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『4バック』はダメ!? 森保ジャパンに足りない言葉の力とは?

清水英斗サッカーライター
日本代表対メキシコ代表の試合に臨む、森保一監督(写真:ロイター/アフロ)

11月の親善試合について、パナマ戦は南野拓実のゴールで1-0と勝利した一方、メキシコには0-2で敗れた。メキシコ戦は前半好調も、後半は劣勢で、南野や橋本拳人、久保建英らを投入するも不発に終わった。その采配、相手の変化に応じた対応力には疑問が生じており、森保一監督の手腕を問う声、解任を求める声が高まっている。

もっとも、この敗戦以前から、森保監督にはあまり人気が無かった。それはYahoo!のアンケート等でも如実に出ている。とはいえ、コートジボワールやパナマには1-0で勝利しており、メキシコは強豪国なので元々簡単な相手ではない。公式大会で言えば、2019年アジアカップは準優勝、ワールドカップ2次予選も全勝中と、実は結果だけを見れば、それほど悪くはない。

にもかかわらず、なぜ、これほど支持を得られないのか。

一つの要素として、『監督の言葉』を考えてみよう。前回の戦術修正力のインタビューに続き、今回もドイツと日本の両方でライセンスを取り、両国のクラブで指導者を務めてきた、片山博義氏に話を聞いた。

期待を抱かせる言葉が欲しい

――森保監督の不人気は、試合内容の不満も大きいが、他の要因として「言葉がつまらない」「メッセージが弱い」というのもある。監督目線でどう思うか?

片山  正直、周りがチームの未来を想像して、面白味のある理解をしてくれるのが一番いい。ただ、想像するにも本人の言葉は足りない。ファンにどんな気持ちで試合に足を運んでもらうのか、私が監督をする場合も考える。展望を面白く伝え、想像を超える何かについて、ファンに期待を抱かせたい。

――片山さんは、どんなふうに展望を伝えた?

片山  私の場合は、『99%攻撃サッカー』。一つ質問だが、相手のボールを奪い取る行為は、守備だと思うか?

――考え方によっては攻撃。

片山  そう。守備というのは唯一、自分のゴールに入れさせないことが守備。私は攻撃と守備を分けず、ボールを奪い取るのも攻撃だと伝えてきた。ボールを奪い取り、ボールを動かして攻める。だから、うちは99%攻撃サッカー。そういう言い方をすれば、選手もアグレッシブにボールを奪いに行く。

――なるほど。どんなチーム像なのか、イメージがわいた。

片山  具体的すぎても良くない。全部言いすぎると、受け取る側も面白くないから。

――たしかに隙間というか、余白が残されたほうが、語り甲斐はある。その点で言うと、オシムは絶妙だった。あまり細かいことは言わなかったが、展望はダイナミックに描く。すごくファンに期待を抱かせた。

片山  まさしくそう。「ライオンに追われたウサギが肉離れをしますか?」とか、言葉のチョイスも監督の遊び心。ただ、外国人の監督なら許されるが、日本人の監督が言うと許されない風潮もある。私がFC KAGOSHIMA(鹿児島ユナイテッドの前身クラブの一つ)で監督を務めたとき、「リーグ優勝して昇格を目指すという目標についてどう考えていますか?」と記者に聞かれたが、私は「負けることを考えて試合をする監督がいますか?」と逆に投げかけた。すると、「あいつは挑発的だ」と言われ、さらにドイツでも日本でもアンダー世代しか指揮していない奴が社会人チームで何が出来るんだと、色々爆発した。

――そういうコミュニケーションに慣れていない日本人が、「挑発的」と受け取る気持ちはわからなくもない。ただ、おそらく外国人監督なら許容されたはず。自分に近い人ほど、不寛容なところはある。

片山  もう少し簡単に受け取ってもらえたらと思う。ディスカッションを楽しみたい。メッセージが曲がって捉えられることがなければ、監督も自由に発信しやすいが、現実はそうではない。だから森保さんも、本音と建前を作っているのでは。監督だけではなく、選手の言葉も同じ。周囲が寛容になって、率直なコミュニケーションを取れれば、絶対に面白くなるし、もっと成長できるはず。言葉は大事だから。

『4バック』ではないドイツ

片山  言葉のイメージというか、言葉とサッカーの連動性をもっと上げたい。たとえば、ドイツのサッカーには、4バックを意味する『4er Kette』(フィアナ・ケッテ)という言葉がある。Ketteはドイツ語で鎖。4人が鎖でつながれているから、誰かが動けば引っ張られる。中央が1人出れば、外が絞ってくる。そういう関係が自然とできるのが、『4er Kette』。

――なるほど。『4バック』以上のニュアンス、単なる立ち位置以上のニュアンスが加味されている。

片山  そういう言葉や文化が、サッカーに与える影響は大きい。私が日本で指導するときは、この言葉が使えないので、ボールを持たないときは鎖、ボールを持っているときは伸び縮みするゴム、というイメージを持たせている。

――そういうイメージこそ、突発的な状況で身体を動かすとき、すごく大事かもしれない。不安定なときとか、相手のやり方に戸惑ったときとか。

片山  その他には、『Spitze』(シュピッツェ)は尖った先端という意味で、1トップを指して呼ぶ。尖ったもので相手ディフェンスの穴を刺すという意味で、つまり、そのくらいの勢いで飛び出せということ。4-2-3-1の先端が尖ったイメージでプレーするのと、平らなイメージでプレーするのは、2列目が入っていく間など、様々な違いがある。

――日本で言うと、浅野拓磨はシュピッツェっぽい。森保監督もシュピッツェ起用は好きだと思う。

片山  あとはスライド。これも「スライド!」と言うと、横に動くだけ。ドイツでは『verschieben』(フェアシーベン)と言う。直訳すると、動かす、ずらす、という意味だが、イメージとしては車のフロントガラスに付いた水滴を、ワイパーで一気にかき出す感じ。それくらいの勢いを持って動かすのが、フェアシーベンだから、スライドよりも強く、ボールを奪い取るパワーが出る。動かされる感じではない。

――なるほど。そういえば昔、ブラジルのサッカー用語で、ラドロンというのも聞いた。直訳すると、泥棒。味方が背中から寄せられたとき、英語では「Man on!」(マノン)と言うし、日本でも知られている。ところが、ブラジルでは「ラドロン」。泥棒が奪いに来たぞ! 盗まれるな!ということ。もう、反射的に身体が動く。

片山  なるほどね。それが言葉の文化だよ。すごく大切だ。

――サッカー用語の丸輸入だと、こうやって感覚に響いて無意識のアクションを促すようなニュアンスが無かったりする。そこはやはり、母国語ならでは。元ベガルタ仙台の渡邉晋監督も、指導に使う言葉はできるだけ日本語で定義すると言っていた。もっと広まると面白い。スライドも「集合!」とか言ったほうが、日本人は反射的に集結するかも。

片山  日本には漢字もひらがなも、カタカナもある。言葉をもっと使いこなすべきだ。今までにあったものとは違うかもしれないが、前向きに捉えて欲しい。先程の話にも通じるが、監督が本音を言いやすい環境があれば、そんなことがどんどん出てくると思う。

――いいですね。今回、すごく大事なことを話した気がする。

→第1回インタビュー 森保ジャパンの戦術修正力を問う

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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