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人気チアドルにスター選手も支持。新大統領と韓国スポーツ界の“浅からぬ関係”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国の新大統領に決まった文在寅候補(写真:ロイター/アフロ)

大きな注目を集めた韓国の大統領選挙が終わった。今回の韓国大統領選挙は候補者の多くが“前科”持ちだったり、有力候補の親族たちのさまざまな問題が発覚するなど、結局はいつものように何かと騒がしかったが、大方の予想通り、文在寅(ムン・ジェイン)氏に決まった。

一時は支持率をアップさせた安哲秀(アン・チョルス)氏も、文在寅の勢いは止められなかったといったところだろうが、実は文在寅氏は韓国スポーツ界からも支持が高かった。

例えばプロ野球の釜山ロッテ・ジャイアンツの“応援女神”パク・キリャンである。

そのルックスと人柄の良さから、“韓国ナンバーワン・チアドル”とされるパク・キリャンは、早くから文在寅候補を指示。投票参加を促す広告や文在寅氏の遊説場所に参加し、得意のダンス・パフォーマンスで文氏の選挙活動を盛り上げた。

5月1日には大韓サッカー協会傘下の中学サッカー連盟会長や、プロ野球の元ロッテ・ジャイアンツの監督、ショートトラックスケート韓国代表としてソチ五輪で金メダルに輝いたチョ・ヘリなどが記者会見を開いて、「韓国の体育人の1万人が文候補の支持を約束した。その中には水泳のパク・テファンも含まれてる」と、文在寅氏の支持を表明していた。

パク・テファンと言えば、一時は“土下座スイマー”の汚名を着せられるも、もともとは国民的スポーツスター。そのパク・テファンが支持を表明しただけでもニュースだが、なぜ、韓国のスポーツ界は文氏の支持に回ったのか。

それは、今回の大統領選挙に至るそもそものキッカケとなった“崔順実(チェ・スンシル)ゲート”と呼ばれるスキャンダルが、韓国スポーツ界から始まったからでもあるだろう。

スキャンダルの震源地のひとつは、スポーツの所轄官庁である文化体育観光部にあっただけに、水泳のパク・テファン、フィギュアスケートのキム・ヨナなど、韓国スポーツ界の多くのスーパースターたちに、火の粉がふりかかった。新体操の妖精ソン・ヨンジェなどはあらゆる誹謗中傷を浴びせられたほどである。

(参考記事:キム・ヨナもパク・テファンも…政治スキャンダルに巻き込まれた韓国スポーツの“悲劇”)

そうした煮え湯を飲まされた韓国スポーツ界にとって、事件追求と朴槿恵前大統領弾劾の先頭に立ってきた文在寅氏は頼れる人物だった。

文氏は大統領公約として、崔順実ゲートに関連する特別調査委員会を設置することを掲げていたが、「最もクリーンでなければスポーツ界が権力と私益追求の手段となり、後ろ指を刺されている現実をきれいさっぱり清算してくれる人物」として支持を集めたのが、文氏だったわけだ。

ただ、新統領が解決しなければならない問題は山積みだ。国内政治、経済問題、外交問題などは言うに及ばず、韓国スポーツ界を見渡しても解決せねばならぬ問題は多い。

例えば、崔順実容疑者の娘チャン・ユラが名門・梨花(イファ)女子大に不正入学していたことで明らかになった、韓国大学スポーツ界に蔓延していた不正の数々だ。

(参考記事:かつての日本と似て異なる!? 韓国スポーツ特待生システムの驚愕功罪の数々)

かつての日本にも韓国に近い不正がはびこっていたが、韓国スポーツが強くなった背景には、兵役免除や生涯年金制度といったメダリストなどに対する手厚い褒賞や、スポーツ特待生制度があっただけに、その柱の一つが大きく揺れることになった今、新政権がどのような対策を打ち出すかには注目が集まるところだろう。

また、開幕まで1年を切った平昌(ピョンチャン)冬季五輪へのアプローチも注目だ。

今年2月から4月にかけて大小さまざまテスト大会が行われたが、今ひとつ盛り上がりに欠けているだけに、政府レベルで何からの打開策が必要な時期にあることは明らかなのだ。

(参考記事:平昌五輪まであと1年。熱気が冷めた“根本的な原因”はどこにあるのか)

はたして、新大統領を中心とする新政権は韓国スポーツ界が直面する諸問題をどう解決していくのだろう。

ちなみに韓国の歴代大統領は、意外にもスポーツと浅かなぬ関係にあった。

初代大統領の李承晩(イ・スンマン)大統領(1948~1960年)はテコンドーや釣りが好きで、1963年から1979年に暗殺されるまで政権の座にあった朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は、ボクシング好きだったと言われる。

軍事クーデタ―で政権の座についた全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(1980~1988年)は大のスポーツ好きで、韓国プロ野球やKリーグは全斗煥大統領の後押しで誕生した。

1988年ソウル五輪時に大統領を務めた盧泰愚(ノ・テウ)大統領(1988~1993年)はテニスがうまく、廬武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(2003~2008年)はボウリングが得意だったが、文在寅氏は大の野球好きで有名だ。

新統領は政治的混乱が続いた韓国の“救援投手”になれるか。注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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