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広州恒大を破り、決勝進出。ACLでは絶好調の浦和が、なぜJリーグで低位に沈むのか?

清水英斗サッカーライター
浦和GK西川周作(写真は準々決勝、上海上港戦)(写真:松尾/アフロスポーツ)

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝・第2戦は、浦和がアウェーで広州恒大を1-0で破り、合計スコア3-0で決勝進出を果たした。

まさに浦和の戦略通りの試合だった。浦和はホームで行われた第1戦で、広州恒大にアウェーゴールを許さず、2-0で勝利を収めていた。このアドバンテージを活かし、第2戦はできる限り、0-0で手堅く推移させつつ、相手が焦ってバランスを崩したすきに、狡猾に1点を奪って試合を決める。

そんな筋書き通りにサッカーが進むのは、むしろ珍しいことかもしれないが、この試合はそうだった。

まず、浦和は前半を0-0で締めることに成功した。そして後半5分、相手の自陣内でのパスミスを突いて、ボールを右サイドへ展開すると、最後は橋岡大樹のクロスから興梠慎三がヘディングシュート。まさに手堅い展開から、相手のすきをシンプルに突き、先制ゴールを奪った。

この1点により、仮に広州恒大が3点を取り返して合計スコアが3-3になっても、アウェーゴール差で浦和が上回ることになる。広州恒大としては4点が必要になってしまう状況であり、しかも、すでに後半。興梠のゴールは、浦和の勝ち抜けを決定的なものにした。

描いた通りの試合運びを実践し、浦和の選手には大きな手応えがあっただろう。興梠のゴールも素晴らしかったが、何よりも大切だったのは、前半を0-0で折り返した守備だ。

アンデルソン・タリスカには何度か危険な場面を作られたが、浦和はいざとなればペナルティーエリア内に引き下がり、ゴール前をがっちり固めた。シュートを打たれたとしても、対人の守備で粘り強くプレッシャーをかけ、窮屈なフィニッシュを強いている。そして、その守備に連動し、GK西川周作もコースを限定しながら、安定したセービングを披露した。浦和はチームとして、スーパーゴール以外は許さない、という守備を実践できていた。

また、浦和の粘り強い守備が機能した要因として、広州恒大の攻撃が“遅かった”ことも挙げられる。たしかに外国人選手たち、特にタリスカの個の力は驚異的だったが、チームとしてボール回しのテンポが遅く、連動性がない。外国人選手にボールを預けて、「せーの」で仕掛けてくる間に、浦和にはポジションを整える時間が十分に与えられる。一言で言えば、広州恒大の攻撃は、遅くてパワフルだった。

この戦術傾向は、Jリーグとは異なる。浦和は今季J1で、現在12位と苦戦を強いられ、特にポゼッションの優れたチームに内容でも上回られる試合が目立つ。ポジションのすき間でパスをつながれ、そのテンポが早いため、浦和がスライド、プレスバックして守備ブロックを整える前に、攻め切られてしまう。相手を捕まえられなければ、浦和の持ち味である対人の強さが出ない。

特に今季のJ1は、細かくてスピーディなポゼッションを意図的に仕掛けるチームが増えた。その戦術志向の中で、浦和が苦戦している印象だ。前節の大分戦の前半は、まさに典型的な内容だった。

なぜ、ACLで健闘中の浦和が、国内のリーグ戦では今ひとつ結果が出ないのか? 

その理由はもちろん、過密日程や、部分的ターンオーバーによる連係の低下なども挙げられるが、見逃せないのは、ACLとJリーグにおける戦術の違いだ。浦和が「奇妙なクラブ」(大槻毅監督)というよりは、ACLとJリーグに奇妙なギャップがある。

遅くてパワフルな攻めと、細かくてスピーディな攻め。

浦和は前者には対抗できている。球際に強いDFが多く、特にこの試合の鈴木大輔は出色のパフォーマンスだった。GK西川も素晴らしい。ACLを勝ち抜くためには、それが何より重要なポイントだ。

また、広州恒大は、Jリーグでは浦和の泣き所となる中盤のすき間を使う攻撃が少ない。縦パスを入れてから「せーの」で仕掛けてくるか、サイドからクロスを放り込んでくるか、あるいはロングボールに単騎で飛び出すだけ。広州恒大は優れたパスを1本通しても、連動によるスピードアップに乏しいため、浦和の守備は再び人数をかけ、守備機会を何度も作ることができた。それが粘り強い守備につながっている。

一方、J1チームはオフザボールの駆け引きが巧妙だ。すき間にポジションを取ってDFを釣り出し、その瞬間に他の選手が裏へ飛び出すなど、連動してスピーディに崩すパターンを意図的に繰り出している。浦和がスライド、プレスバックして守備を整え直す時間も与えていない。そうやって、マンツーマンで守る意識が強い浦和を、速いコンビネーションで混乱させる戦術を持つチームが、特に昨今のJリーグは増えており、それが浦和の苦戦の一因になっている。

そうした流れを踏まえると、ACLの決勝にたどり着いたとはいえ、浦和の現状には楽観視ばかりもできない。また、決勝の相手は、浦和が優勝した2年前にも決勝で相まみえたサウジアラビアのアル・ヒラルだ。このチームは技巧派の選手が多く、足下でつなぐスピードも速い。第1戦でGK西川が出場停止となるのもかなりの痛手だが、戦術的にも、浦和は東アジアブロックとは異なる苦戦を強いられるかもしれない。さらにクラブワールドカップを見据えても、世界レベルの連係やスピードに対し、今のACL仕様だけでは苦しくなる。

スピーディに連動するレベルの高いポゼッション攻撃に、どう対抗するか。とはいえ、これからの浦和の日程は、特に過密を極めるため、空いた日はひたすら回復に費やされる。トレーニングで向上する時間はない。

J1の実戦の中で、この短期間にどこまで向上できるか。一方では優勝を、一方では残留を争う瀬戸際にいるチームが、先の成長を見据えることは難しいが、浦和にとって避けては通れない課題であるのも確かだ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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