が「きわめて人種差別的で女性蔑視でもある」と主として米LPGA(女子ツアー)選手たちから批判され、瞬く間に大騒動へ発展。

 翌30日(米国時間)、米PGAツアーとシリウスXMラジオが共同声明を出し、ヘイニー氏を番組から一時降板させ、今後の処遇を検討すると発表した。

【どんな発言だったのか?】

 問題となったのは、ヘイニー氏のどんな発言だったのか。

 アナウンサーから「今週は全米女子オープンですね」と投げかけられたヘイニー氏は「えっ、ホント?まあ、優勝は韓国人だと私は予想するよ」と答え、さらに言葉を続けた。

「LPGAの選手の名前は6人も挙げられないけど、リー(Lee)と言っておけば、ファーストネームを言わなくてもいい。たくさんいるからね」

 そこまで言ったあと、ヘイニー氏は「ところで全米女子オープンはどこでやるんだい?」とアナウンサーに尋ねた。

 ゴルフに詳しい専門コメンテーターという立場でありながら、女子のメジャー大会が今週開催されることを全く気にも留めていない様子で「えっ、ホント?」「どこでやるんだい?」と平気で聞き返したところが、「女子ゴルフを軽視し、蔑視している」と女子選手たちから激しく批判された。

 「リーと言っておけばいい」という発言は、米女子ゴルフで必死にプレーしている韓国人選手や韓国系米国人選手を「愚弄している」「国籍や人種による差別発言である」と激しく非難された。

 最初に批判の声を上げたのは韓国系米国人選手のミッシェル・ウィーだった。ウィーに続いて米LPGAの他選手たちも、関係者や一般ファンも次々に声を上げ、SNS上はヘイニー批判の嵐になった。

「ハンク・ヘイニーはレイシスト(人種差別主義者)でセクシスト(性差別主義者)だ」

【サスペンションは実質降板】

 事態を重く見た米PGAツアーとシリウスXMラジオは、共同声明を出し、ヘイニー氏を番組から一時降板(サスペンション=停職)とすることを30日に発表した。

 停職とは言え、差別発言により失墜した信頼を回復するには長い時間がかかることを考えれば、実質的には降板と考えていいだろう。

 

 米PGAツアーはダイバーシティを重んじ、ツアー運営のグローバルな展開を手掛けている真っ最中だ。米LPGAとの協力関係も強めつつある。そして、シリウスXMラジオは男女双方のツアーを中継しているため、ヘイニー氏の発言が受け入れがたいものであることは明らかだ。

 批判の嵐が起こった直後、慌てて謝罪コメントを出したヘイニー氏は、米PGAツアーとシリウスXMラジオから共同声明が出された後、「サスペンションを受け入れ、再度、お詫び申し上げます」と2度目の謝罪声明を出した。だが、もはや「覆水盆に返らず」だった。

【ウッズから離れていったあのとき】

 思い出されるのは、2009年暮れの交通事故に端を発したウッズの不倫騒動後、早々にヘイニー氏がウッズから去っていったときのことだ。

 真相が何ひとつ明かされていなかった中、いつもウッズの傍らに付いていたヘイニー氏が、いち早くコーチ職を自ら辞し、ウッズからすぐさま離れていった出来事は、彼らの姿をいつも間近で眺めていた私にとっても衝撃的だった。

 そしてヘイニー氏は、その直後、米メディアのインタビューに答え、こう語った。

「私が知っている唯一のこと。それは、タイガーがセックス中毒という問題を抱えていることだ」

 ウッズの専属コーチをすでに辞めた立場だったとはいえ、ヘイニー氏とウッズは2004年から2010年まで足かけ7年もともに歩み、6つのメジャーを含め、合計31勝をともに挙げてきた同志だった。

 巷に流れていたウッズのスランプ説をともに払拭し、見事な勝利を収めた2005年の全英オープンで、ヘイニー氏とウッズが固く抱き合った場面は人々の涙を誘った。

 その同志のことを、あまりにも冷たく言い放ったヘイニー氏の姿を目の当たりにして、虚しい気持ちになったことを今でもよく覚えている。

 だが、あのときは、まさか10年後にヘイニー氏が差別発言で批判にさらされ、番組降板になるなど想像すらしなかった。

 あの不倫騒動でコーチのヘイニー氏に去られ、スポンサーに見離され、相棒キャディにも去られたウッズが自業自得だったとすれば、ヘイニー氏の今回の出来事もヘイニー氏の自業自得と言わざるを得ない。

 今週、メモリアル・トーナメントに出場し、2日目のラウンドを終えたウッズは、米メディアからこの一件について尋ねられると、こう答えた。

「明らかに彼(ヘイニー氏)は(日頃から思っていたことを)そのまま意図的に口にした。(批判の嵐や番組降板は)なるべくしてなった」。自身の言動によって跳ね返ってきた当然の報いという意味だった。

 驕れるものは久しからず――。そんなフレーズが虚しく響く。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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