Yahoo!ニュース

スアレスの妙技。解説者の言葉からひも解く、南米式デュエルの極意

清水英斗サッカーライター
スアレスと植田直通の競り合い(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪世代のU-22チームに、川島永嗣、植田直通、柴崎岳、中島翔哉、岡崎慎司の5人のオーバーエイジを加えて挑んだ、コパ・アメリカ。結果は2引き分け1敗でグループステージ敗退に終わった。

決定力不足は、真っ先に挙がる要因だ。日本は多くのチャンスを作りつつも、決められないか、シュートに持ち込めない場面が目立った。せっかくゴール前へ侵入しても、DFやGKに鋭く寄せられてブロックされるか、あるいは窮屈なシュートを強いられて枠を外すか。

これらは決定力不足というより、シュート技術不足、シュート戦術不足、と表現したほうが良いかもしれない。

中盤ではボールの動かし方、スピードなどでスペースを突き、突破することができる。しかし、ペナルティーエリアに入ってしまえば、もうスペースは無いのが当たり前。数的優位も無いのが当たり前。最後の最後、シュートを打つ瞬間だけは、DFとの1対1、GKとの1対1から逃げることができない。(相手ゴールががら空きになるほどのビッグチャンスを除けば)

抜いたり、かわしたりするための1対1ではなく、シュートコースを作るための1対1。しかし、そのコースが作れない。相手に素早く間合いを詰められ、身体を当てられ、万全の体勢でシュートが打てない。そして苦し紛れのシュートは、容赦なくブロックされるか、枠を外れるか。1対1でDFやGKを上回れないから、決定力を出せない。そんなことが、上田綺世を始め、多くの若い選手に起きていた。

日本は参加12チームの中で、グループステージのデュエル(1対1)の勝率が、41.3%で最下位だった。決定力を欠いたことと、デュエル勝率の低さ。これらは無関係ではないだろう。

いったい、何が違うのか。

川勝氏の解説では

1対1には身体を使う技術、パワー、敏捷性など、様々なエッセンスがあるが、第2戦のウルグアイ戦でDAZNの解説を務めた川勝良一氏の見方は、特に面白かった。

後半38分、ウルグアイは右サイドでカバーニがボールを持ち、中央を経由してゴール前にパスを入れてきた。しかし、これを柴崎がカット。そしてコントロールしようと足を出した瞬間……。

近くにいたスアレスが素早く近寄り、足を出し、柴崎の足と交錯して、スアレスは転んだ。その結果、逆に柴崎がファウルを取られ、ウルグアイに直接FKを与えてしまう。日本としては逆襲に出られそうな場面だったが、一転して再びピンチになった。

柴崎からすれば、自分のボールに足を出したところへ、スアレスが飛び出てきたわけで、納得がいかない様子で、審判に抗議していた。

この場面に対する、実況・西岡明彦氏、解説・川勝氏のコメントが面白い。

西岡氏「こういうのうまいですね。完全な柴崎のボールでしたが、足を出してファウルにしました、スアレス」

川勝「ボールには行かないで、出てくる足のほうに自分の足を出すとか、南米の選手が1対1をやるときはそういううまさがあるので。(スアレスは)ボールには全然行ってない」

西岡「ただ、見た目には(スアレスが)蹴られてファウルのように見えてしまう」

川勝「はい、そうですね。多少痛いですけどね」

サッカーの接触におけるファウル判定は、ボールに行っているか(行けているか)が基準の一つになる。だから、厳密に言えば、ボールではなく柴崎の足に当たりに行ったスアレスのほうがファウルを取られるか、あるいは柴崎のプレーが止まっていないので、そのまま流されるべき場面。

ただし、それは本当に微妙な差だ。審判からすれば、スアレスがボールに行って接触し、転んだように見えるのだろう。

本来ならスアレスにとって、マイボールにするのは難しい局面だったはず。しかし、発想を変え、ファウルをもらってマイボールにした。しかも、柴崎に理不尽というストレスを与えつつ。

