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ねじらない男、吉田麻也。サウジアラビア戦の勝利を導いた守備の秘訣。

清水英斗サッカーライター
アジアカップ2019 サウジアラビア戦(写真:ロイター/アフロ)

アジアカップ・ノックアウトステージ、ラウンド16。日本はサウジアラビアを1-0で下し、準々決勝のベトナム戦へと駒を進めた。

前半20分、コーナーキックから冨安健洋が先制ゴールを挙げると、バランスの悪い攻撃を繰り返すサウジアラビアに対し、日本はボールポゼッションを放棄。守備を固めて1-0で試合を終わらせた。

長所も短所もわかりやすいサウジには、これが一番。この試合について『薄氷を踏むような勝利』と評したメディアには、違和感がある。薄氷どころか、分厚い氷をピコピコハンマーで叩くような試合で、まったくやられる気がしなかった。特に前半は完封。

後半になると、日本は前からボールを奪いに行き、逆に裏を突かれるなど、サウジのシュートが決まってもおかしくない場面は1つか2つあった。だが、大半はシュートコースを切っているし、むしろ大きかったのは、日本のカウンターチャンスだ。1-1に追いつかれるよりも、2-0や2-1に突き放す可能性のほうが高かった。その意味でサウジ戦は、カウンターで追加点を挙げられなかったことが、直近では最も大きな反省点だ。

ショートカウンターならともかく、ロングカウンターであまりにも真っすぐゴールへ向かい過ぎた。これでは単純なかけっこになってしまう。この低く構えた展開なら、後半43分に塩谷司を投入し、柴崎岳をトップ下に移した采配を、もっと早く行い、一度トップ下でタメを作って変化を付けるカウンター、あるいは高い位置でのポゼッション攻撃に切り替えるほうが、効果的だった。

もっとも、やられる気がしなかったことに変わりはない。日本の選手は集中力が高く、かなり声をかけ合ってプレーしていた。その顔を見て、今日は大丈夫だと、少なくとも私は直感した。

それが感覚のみならず、プレー態度にはっきりと表れたのが、前半13分。

コーナー近くで原口元気が突破を許してしまい、クロスのこぼれ球から、サウジにミドルシュートを打たれた。しかし、これを吉田麻也が顔面でブロック。顔をよけない、そむけない。かなりの衝撃だったことは想像に難くないが、吉田はすぐに起き上がり、ボールが切れるまで守備を続けた。

シュートが顔の位置に飛んで来たのは偶然だが、そもそも吉田が、正対してブロックに入ったことに注目したい。身体をねじっていない。

身体の正面は、顔や腹などダメージが大きい箇所が多いため、背中を向けたり、横向きになったりと、身体をねじってシュートブロックに入る選手は、けっこう多い。だが、その場合、当たったボールが角度を変え、ゴールに吸い込まれる可能性が高くなる。このような跳弾にGKが反応するのは、非常に難しい。

トルクメニスタン戦の3点目、堂安律のゴールが好例だ。

シュートブロックに入った相手DFは、堂安に正対できず、身体が斜めになっていた。身体でゴールへの角度を作ってしまい、そこに堂安のシュートが当たり、まるでビリヤードのショットのようにゴールへ吸い込まれたわけだ。

しっかりと正対できれば、当たったシュートが後ろへ流れる可能性は低い。だが、それには勇気とポジショニングの早さが必要だ。吉田はその両方を持っていた。「今日は大丈夫かもしれない」と我々に感じさせる振る舞いを、選手に見ることができた。この事実は、準々決勝以降もポジティブに働くだろう。

次のベトナム戦は、サウジ戦とは真反対の展開になりそうだが、今の日本代表は強い。そうは見えないかもしれないが、強い。グループステージでは準備不足を露呈した日本だが、チームは試合毎に高まっている。

格下と目されるベトナムではあるが、このねじらない姿勢を貫くことを期待したい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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