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「3人目の動き」とは言うけれど。ブラジルのサッカーに気付かされること。

清水英斗サッカーライター
ネイマールと酒井宏樹(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ブラジル、ベルギーと対戦したサッカー日本代表の欧州遠征。今はそれらの取材を終え、日本への帰路につくところだ。ブリュッセルから電車でパリへ向かい、飛行機に乗る。

その道中、ブリュッセルで肝を冷やす出来事があった。この大都市にはブリュッセル中央駅と、ブリュッセル南駅という2つの大きな駅があり、パリ行きの電車に乗るためには南駅のほうへ行かなければならない。ところが、私は間違えて中央駅へ行ってしまった……なんてことだ。

ベルギーはフランス語とオランダ語、2つの公用語が存在する国。街を歩くと、それらが併記された案内をよく見かける。そのため中央駅も、Central/Centraal(前者がフランス語、後者がオランダ語)、南駅はMidi/Zuidと表記されている。

Midiはフランス語で「南」。ところが、これが単独で印刷されたチケットを見た私は、英語のミディアムからの連想で、ミディ=中央駅と思い違いをしてしまった。Central/Midiと、きっと別表記なのだろうと。だが、それは違う。幸い時間に余裕があったので、南駅へ移動し直し、どうにか間に合ったが、危うく帰国便に乗り損ねるところだった。

実は私、4年前にザックジャパンがベルギーに遠征したときも、同じMidi違いをやらかしている。そのときに学んだはずなのに……。身体に染みついた感覚というものは恐ろしい。同じミスを繰り返してしまった。

間違えて覚えてしまった癖が、なかなか抜けず、少しブランクがあると、また同じように間違ってしまう。みなさんも、そんな経験はないだろうか?

身体に染みついた習慣は、そう簡単には抜けないから恐ろしい。

しかし、習慣に心強さを感じるケースもある。何も考えなくても、正しく箸を持つことはできるし、パソコンのキーボードを叩くこともできる。酔っぱらって記憶をなくした人でも、なぜか自宅にはたどり着く。正しい習慣があれば、頭で考えなくても、身体が自然と正解に導いてくれる。習慣ほど頼りになり、習慣ほど怖いものはない。

習慣―。

日本とブラジルの試合を観戦しているとき、ふと、ある人の言葉が浮かんできた。

「ブラジルはワンツーの国じゃけぇ」

それは6年も前に、『サイドアタッカー キンタ流 突破の極意』という本の取材で話を聞かせてもらったサッカー解説者、金田喜稔さんの言葉だ。

ブラジルの選手たちはワンツーがうまい。緩急をつけたり、タイミングをずらしたり、リターンパスを浮かせて通したり。また、縦に抜くだけではない。日本代表戦の前半12分には、ウィリアンがジェズスとのワンツーで、ピッチを横に通り抜けて日本のDFをかわし、逆サイドのネイマールへスルーパスを通した。縦があり、横もあり。このような変幻自在のワンツーに対し、槙野智章を背負いながら、正確にリターンパスを合わせたFWジェズスもさすがだ。

ブラジルはワンツーの国。2人単位でサッカーをするのが抜群にうまい。それは彼らの習慣だ。頭で考えなくてもやれる。

よく解説などでは「3人目の動きが大切」という話を耳にする。たしかに、パスの出し手と受け手以外のところで動く3人目の選手は、ディフェンス側が視認しづらく、突破のきっかけになりやすい。しかし、3人目とは言うけれど、2人で突破できるのなら、それに越したことはないのだ。局面にかける人数を減らし、他のポジションに人的リソースを割くことができる。

反対の左サイドでも、ネイマールとマルセロのワンツーは質が高かった。そもそもネイマールが酒井宏樹と久保裕也の2人を引きつけるために、2人目のマルセロが空きやすい。

1人が強力だから、2人目が空く。2人で強力だから、3人目が空く。1人、2人が強力だからこそ、「3人目の動き」は怖いものになる。

ハリルホジッチが「守備ブロックを作るブラジルを初めて見た」と語ったとおり、昨今は対戦相手をしっかり分析して、チーム戦術を緻密に組み立てる傾向が強くなったブラジルだが、その根っこにあるのは、彼らのアイデンティティ。ワンツーの国だ。

時代によって変わる部分、監督によって変わる部分があっても、彼らには身体に染みついたワンツーの習慣がある。守備ブロックを作ろうが、カウンター重視にしようが、2人単位で極上のプレーをすることが、すべてのベースだ。

パッと集まった代表チームでも、王国には強さの習慣が存在する。どこかクラブチームのような雰囲気がある。日本もそういうものを確立しなければならないのだろう。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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