コパ・アメリカを見ていると、南米の優れた選手は、ある場面で困難があっても、一のアイデアがダメでも、二のアイデア、三のアイデアを、素早く繰り出してくる。特にスアレスは印象的だ。

たとえば、チリ戦やエクアドル戦で、上田はチャンスを決められなかった。技術的に完璧なコントロールをすれば、万全のシュートでゴールを挙げられたかもしれない。しかし、トラップが足下に入るなど、わずかな詰まりの隙に、相手DFやGKに鋭く寄せられ、窮屈なシュートを強いられた場面が目立った。

技術的に完璧にプレーできれば、フィニッシュは決まったかもしれない。とはいえ、そういったコントロールで小さな失敗が起きることも、試合中には山ほどある。上田だけでなく、前田大然、久保建英にもあった。

問題はそれを、どう修正するかだ。

スアレスならば、二のアイデア、三のアイデアが、咄嗟に出て来るのではないか。たとえば、目先をシュートから、PKねらいに変える。コントロールや競り合いで失敗したなら、理想のシュートを打つことにこだわらず、PKを取りに行く。

ともすれば、ウルグアイ戦の前半29分、カバーニがボレーシュートを打ち切れず、最後の瞬間に植田からファウルを受けてPKにした場面も、それに当たるかもしれない。味方からのロングパスは、植田を完全に振り切れるものではなかったが、シュートではなくPKに変えて、結果はゴール。オーライだ。

また、そんなふうに相手FWに段階的に仕掛けられたら、DFとしては相当やりづらいだろう。

これはほとんどの選手に言えるかもしれないが、日本の場合は最初からシュートを打とうと決めると、その結果、コントロールが足元に入って詰まっても、やはり強引にシュート。そこで目先を変えてPKねらい、といった柔軟さ、狡猾さは無い。

ホップ、ステップ、ジャンプ

それ以外に、ウルグアイ戦は後半アディショナルタイムの西岡氏と川勝氏のコメントも面白かった。こちらもご紹介したい。

パワープレーを行うウルグアイは、FKのロングボールからチャンスを作った。頭で2回つなぎ、落下地点ではスアレスと植田が競り合った。ここでスアレスは、競り合いつつ、胸トラップで収め、振り向きながらのボレーシュートを見舞ってきた。前半序盤のロングシュートも驚いたが、スアレスはどんな状況でもねらってくる。

川勝「やっぱり怖いですね」

西岡「植田は(マークに)付いていたんですが、(スアレスは)その後の反応が速い」

川勝「バランスを崩さないんですよね。それと、ワンプレーに全部パワーを出してしまうと、次のプレーのとき、同じパワーを出すのは、ちょっと難しい。スアレスやカバーニは最初のプレーで余力を残しながら、次のプレーでも同じレベルのパワーを、フィニッシュやパワーに持っていける」

西岡「目いっぱいに行かないと」

川勝「そうですね。三段跳びなんかやれば、わかると思うんですけど、最初に思い切り跳んでしまうと、2本目行かないですもんね。(スアレスらは)パワーの出し方を工夫していると思いますよ」

なるほど。ジャンプではなく、ホップだった。たしかにスアレスは、植田を接触で一度はじき、間合いを作ってから、ボレーシュートを打っている。その一方、競り合いで一発にすべてをかけた植田は、次のタイミングについて行けず、スアレスに寄せ切ることができなかった。

改めて感じるのは、彼らのデュエル(1対1)は、基本的に連打であること。接触においても、アイデアにおいても、次、次とプレーが出てくる。柔軟性がある。それに比べると、日本の選手は最初のイメージのまま、たとえ途中でノッキングがあっても、エイヤッとやり切って失敗する傾向が強い。大迫勇也など、本当に優れた選手はその限りではないが、日本人選手に共通する課題として、二のアイデア、三のアイデアの乏しさは挙げられるのではないか。

コパ・アメリカは色々なことが面白い。その中でもアイデアは、特に印象的だ。もうすぐベスト4も出揃う。日本は敗退したが、この先の頂上決戦もサッカーファンとしては目が離せない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

清水英斗の最近の記事