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アジアを制覇した浦和レッズ。決勝の勝敗を分けたポイントとは?

清水英斗サッカーライター
ACL優勝を果たした浦和レッズ(写真:つのだよしお/アフロ)

浦和レッズ、10年ぶりのアジア制覇!

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝、浦和はアル・ヒラル(サウジアラビア)との第1戦を1-1で引き分けた後、ホームで行われた第2戦に1-0で勝利し、優勝を果たした。

アル・ヒラルは、技術とスピードに優れた攻撃的なチームだった。このような個人能力が高いチームを倒すために、何をするべきか?

アウェーの第1戦は下がって待ち構える守備を行ったこともあり、相手のボランチ辺りでパスの出所をフリーにしてしまい、正確なサイドチェンジからチャンスを量産された。浦和にとって1-1は、むしろ幸運だったかもしれない。そこで、この第2戦は、高い位置からアグレッシブにプレッシャーをかけることがテーマだった。

「今日は長澤(和輝)を上げて、2トップ気味にして、(相手の)センターバックにプレッシャーをかける、ということがテーマでした。センターバックにプレッシャーをかけることで、相手のミスからチャンスが生まれたと思いますし、それはねらった試合展開になったと思います」(武藤雄樹)

システムは第1戦の[4-1-4-1]から、[4-4-2]に変更。2トップ気味の興梠慎三と長澤が、高い位置からボールを奪いに行く。このアグレッシブな守備がはまり、浦和は前半からショートカウンターを量産した。

単純にアグレッシブに行くだけでなく、同時に中盤のバランスも取れていたことがポイントだ。

中盤の並びは左から、ラファエル・シルバ、青木拓矢、柏木陽介、武藤雄樹。このうち柏木は、興梠や長澤に連動し、前へ出て寄せる傾向が強い。一方、青木は「遅れて寄せる形を取った」と、中盤の底に留まって人をつかまえる。

どうしても柏木が前へ出たとき、その背後で、青木の脇にスペースが空きやすい。そこにアル・ヒラルは、左ウイングの24番ナワフ・アルアビドが下がって縦パスを引き出そうとした。

ここで重要なハードワークを見せたのが、武藤だ。相手のサイドバックに張り付かず、中央に絞ってポジションを取り、縦パスのコースを切る。“右サイドハーフ”の武藤が、中央で縦パスをインターセプトする機会が多かったのは、中央のスペースに入ってくる相手を常に気にしていたからだ。ポジショニングは抜群に良かった。

「相手はサイドハーフの選手が中に入り込んできて、サイドバックが上がってくるので、その辺を前半で言えば、僕と遠藤(航)のところで、どっちが中を見て、どっちがサイドバックを見るのか、というところが重要だったと思います。基本的には(サイドハーフが)落ちてくるので、うまく相手をつかまえるように見ていましたし、その辺からインターセプトしてカウンターになりかけるシーンもありました。もちろん、もっと大きなチャンスを作れれば良かったけど、全体的にサイドで破綻することはそんなに無かったと思います」(武藤)

一方、反対側の左サイドハーフには、ラファエル・シルバが入る。守備に気の利く武藤とは違い、突破やフィニッシュの質で違いを見せるタイプのFWだ。実際に第1戦、第2戦ではチーム唯一のゴールを挙げている。

「ラファにはそこまで多くの守備をチームとして求めてないと思います。そのぶんゴールを決めてくれる選手なので。みんなでカバーするところは、もちろん意識としてあったと思います」(武藤)

ラファエル・シルバの横で守備的なポジションを取る青木が、宇賀神友弥や槙野智章と連係しつつ、そして時には柏木も、左サイドのカバーに走った。

攻撃的で前めに行く選手、守備的に後ろをカバーできる選手。それらの個性が互い違いに並び、浦和は中盤のバランスを保つことができていた。

ただし、後半は押し込まれる形が増えたため、2トップのハイプレッシャー、中盤の絡め取る守備のどちらも機能しなくなってきたが、ここで堀監督が修正に動く。

後半23分に長澤と柏木をポジションチェンジし、ボランチの守備力を高める。29分にイエローカードをもらっていた宇賀神を下げてマウリシオを投入し、高さを含めてゴール前で跳ね返すパワーを保証。その後、守備の穴になりがちだったラファエル・シルバを最前線に上げ、武藤、興梠、さらに興梠に代わったズラタンがサイドを補修。次々と守備の穴を修正していく、堀監督の采配は見事だった。

「自分たちがずっとボールを持つ展開になれば良かったですけど、相手の実力があるのは試合前からわかっていたこと。そうなっても(押し込まれる展開になっても)いいように、みんな気持ちの準備はしていました。0-0で行けば、(アウェーゴールの差で)僕たちが勝つルールもあるので、しっかりゴール前で跳ね返そうと。こっちが粘っていれば、相手が先に焦れるのはわかっていたので。相手もなかなか点を決めないことで、フラストレーションが溜まって退場したり、かなりイエローも出ていたと思うので、そういう意味では僕たちがしっかり粘れたことが一つの勝因だと思います」(武藤)

ハードワークを続ける浦和の疲労は濃かった。最後の15分間を耐え抜くのは、かなり高い壁だったに違いない。しかし、後半34分、29番のサレム・アルダウサリが遠藤航に対するタックルで2枚目のイエローカードを受け、退場処分を受ける。

また、アディショナルタイムには、浦和のスローイン時、アル・ヒラルのベンチが武藤に詰め寄る一幕もあった。

「ボールボーイの子に、相手のベンチの選手かコーチが突っかかっていて。あっちとしては早く始めたかったでしょうし、いろいろあったと思いますけど、それは無いんじゃないかと言いに行ったら、あっちが僕のことを押してきたので、そこで少し揉めた感じになりました」(武藤)

自滅。粘る浦和に対し、アル・ヒラルが根負けした。もっと冷静に攻撃を続けていたら、たとえば第1戦のように、ベタッと引いた浦和に対し、精度の高い攻撃を繰り返されたら、もしかすると浦和はゼロに抑えきれなかったかもしれない。しかし、浦和の粘りに焦れ、先に決壊したのはアル・ヒラルのほうだった。

浦和は第1戦のアウェーを1-1で折り返したアドバンテージを、最後までわたさなかった。ゼロに抑えている限り、浦和は勝つことができる。その粘りの前に、アル・ヒラルが自滅した。

MVPは柏木が受賞した。ラファエル・シルバは決勝点を挙げた。彼らはヒーローかもしれない。しかし、それ以上に印象的だったのは、チームが一丸となって執念を見せた浦和の姿だ。

日本代表監督の言葉を借りるなら、浦和にスター選手はいなかった。チームがスターだ。すばらしい優勝だった。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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