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9連敗の底なし沼。神戸がはまった要因は? イニエスタの言葉にヒント

清水英斗サッカーライター
ボールを競り合う、イニエスタ(神戸)と野上(広島)(写真:築田純/アフロスポーツ)

22日に行われた名古屋グランパス戦に1-3で敗れ、ヴィッセル神戸のルヴァンカップ、グループリーグ敗退が決まった。

公式戦9連敗。吉田孝行が監督に就任してからは、8連敗。リーグの順位も降格圏ぎりぎりの15位に低迷している。

ズルズルと敗戦を重ね、もはや底なし沼だ。なぜ、このような事態になってしまったのか。

直接的な転機は、4月中旬に起きたフアン・マヌエル・リージョの電撃退任だ。それ以降、チームは軸が定まらなくなった。

その退任について、神戸に非があるかどうかはわからない。リージョ自身、他クラブでも2シーズンと続いた経験はほとんどなく、それは本人に問題があるのか、事情があるのか。また、「私と家族にとってベストの選択」と、個人的な事情であることも匂わせている。いずれにせよ、退任はやむを得ない結末なのかもしれない。

ただし、神戸にクラブとしての問題があるとすれば、それは就任時の吉田監督の言葉に見出すことができる。「守備を修正しないといけない」「ハードワークしないと」。それ以降も守備面の言及は続いた。

もちろん、守備は試合で勝つために大切な要素だが、あまりにも強調しすぎた。それまでの積み重ねを、当たり前にあるものとして、違う方向へハンドルを切りすぎた。リージョ時代の悪いこと探しになってしまった。

吉田監督は「守備ばかり強調すると、守備に意識が行きすぎるので、攻守のバランスが大事」と状況を理解するコメントもしていたが、監督個人の意識と、チームの動きは違う。

アンドレス・イニエスタは、新キャプテンの就任時、次のように語っていた。

−−シーズン開始後の7試合で監督交代となったのは、経験のないことだと思いますが、神戸のプロジェクト継続にとって、監督交代はネガティブなことになりませんか?

「こういった変化があるときは、不安とかだけではなく、いろんな意見が出てくるもの。(省略)。チームとして、やり続けていく仕事は、一緒。これまで続けてきたことを、これからもさらにレベルアップしていくことは変わらない。個人的には、チームのレベルは上がっていって、成長していると思いますので、そういった意味でも、ネガティブなことはないと思いますし、前向きにやっていくべきかなと思います」

出典:【会見全文掲載】イニエスタ選手がキャプテン就任の抱負述べる 「1000パーセントの気持ちで、この役割を担いたい」(ラジオ関西)

「こういった変化があるときは、不安とかだけではなく、いろんな意見が出てくるもの」。

取材経験上、それはよくわかる。吉田監督は「攻撃のベースは変わらない」と言っていたが、チームは生き物である。放っておけば、各人がそれぞれのアイデアで暴走する。良かれと思ってやるから、尚の事たちが悪い。”変わらないこと”にも、努力が必要だ。しかし、吉田監督からは現状の攻撃を評価するコメントよりも、守備を課題視するコメントであふれていた。

これは日本人の特徴かもしれないが、9個の良いことより、1個の悪いことを指摘しがち。その結果、チームはブレる。

チームの統率を取る上では、出来たことの強調こそが、何より大事なメッセージだ。チームが同じ方向へ進むための指針。しかし、その力強いコミットメントが、吉田監督からは感じられなかった。

もし、これが残留争いのシーズン終盤なら、守備の強調は理解できる。しかし、当時はシーズン序盤で、リージョ退任時は、まだリーグ2連敗。果たして、そこまで守備に関して緊急の手当てが必要だったのか?

当時、本当に緊急性が高かったのは、守備は守備でも、神戸がリードした展開でどう守るかだ。90分間の中の一部に過ぎない。そう限定すれば、途中交代や采配でもある程度カバーできる。それまでに積み重ねた攻撃を評価、強調し、失うことなく。

吉田監督の発してきた内容が、サッカー的に間違っているとは思わない。だが、チームを統率する上では、正しいか間違っているか以上に、絞り、定めることが重要だ。チームは生き物だからこそ、シンプルな内容でなければ共有できない。そのコミットメントが弱いことが、今の苦境を招いたのではないか。

右に行きすぎたと、左にハンドルを切ったら、今度は左に行きすぎる。そして結局、右の壁にも左の壁にも当たる。下手なドライバーだ。ハンドルさばきの弱さが、神戸を底なし沼に誘い込んだ。

三木谷氏の現場介入は”するべき”だった

チームに哲学を注入し、がらりと変える手腕と言えば、Jリーグでは名古屋の風間八宏監督と、コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が図抜けている。

この2人に共通するのは、捨てることだ。

たとえば風間監督の場合、守備について質問をすると「守備なんかしない」、「システムは関係ない」など、周りを唖然とさせる言葉が返ってくることがしばしばあった。ただし、その真意は、選手の意識を要らない方向へ引っ張られることを避けるため。誤解を招くことを恐れず、シンプルな言葉で、力強く要らないモノを捨て、一貫性を保ってきた。

もちろん、守備もハードワークも大事。そんなことは言うまでもない。しかし、あれも大事、これも大事と言い始めると、チームは迷走する。それが今の神戸の姿だろう。

この1カ月ほどの間、メディアでは前監督のリージョに対し、オーナーの三木谷氏から現場介入があったのか、なかったのか。その点が取り沙汰され、吉田監督が記者会見で「なかった」と断言するに至った。

だが、吉田監督にこそ、三木谷氏は現場介入するべきだったと思う。「バルサを掲げるクラブが、マスコミに対してシュビシュビ言うんじゃねえ!」と。仮に、緊急で守備を整える必要があったとしても、それを外部に広める必要はない。

実際、吉田監督の就任以降、神戸について伝える記事は、「守備」「ハードワーク」がキーワードになった。取材する記者陣も、「守備の手応えは?」と決まりごとのように質問していたのではないか。それは当然だ。吉田監督が守備をテーマに挙げたから。少なくとも、周囲にそう理解される発言の数々だった。

果たして、その姿は「バルサ化」に合っていたのか。言わなくていいことまで言い、ズレを作ったのではないか。オーナーの現場介入は基本的にNGだが、しかし、掲げたプロジェクトの根幹に反している、あるいは弱める発言なら、そこだけは介入してもいい。「ちゃんと、バルサ化を徹底しろ!」と。もちろん、本来は強化部から行われるべきだが。

負けたとき、チームが良くないときほど、出来たことを評価しなければならない。そうでなければバラバラになる。

変化を起こしたいなら、勝っているとき。みんなが自信を確認できているときがいい。優れた監督ほど、勝った試合後の会見は辛口だ。

神戸を見るにつけ、チームが生き物であることを痛感する。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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