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鉄板化した日本対策。森保ジャパンはチームスポーツをプレーしていない。

清水英斗サッカーライター
森保一監督(写真はU-22コロンビア戦より)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

AFC・U-23選手権のグループステージ第2戦、U-23シリアと対戦したU-23日本は、1-2で敗れた。サウジアラビア戦に続く連敗を喫した日本は、早々と大会から姿を消した。

シリアは日本戦に際し、布陣を変更してきた。カタールとの第1戦では[4-4-2]を敷いたが、日本戦では2トップから1トップに変え、[4-2-3-1]を採用している。9番FWアブドゥルラフマン・バラカトを1トップ、その下に8番MFアブドゥルカデル・アディを置き、中盤の厚みを高めた。さらに守備時は両ウイングが下がり、[6-3-1]になる傾向も強い。

当然、シリアとしては前からプレッシャーをかけづらい形だ。しかし、それで構わないのだろう。引いてスペースを埋めれば、日本は攻め切る形を持たないのだから。他方、引くことでお尻は重くなるが、日本はロングカウンターに脆弱であるため、問題はない。日本対策は攻守一貫で成立している。この構図はサウジアラビア戦も同様だった。

半年後の東京五輪は、酷暑と過密日程の中で行われる。今大会と同じく、森保ジャパンはボールポゼッションを基本とした戦略で臨むだろう。しかし、その場合は改めて痛感した「攻め切れない問題」と「脆弱な被カウンター問題」を避けては通れない。

どう解決するか。

ひとまず、攻め切れない問題は忘れてもいい。所属のブレーメンが実質的に「GO」を出したことでオーバーエイジ招集が濃厚となった大迫勇也、さらに堂安律や久保建英、三好康児、前田大然といったU-23欧州組が加われば、編成はがらりと変わる。フィニッシュに至る流れは、個のクオリティー向上による劇的な変化を期待してもいいだろう。

ただし、被カウンターはそうもいかない。A代表で活躍する冨安健洋、オーバーエイジで選出される残り2名は大きな助けになるが、それでも守備の全ポジションをカバーできるわけではない。また、攻→守の切り替えに関わる人数は多い。攻撃の終わり方を含め、グループ+チームで解決する必要がある。

まずはチーム戦術として、攻守の切り替えに準備すること。それを突破されたら、撤退したDFがグループ戦術で守り切ること。これらを改善しなければ、東京五輪本番も、今大会と同じように敗退する。

前者について、たとえばシリア戦では後半44分に中央ゴリ押しの団子サッカーから、まんまとロングカウンターを食らい、決勝点を許した。バランスの悪い団子攻めは、何もこの場面に限ったものではない。もっと言えば、このチームだけのものでもなく、様々な日本代表が繰り返してきた悪癖でもある。

そして、攻→守に切り替わったとき、ボールを奪い返すのか、撤退してブロックを作るのか、意志が統一されていない場面が多いのは、前回の記事でも書いた通りだ。攻守の切り替えに準備することは、3月以降にベストメンバーを組んだとき、攻撃の課題と共に、チームとして改めて改善しなければならない。

グループ戦術の問題

一方、現時点で最も気になるのは、後者の問題である。つまり、撤退したDFがグループで守り切れていないことだ。11月のU-22コロンビア戦、今大会のU-23サウジアラビア戦、U-23シリア戦など、五輪代表は撤退しながらの守備では、常に問題を抱え、失点を重ねてきた。

たとえばコロンビア戦の後半14分、日本はカウンターを食らい、数的不利で対応することになった。ドリブルには立田悠悟が対応したが、外へ流れて行く相手FWを板倉滉がマンツーマンで深追いしたことでスペースが空き、最後はフリーのラミレスにゴールを許した。

コロンビア戦に比べると、サウジアラビア戦の失点はもっと簡単な場面だった。しかし、後半3分にドリブルで侵入してきた7番MFアブドゥルラフマン・ガリーブに田中駿汰が振り切られると、岡崎慎が対応するも止められず、最後は10番MFアイマン・アルクライフにゴールを許した。

そしてシリア戦、後半44分のカウンター場面では、21番FWアハマド・ダリのロングドリブルに対し、岡崎が背後からひたすら追いかけるだけで、町田浩樹のカバーはなく、簡単に侵入されて失点した。

いずれの場面も、問題の根っこは同じだ。すべてを個人で対応しすぎている。グループで守る意識がない。

サウジアラビア戦の場面で言えば、岡崎はもっと早く前に出て、ガリーブの勢いを止めることが出来た。右DFの渡辺剛は、外へ流れる相手の動きに釣られず、身体は中へ向いている。左DFの古賀太陽もいる。チャレンジ&カバーは可能だ。グループで守る意識があれば、岡崎は背後を恐れず、田中駿が前に入られた時点で、もっと早く突っ込めたはず。PKを与えるか与えないか、そんなギリギリの場所ではなく、もっと前で。

一方、シリア戦ではFWダリの独走を、岡崎が1人ぼっちで追いかけるだけだった。日本のゴールに対し、誰がより大きな脅威を与えているか。それは明らかにFWダリだ。しかし、町田は自分のマークが気になったのか、カバーに行かなかった。

グループで守る意識があれば、町田は自分が動いたスペースは、横パスが出されている間に味方がカバーする感覚を持てるはず。その場合、中間ポジションである程度ディレイした後、ボールに寄せることになるだろう。しかし、すべてを個人、すべてを1対1で解決しようとするため、状況が動かない。

問題は個人ではない。むしろ、個人でどうにかしようとしすぎることが、致命的な問題になっている。それは攻守ともに見られる問題だが、特に撤退しながらの守備については、最初から相手優位の状況であるため、個人で解決しようとするU-23日本の欠点が露骨に出ている。

A代表のベネズエラ戦を1-4で落とした後、森保監督は「世界のアタッカーを自由にしてはいけない」「アグレッシブに寄せなければいけない」と、振り返った。

しかし、アグレッシブな守備とは、自分の後に2人目、3人目の味方がついて来る感覚があってこそ成り立つものだ。「アグレッシブに行け」と言われても、抜かれた責任を自分一人で負わされるのなら、どうしても出足は鈍くなる。岡崎や町田の出足の鈍さも、そもそもはグループで守る意識の希薄さから、問題が始まっているのではないか。

選手の責任は大きい。チーム戦術に関わる部分はともかく、自分と隣り合う選手との関係性によるグループ戦術は、基本的に選手間で解決しなければならない。そんなことまで一から教える暇は、代表チームにはないからだ。また、そういう構造のチームにしてしまったことについて、森保監督の責任は大きい。チーム戦術はともかく、グループとして守る意識さえ希薄になっているのは、発掘・競争のフェーズとしても問題がある。

これらの現状を踏まえると、大迫以外のオーバーエイジには発信力、戦術改善力のあるディフェンスリーダーが必要不可欠だ。第一候補は、ロンドン五輪でもオーバーエイジとしてチームを改善した実績がある吉田麻也か。あるいは昌子源も有力だろう。とはいえ、選択肢は多くない。

まだまだ、金メダルへの道が潰えたとは思わない。しかし、このU-23選手権を経て、オーバーエイジや欧州組に求められる要素が増えたのは確かだ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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